シニア勢
「よっしゃーラストー!」
両チームの挨拶が終わり、ボーイズチームが守備に着く。
キャッチャーの一輝がボールバックを宣言し
セカンドへ送球する。
春の全国大会以降、怪我で試合に出場していない一輝だったが、入念なリハビリ等もあり、特に試合への不安感などもなかった。
ー一輝視点ー
ホッとボールをセカンドへ送球する。
少し逸れたが、鷹宮がそれを難無くキャッチする
セカンドの白鳥のカバーも完璧だ。
迫も良い二塁手だったが、同じチームでやってきたショートの鷹宮とは連携が上手い。
なんせあのワガママをカバーしてきたんだからな。
俺が送球を終え締まっていこうと言い腰を下ろすと、テクテク歩いてくる相手の1番打者。
するとその打者が声をかけてくる
「よぉ星。怪我は大丈夫そうなのか〜?」
鼻につくニヤケ笑いをしているそいつ。
俺はすぐさま質問する。
「えー?どちら様でしたっけ?」
「喜田幸輝だよ!喜田!めんどくせぇなお前は!」
「はははっ!そういいつつちゃんと返すから
お前は面白いわ」
喜田幸輝。瀬田ボーイズキャプテンで俺はこいつとは、まぁーそれなりに関わりがある。
いつもは煩わしいこいつの怒声もなんだか久しぶりだからちょっとだけ嬉しい
「喜田がU15に選ばれるとは思ってなかったよ
デジチャレ通ったんだな」
「はっ!まぁな!お前の居ない西東京はつまんねーから世界でも取ろうと思ってな」
「いやいや夏の決勝長房に負けたんだろ」
相変わらず態度がデカイ。小学生の時はチビだった反動でか身体と共に態度が巨大化してやがる
「荒浪もいんだぜ?」
「知ってるよ。昨日「見た」から」
「見た...か。」
俺のその言葉に少し嬉しそうにする喜田。
昨夜の事だ。
「おー結構すげーメンツだな〜」
「うん。喜田君も荒浪君もそうだけど
シニア勢が固まってるって印象だよね。」
俺は今日の試合の事を考え結とほか数名の選手達とU15メンバーの事をビデオで見ていた。
そこにはもちろん喜田と荒浪の姿もあった。
自他ともに認める野球オタクの結だ。
ボーイズから選出された選手はもちろん、
シニア、ポニー、ヤングといった他リーグの選手の試合のビデオを持ってきていた。
本当に頭が上がらないな...
俺がそんなことを考えていると、主審がプレイボールのコールをする。
マウンドにいる焦斗はいつも通りだ。
いつも通りのポーカーフェイス。
そして俺もいつも通りこの投手をリードすればいいだけだ。
俺が出したサインに首を縦に振る焦斗。
その初球、足を上げ体を縮めたと思えば
バッと体を大きく広げる。
焦斗のいつもの投球フォームだ。
思い切り振った腕、ミリミリと音を立てながら
ボールと指先が離れる。
パァァァン!!
その真っ直ぐに球場が静まり返る。
これだ。この焦斗の真っ直ぐがいつも俺らを
助けてくれた。
いつもと違うのは臙脂色のユニフォームが
今日は青の二本線が入ったスプライト柄だという
事だけだ。
バックを守っているのはその焦斗の
ボールに真正面から向き合ってきた強者たち。
ワクワクなのか、焦斗のボールの威力が強いからなのかは分からないが、俺は身震いが止まらなかった。
...
ー夏目飛鳥視点ー
天野の真っ直ぐに皆驚いている。
噂では聞いていたが凄まじい直球だ。
皆がたじろぐのもわかる。
....それでも....いや、それがなんだと言うんだ
「打てそうか?天野のあの球は」
ベンチに座りよく観察している俺に話しかけてきたのは、同じ世田谷区シニアで汗を流してきた
相棒投手、冬木楓だ。
「...お前はどう思う」
「俺の本職は打撃では無い。なぜなら俺は投手だからだ。そしてシニアではいつも難敵を葬ってきたのはいつだって飛鳥、お前じゃないか。」
手でメガネをかけ直しつつそう話す楓。
そう、シニアで俺らは敵無しだったんだ。
春野や秋山でさえ、俺たち世田谷区シニアには
勝てなかった。
俺がそう思っているのを尻目にゲームは進んで
行った。
喜田は2ストライクまで追い込まれたが何とか
食らいついていた。
天野の球に食らいつけるほどの打撃センス、
そんなあいつもボーイズリーグ....
ー再び一輝視点ー
パァァン!
「ボールツー!」
ボールゾーンからアウトローに入っていくスライダーを喜田が見逃した。
去年なら空振り三振を取れていた配球だったが
喜田は見逃した。成長しているのは俺らだけじゃないって事だな。
それにしてもおかしい。喜田が成長しているのは分かる、スイングも鋭いし際どい所も見逃す、
なのに焦斗の球は中々決まっていない。
焦斗がおかしい?いや、球は来ている。いつも通り間をしっかり使った投球もしている...
そんな不明確な不安が今の焦斗にはあった。
いや、今は考えるのをやめろ。
不安は周りを巻き込む。
ただ焦斗を導けば良いんだ。
パァァン!!「ストライクバッターアウト!」
最後は高めの真っ直ぐで三振を取った。
当たれば何かあるというスイングだったが心配しすぎたな。球威は良い。
喜田は去り際、バッターボックスの土を慣らして
打席を後にした。
ベンチへの道中、次の打者に何か耳打ちをしていた。配球の詳細だろうか?
「お願いしますっ♪」
軽薄そうな男がそう挨拶し打席に入ってきた。
牧形シニアの秋山玲人、牧形シニアといえば
シニアリーグでは全国常連の大阪のチームだ。
相手チームの情報は全て昨日の結とのミーティングで頭に入ってる。
こいつは明らかなアベレージタイプ。
通算打率も4割を超えてる。
タイプ的には迫のような打者だ。
俺はそんな事を考えながらも焦斗にサインを出し
構える。油断はない。
その初球、内からボールゾーンへ逃げていく
スライダーを要求、焦斗は見事に投げ抜く。
流れそうなミットをがっちり固めたら審判が
手を挙げた。
これはラッキー。外れてもいいと思ってたがストライクならありがたく貰おう。
「...いいキャッチングだね♪」
「あぁ...ありがとう」
俺のキャッチングを見てそういう秋山。
だがそれはまるで自分の目からしたらボールだぞと言っているようだった。
するとニヤリと笑い構える秋山。
2球目、真っ直ぐがアウトローに向かってくる。
要求通りだ。これも見逃すは....
俺がそう思った瞬間、秋山のヘッドが走る。
甲高い音を立てボールが逆方向のレフトへ
伸びていく。
いきなりジャストミート?!
俺がそう思っているのと同時に、焦斗も打球の方向を見ながらありえないという顔をしていた。
それはそうだ。あの難しいコースを振りに行った
どころか綺麗にレフト前に運ぶのだから。
俺はすぐさまバックセカンドの指示を出す。
秋山は俊足好打の打者だ。一塁を蹴り二塁へ進もうとした瞬間、レフトから矢のような球が
二塁へ向かい送られる。
「うおっとぉ!」
少し逸れた。しかしセカンドの白鳥がそれをしっかり捕球する。秋山はバツの悪そうな顔で一塁で止まっていた。
レフトにいる男、いや、大男と言っていいだろう
長房だ。192cmの大柄投手がそこを守り送球していた。
「サンキュー!長房!」
俺の掛け声に長房は手をヒラヒラさせる。
余裕だよと言わんばかりのその態度。
やっぱりあいつは頼りになりすぎるな。
「すんごいニャ〜。長房も投げるんかにゃ?」
ニャ?! なんだその変な語尾は。
歩いてくるのは3番ショート、春野。
取袖シニアだったかな...変なキャラ付けだ。
こいつも1番の喜田と2番の秋山同様、左打席に入る。
春野は足は早いが守備範囲はそうでもない。
いや、御手洗や鷹宮、迫と比べてるだけで別に悪い選手って訳では無いんだけど...
特筆すべきはその打力だ。ショートのパワーヒッター。中学通算は23本塁打って聞いた。
取袖シニアはジャイアンツカップを2連覇した
強豪シニア。
ジャイアンツカップはシニアやボーイズと様々なリーグの強豪校が競い合う大会だ。
その主軸にいたのがこいつ...。
油断はするなよと焦斗に、釘をさしつつ
サインを組み立てる。
初球はインハイに抜け球のカットボールが決まる
正直持ってかれると思ったが、見逃した。
2球目、3球目は様子見のボール球。
一塁にいる秋山は世代きっての俊足だ。
しかし盗塁する様子はない...
ここは勝負だ。
そう思い、インコース低め、真っ直ぐを要求する
焦斗が足を上げ勢いよく腕を振り下ろす。
インロービタビタ!
俺がそう思った瞬間、春野がバットを振る
カァァァン!!
「「ナニッ?!」」
俺と焦斗は2人同時にそう声を上げていた。
ライトへぐんぐん伸びる打球。
ライトを守る毛利がファールゾーン壁際に手をつく。
超えるか?いや、打球は失速している。
巻かないはずだ。フェンスを超えてもそのまま
ファールだ。
ほっと一息ついた俺、ライトの毛利が捕球しようとした瞬間、一塁ベースに目が止まる。
ベースの後ろで打球を見上げている大吾。
その手前、一塁ベースに足をかけている者がいた
秋山玲人だ。
いや、まさか...毛利の肩だぞ??
やるわけが無い。そんなはず無いんだ。
そんな俺の思いとは裏腹に上がっているボールを目で追う秋山。
確信する。これは間違いなく...「行く」と。
「毛利!バックセカンドだ!!」
「はっ?!」
その声に毛利も一瞬戸惑う。
グラブがボールを掴んだ瞬間、ダンッ!っと
ベースを勢いよく、思い切り蹴る。
くそっ!失念してた...!秋山はシニア時代
レフトに上がったフライで二塁から進塁していた
そのビデオ昨日見たばっかだっつーのに!
「おいコラ...クソ赤ほっぺ...テメー俺を
誰だと思っていやがんだよ!」
毛利がそうつぶやき助走もなしに振りかぶる
ボッ!!
毛利が放ったボールが、一直線にセカンドへ
向かっていく。
速い。空中で加速しているようだ。
だがタイミングはギリギリだ。
いや、少し秋山の方が速いか?!
ショートの鷹宮が二塁ベースに入る。
斜め右にいる審判がベースを凝視する。
「ちっ...」
瞬間、審判はベースを見失う。
鷹宮が体を入れベースを隠したのだ。
そこから流れるようなタッチをする。
秋山は綺麗なスライディングをする。
...どっちだ??ホームベースからだと若干秋山の方が早く見えたぞ??
球場に静寂が訪れる...
審判のコールを待っているのだ。
だが審判は冷や汗を垂らしている...決めあぐねているのだろう。
「....アウト!!」
「なっ?!」
審判のそのコールに秋山が信じられないという
顔をする。
グラブからボールを取り出し空中でボールを回転させ、得意げな顔をする鷹宮
「おつかれさん」
憎たらしい表情だ。先程まで余裕そうだった
秋山は歯をギリッと鳴らす。
...助かった...。毛利の、そして鷹宮のファイン
プレーだな。
逆に無警戒だった俺のミスだ。
ベンチに戻りながら焦斗が毛利に感謝を述べるが
毛利はどこか不服そうだった。
プライドの高いあいつの事だ、秋山に自分を
低く見積もられたと思ったのだろう。
それを鷹宮に助けられた事も気に食わないのだろう。
「ええボールやん。なぁ?毛利」
「クソがっ!」
ニヤニヤしながら毛利の肩に手を置く鷹宮、
その顔は邪悪な顔をしていた。
意地の悪さは相変わらずだがやはり技術はホンモノだ。頼むから喧嘩しないでくれよ
「ん」
「ん?あぁ...ありがと...う?!」
キャッチャーボックスにいる俺に落ちていたマスクを拾ってくれた男がいた。
まさかの夏目飛鳥だった。
「わ、悪いな」
「...全て計算のうちか?」
「え?」
「秋山を刺せると計算していたのか?っと聞いているのだ」
「いや...毛利と鷹宮のおかげだよ。
俺は油断してたし...」
その言葉に夏目は眉をピクっと動かす
「その謙遜も...鼻につくんだよ」
「え??」
何か言っていた。小さい声で。
審判に促され俺はベンチへ戻っていく。
....
次は俺らボーイズ代表の攻撃だ。
守っているU15チームは
ショートに春野、センターに秋山、レフトに喜田
あ、荒浪はファーストなんだ。
そしてバッテリーは世田谷区シニアの黄金バッテリー、ピッチャー冬木楓、そしてあの荒浪を退けて座っているキャッチャーは夏目飛鳥。
あの二人のこともそれなりに勉強した。
冬木楓、最速141キロのストレート、そして
手元でグッと曲がるシュートの二本を組み立て
相手を翻弄するピッチャー。
そして相棒の夏目飛鳥、あいつは多分、俺よりも
頭がキレる。そして何より、肩だ。
俺よりも強いはずのあの肩...侮れん。
そんなことを俺が考えていると
1人の男が声をかけてくる
「ナニ考えとんねん。邪魔や」
大魔王鷹宮様だ。ツンツン態度は変わらないですね。
「あぁ...すまんすまん。」
「お前2番なんやからはよ防具脱げや」
「あぁ。そうだな。歩いて帰らせてやるから
一塁で止まってていいからな」
「はっ!ダレに向かって言ってんねんアホカス」
そう言い鷹宮が打席に向かっていく
ご視聴ありがとうございました!
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