なにが為に
親善試合2日目、U15チームの初回からの猛攻は続き2回、先頭打者の夏目が初球をスリーベースヒットでその勢いは止まらない。
ボーイズチームは一旦タイムを取り、内野手全員がマウンドへと集結していた。
「スクイズケアで内野は前な。」
「やろーな。流れがアカンし」
俺の提案に大吾が頷きながら答える
「そもそも何初球から打たれとんねん。
夏目は最重要打者やろ。簡単にストライク取りに行くなやアホ」
「うっ...すまん」
「...悪い」
鷹宮に結構キツく当たられる。
外れてもいいからアウトコースに構えた、なんて
言い訳にしかならない。
焦斗もちょっと落ち込んじゃってる
「まぁ落ち着けや蓮。ここで言い合ってもしゃーないやろ」
「確かにな!」
「なんでお前が答えんねんボケ」
大吾がフォローしてくれて俺がそう言い頷くと再び鷹宮に言われる。
ここからは切り替えが大事だ。次の打者は
荒浪、あいつは絶対に何か仕掛けてくるに決まっている。
冷静に、クレバーに考えなくては。
三塁にいる夏目を目で牽制しながら、焦斗が足を上げる。 と、同時に、夏目がスタートを切り荒浪がバットを持ち替える。
初球から?!
俺がそう思ったのと同時に、焦斗が腕を下に叩きつける。
「「?!」」
ベース手前だ。これが1番取りづらい。
しかも、真っ直ぐ。焦斗の140キロの真っ直ぐだ。
しかしスタートを切っているならこれを止めればアウトに出来る!
そう固く決心し、右打者の荒浪のアウトコース低めに向かうボールに身体を入れる。
捕球はできなかった。しかし身体の前にボールがある。止めれたのだ。
素手でボールを掴み、立ち上がった。
しかし夏目は三塁から少し出ていただけだった。
荒浪も既にバットを引いていた。
揺さぶりか。俺も焦斗も警戒しすぎた。
そこに付け込まれたんだな...。
俺のプレーに大吾や剣心、良平がナイスストップと声をかけてくれた。
我ながら良くやったと思う。だって弾丸みたいな球を前に落としたし。
そして逆に冷静になった。夏目はキレ者だ。
そして荒浪も。西村山中央ボーイズではその
脳みそを生かしてよく苦しめられたものだ。
内野手を前身させる。1点もやらない。
途中降板する可能性が高いといえど、冬木は良い投手だ。1点が命取りになる。
慎重にサインを出す。カーブ、スライダー、ツーシーム。2ストライク2ボールになった。
スクイズはない...と思いたい。
だが何を仕掛けてきてもおかしくないんだ。
俺は生唾を飲み込んだ。
何か違和感があった。なんだ?分からない。
ふわふわしたような、身体が高揚するような感じだ。
そんなことを思っていると、焦斗が振りかぶっていた。ボールが指先から離れる...と、同時に三塁にいた夏目がかけ出す。
スクイズ??いや、荒浪はバットを今から振り下ろすっていう感じだ...
エンドランか...!!
ガキィィン!!
焦斗のスライダーを先っぽで辛うじて当てられた。
「大吾!!」
「くっ...!!」
ボテボテの打球はファーストに転がっていく。
しかし帰ってくるのは容易だろう。
...1点...いや、勝負だ!!
捕球した大吾が、早い握り替えでホームへ転送する。目の端で夏目が外側に逃げたのが見えた。
届くか?!間に合うか?!
ー夏目視点ー
スタートは完璧だ。早過ぎず、遅すぎない。
バッテリーに気取られない良いスタートだ。
そして荒浪、完璧な「叩き」だ。これなら、戻れる!
と思ったが、ファーストの藤が早い。
いや、だが帰れる。
構えている星の外側に足を向け、走る。
ベースの2.3m手前で状態を下げる。
この角度なら手が入る。確実に1点...
一瞬、ミットを構えている星の顔が見えた。
...笑っている??
俺のスライディングの音の後、主審が手を掲げ
声を張る。
「セーーーフ!!!」
その声と共に、球場が湧き上がった。
先制は俺達だ。楓が投げて俺が打った。
3回から楓は降板するだろうが、俺達シニアが...
U15が勝ち取った点だ。
先制点、それで湧き上がる観客達、気分がいい。
気分がいいはずなのに、星のあの笑顔が忘れられない。
なにがそんなに楽しいんだ?たかが1点だから?
同じボーイズリーグの荒浪が打点をあげたから?
いや、そんな笑顔じゃなかった。
あれは....
....
2回の裏、ボーイズチームの攻撃は、4番藤が会心の当たりを見せるも、後続が続かずチェンジ。
3回の表、U15の打順は、下位打線から始まるもランナーを溜め、1アウトランナー1塁となっていた。
「内野、ゲッツーな!外野は長打ケアしっかり!もう一点も渡せないからな!!」
一輝の声が球場に響く。
そして打席にはU15代表、オール神田ヤング出身の9番サード浦田が打席に入る。
スライダー。縦スライダーと2球で追い込むバッテリー。
(よしよし、遊び球は無しだ。インコースのツーシームでゲッツーにスっぞ。)
そう考え、右打席にいる浦田のインコースに構える一輝。
すり足のクイックで焦斗が腕を振る
「あっ」
「バカッ!」
ギィィン!!
浦田に放ったボールは逆球となりアウトコースへ。
焦斗の股下を抜けセンターへ運ばれる。
「しゃー!得点圏!」
「この回も点貰うぞー!」
そうU15メンバーが言い放った瞬間、
パァン!っと、ライナー性の打球がショート鷹宮のグラブにワンバウンドで収まる。
「蓮!!」
ダイビングキャッチをし、寝そべっていた鷹宮を
呼ぶのは、白鳥。
グラブトスからボールを貰い、ベースを踏む。
そしてそのまま一塁へ転送した。
舞鶴ボーイズの二遊間のダブルプレーでこの回はなんとか0点で抑えた。
「ナイスキャッチ!京都ーズ!」
「なんやねんそれ」
「おお!」
一輝の呼び掛けに不満そうな目をする鷹宮、さわやかに返事を返す白鳥。2人は守備の息はあっているが、性格は真逆であった。
「よっしゃ!3回の裏だ!もしかしたら、冬木が
降板するかもしれねーけど、誰が相手でもやることは一緒だ!点とっていこうぜ!!」
「「しゃぁ!!」」
円陣を組んでいるチームを他所に、9番打者の焦斗がベリベリとバッテを付け始める。
すると、そこに監督の智幸が近づいてくる
「おー、焦斗。デビュー戦はどうだったー?」
「...別に、普通でした。」
「そう...か。で?どうする?」
「はい。この打席だけ立ちたいです。
次のピッチャーに負担を背負わせるのは心苦しいですけど、しょうがないので。」
「...」
そう言いベンチを飛び出していく焦斗を、智幸はなんとも言えない顔で見ていた。
その少し後ろでは、一輝も見ていた。
....
焦斗が打席に入ると、ピッチャーの冬木の目に闘志が沸き立つ。
シニア時代、同級生で彼と双璧を成す投手はいなかったのだ。
それ故、彼には自信があった。その自信が、今日の焦斗のピッチングを見て確信に変わった。
(俺を脅かす投手など、この世代にはいない。)
と。
(自惚れではない。誰にも負けないように研鑽を積んできた。万理一空。世代最強投手は、天野でも、泉でもない。この俺だ!)
ズドン!っと決まるストレート。
仰け反った焦斗。だが、判定はストライクだ。
去り際、1番の鷹宮が耳打ちする。
「こっちのエース様も、あっちのエース様みたいな必死さが欲しいねんけどな」
その言葉に、右手のバットを強く握りしめる焦斗。
鷹宮が打席に入ろうとした瞬間、U15代表監督の北条が叫ぶ
「冬木!!」
その目は真っ直ぐマウンドの冬木を見ていた。
「交代か?」と、その場にいたもの全員が思った。
しかし、冬木は真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ北条の方を見て頷いた。
「行かせてください」
北条は確かにそう聞こえた。言ってはいない声が確かに、耳に届いた。
続け様に夏目を見る。夏目も同様、そう言っていた気がした。
北条はふっと笑いながら親指を立て、腕を前に突き出し、大声で叫ぶ
「行ってこい!!」
「「はい!!」」
バッテリーの歯切れのいい返事が帰っていく。
コンコンっとバットの先っぽでスパイクの裏を叩く鷹宮。
「ええなぁ〜。そういうの。嫌いやないわ」
鼻につく話し方、ヌメっとした笑顔。
それをネクストサークルで見ていた一輝は内心で呟く。
(絶対嫌なこと考えてる顔だ)
その表情に、夏目も反応する
「なんの事だ」
「いやいや、そういうお熱いの、青春やなーって思て。」
「なんだと?」
「いま、自分達のこと主人公とか思っとるんちゃう?
あぁ、別にバカにしてる訳ちゃうで?くくく...」
その言葉に夏目が眉をしかめる。
(惑わされるな。しょうもない煽りだ。
楓、いつも通り投げろ。)
自分と冬木にそう言い聞かせ、構える。
ボールゾーンから内角をえぐるシュートのサインを夏目が出す。
冬木は深く頷き、ワインドアップの構えを取り、足を上げる。
(確かにええピッチャーや。
全国1の世田谷区シニアでエース張ってただけはある。
ただ、その癖には気づかんかったんか??)
内心でそう呟き、鷹宮も冬木に合わせて足をスッと上げる。
ビッ!!
ボールを放った瞬間、夏目は鷹宮を見て冷や汗を垂らす
(足を開いて...?!)
オープンスタンスのまま、着地した足、完全に開いた打ち方だ。
鷹宮の体の、ちょうど1番力が入る懐にボールが投げ込まれた。
カッ!! そして芯を喰った音がバットから鳴る
キィィイン!!
金属音がしたと思ったら、既にフェンスにボールが直撃していた。
「くっ...!!ボール2つ!」
慌てて夏目がライトに指示を送る。
ラインのフェンスに直撃した打球は跳ね返り、追っていたライトと真逆の方に跳ね返った。
それを見るやいなや、二塁ベース手前に到達していた鷹宮が足を加速させる。
セカンドまで中継が繋がっていたが、セカンドの辻はボールを握り、投げようとしている所で固まっていた。
既に鷹宮が三塁へ到達していたからだ。
パンパンッっとバッテをはたく鷹宮。
(ええピッチャーやけど、シュート投げる瞬間
グラブから出た人差し指が立ってたわ。その癖を見過ごすほど甘ないで。
ま、登板回数が限られてるからシュート多用してへんかったら分からんかったかもな。)
「絶対に教えんけど」
舌を出しながらそういう鷹宮。
すかざず夏目はタイムを取り冬木に近づく
「すまん飛鳥。甘かったか?」
「いや、注文通りのコースだった。読まれていたか、奴のセンスか、それともなにか別の要因があったとしか思えない。」
「...そうか...」
悔しそうに拳を握る冬木。
その手を、夏目は見ていた
「カラクリが分からん以上、シュートは滅多に投げれない。次の星もそのカラクリを理解しているなら、確実に決める時以外は使わない。
いいな?」
「あぁ。1点もやらんさ」
悔しさを目に秘めた冬木の胸に、ポンッとグラブを当てる夏目。
「行くぞ」
「あぁ!!」
....
ー一輝視点ー
うーん...わからん。
なんで鷹宮はシュートって分かったんだ?
読み合いに勝ったのか?それとも他になんかあんのか??うーん...
俺がそう考えているとタイムが終了した。
バッターボックスへ向かう最中、鷹宮が目の隅に止まった。
鷹宮は人差し指をピンッ!っと立てている。
....何してんだ?あいつ?「俺は打ったのにお前は打てないのか?」とでも言っているのだろうか?
まったく、こんな時でも煽るのを忘れないなんて嫌なやつだ。
俺がはぁーっとため息をつくと、鷹宮は眉をしかめ、同じく深くため息を着いていた。
めっちゃなにか言いたそうだ。
両手で両頬を自分で叩き、気合いを入れ直す。
打席に立つと夏目がまたまたこちらを見ていた。
でもさっきより睨みが聞いていない。表情筋が疲れたのか。
0アウトランナー三塁、最悪は内野フライと三振だ。
サインは...出てない。俺達に委ねるって感じか。
俺はおもむろに外野の守備位置を確認する。
浅くもなく、深くもない、定位置だ。長打ケアの体制だ。
鷹宮の足なら定位置の外野フライでも帰ってくるだろう。
コンコンっとベースの両端をバットで叩き、立ち位置を決める。 俺のルーティンだ。
ズズッ...
後ろから砂が擦れる音がする。
キャッチャーの立ち位置が変わった音だ。
少し遠ざかった音、アウトコースだな。
そう思い、外1本に絞る。
すると初球、冬木の放ったボールが俺の左肩辺りに向かってくる。
?!...抜け球か?!
俺は咄嗟に身体を捻り避ける。
「ストライク!!」審判がそう言った。
は?ストライク?身体付近のボール球だろ?
バッとキャッチャーを見る。キャッチャーの
夏目はボールをがっちり掴んでいた。
ストライクゾーンの球を...だ。
「なんだ?入ってんぞ?」
「あ...あぁ...」
少し上ずった声で答える俺に、気持ちの良さそうな声音の夏目。
やられた。読まれてたのか
そう思ったのは2球目だった。
先程聞こえていた砂を擦る音が聞こえない。
無音だ。さっきのは外に集中させる為のブラフだったんだ。
いいようにやられたのか。
そう思ったのとは裏腹に、俺の口角は上がっていたと思う。
....
ー夏目視点ー
笑った?
俺がそう思ったのは2球目を構えた時だった。
俺のブラフにはめられ、無様に避けた星が笑っていた。
何がおかしいんだ?これも計算の内か?
そう思ったが、先程より不快感がなかった。
星と天野のバッテリーから打ったから?
先制点を取ったから?いや、多分違う。
2球目はツーシームをカット、3球目は外れる。
4球、5球、6球と粘られる。
その都度、「あー!」とか、「おしー!」など
感情を露わにする星。
こんな星は見たことがない。という顔をレフトの喜田がしていた。荒浪はニヤニヤ笑っていた。
「タイム!!」
一塁審が声を張り上げる。
その声に、ハッとし、我に返った。
ファーストの荒浪が靴紐を結ぶ為に審判にタイムをかけたようだ。
「...」
「...」
俺と星に沈黙が走る。
俺は星に声をかけてみた。
「なぁ...星」
「え?何?」
少し聞きたいことがある。どうしても、今この場で。
「なんでお前は野球をそんなになるまでやってんだ?」
「え?それ、今聞く?」
「今だからだろ」
「ん〜...」
顎に手を当てて考える星。
ファーストの荒浪は解けてもない靴紐をずっといじいじしている。
「好きだから...いや、楽しい...から?」
「...」
「野球って楽しいだろ。初めてグローブをはめてしたキャッチボール、バットがボールに当たって飛んでいった時の爽快感。相手がいつも違うからいつも違う楽しいがあるじゃん?」
「楽しい...」
「その楽しいのために、練習してるんだよ俺」
星がそう言ったのを皮切りに、プレイが再開する。
楽しい...楽しいか。
いつから俺は人に見てもらうために、注目してもらうためにバットを振ってきたんだろう。
パン!っとグラブを叩き構える。
「来い!楓!」
「!...飛鳥..ふっ...」
俺の呼び掛けに楓が微笑む
グッと足を上げ、腕を振る。
ボッ!!
カッ!!
目の前でバットの芯がボールを捉えたのをはっきり見た。
そのボールは遠くに、さらに遠くへ飛んでいく。
レフトの喜田がフェンスに手をかける。
だが諦めた。のに、微笑んでいた。
「入ったー!!逆転ツーラン!!」
「しゃぁぁー!!!」
盛り上がるボーイズベンチ、膝に手を置く楓。
打たれた。1番打たれたくなかった相手に、それも逆転のツーランホームランだ。
喜びながらベースを回る星。
俺の口角は勝手に上がっていた。




