解決編③
そう指摘されたのは、ひかりちゃんだった。
「な、なんで、ひかりちゃんが――」
私はある程度覚悟していた。容疑者の中に私を含めた五人の誰かに犯人がいるって、朝倉くんが断言したのだから、こういった予想はしていたつもりだった。
だけど、こうも考えていた。
実は五人の中には犯人がいないんじゃないかと。
確かにアリバイがないのは確実だろうけど、それでも全校生徒と教員、用務員の中にはアリバイのない人はいるはずだ。
だから、親しいなんて理由で犯人扱いされているのは間違っているって、心の奥底では思っていたのかもしれない。
しばらく思考が停止してしまった。
私だけじゃない、阪本先輩もあかねちゃんも信じられないって顔でひかりちゃんを見つめていた。
「山城さん、どうして柿本さんをあんな方法で殺したのかな?」
朝倉くんはひかりちゃんを追い詰める。
冷たく静かに冷静に。
その質問にひかりちゃんは答えなかった。
ただ震えている。
何かに怯えているような。
何かに恐れているような。
そんな震え方だ。
「どうして、分かっちゃったのかな?」
ようやく答えて、口に出たのは、自白そのものだった。
「……ひかり、本当なの?」
「嘘だろ……なんで……」
二人から出たのは驚愕。
表情も凍りついている。
「気づいたのは、浅井さんの一言だよ」
朝倉くんは肩を落として答えた。
「トリックが分からなくて悩んでいたとき、浅井さんは『時間があるんだから引き上げよう』って言ったんだ。そこで気づいた。今まで落とすことばかり考えていたけど、逆に引き上げて落とせば、それはそれで立派な飛び降り死体になる」
「そうじゃなくて――どうして私だと思ったの?」
「うん? いや、今の今まで分からなかったよ」
朝倉くんはあっさりと白状した。
「ぼくと浅井さんを除いた三人は全員アリバイはない。まあぼくと浅井さんもアリバイがないのは同じだけど、それでもぼくは犯人じゃないし、浅井さんも違うと確信できた。だから最後のロープの跡ぐらいしか犯人を特定できなかったんだ」
「…………」
「だからこうして認めてくれて良かったよ」
朝倉くんの言葉を聞いて、ひかりちゃんはその場に座り込んでしまった。
「じゃあ、もしも跡が残っていなかったら、逃げ切れたのかな」
「可能性はあるよ」
「……きゃはは」
力なく笑ってしまうひかりちゃん。
「なあ、なんで従姉妹を殺したんだ?」
阪本先輩が唐突に話し出した。
「あんだけ仲が良かったじゃないか。あんだけ楽しそうにしてたじゃないか。なのに! どうして殺したんだ! 言え!」
阪本先輩はひかりちゃんの肩を掴んで揺り動かした。激しく、強く、動かした。
「おい、君、やめなさい!」
直江さんがひかりちゃんから阪本先輩を引き離した。
「離してよ! どうして! どうしてあきらを殺したんだ! なんでだ!」
「……私のものじゃなくなったから」
ひかりちゃんの言葉がみんなの動きを止めた。
「どういうことだい? 柿本さんは元々、君のものだって言いたいのかな?」
「そうだよ。私のものだったんだ」
ひかりちゃんは立ち上がり、私を睨みつけた。
「あんたが居なければ、良かったんだ!」
まさか――
「私が原因なの?」
恐る恐る答えると「そうだよ!」と強く言い放った。
「あんたが私からアッキーを奪ったんだ! 殺したかったのはあんたのほうだよ! あんたなんか死んじゃえば良かったんだ!」
さっきまでの落胆した表情から一転して、厳しく私に当たってくるひかりちゃん。
「あんたがいなければ――」
いきなり立ち上がり、私に詰め寄ってくるひかりちゃん。私は避けることもできずにそのままもつれこむように倒れた。
「あんたがいなければ、良かったのに!」
振りかぶられる拳。殴られると思った。
「やめなよ。そんなこと」
そう言って、止めたのは朝倉くんだった。
女子と男子の力の違い。
そのまま私とひかりちゃんは引き離された。
「邪魔しないで!」
「何言っているの。邪魔しないと浅井さん殴るでしょ。大江さん押さえといてください」
大江さんはひかりちゃんの両腕を掴んで離さない。
「離せ! 離せ! 離せ!」
そうやってしばらく暴れていたけど、無駄だと気づいたのか、おとなしくなってしまった。
「大丈夫? 浅井さん」
朝倉くんは手を差し伸べて、私を立たせてくれた。
「ありがとう……」
「さて、どうしてあんなことをしたのか、話してくれるね」
朝倉くんの言葉に「いいよ。話してあげる」と答えるひかりちゃん。
眼光が鋭く、私に突き刺さってくる。
「この女がアッキーを私から奪ったの」
「奪うって、まるで付き合っているみたいだけど、まさか同性愛なのかな?」
「違う! 私はそんなんじゃない! 私たちは、そんな関係じゃない!」
「ますます分からないな。だとしたら、どういう関係だったのかな?」
ひかりちゃんは「家族のように大切な人だった」と答えた。
「私たちはいつも一緒だった。幼稚園も小学校も中学校もこの学校でも一緒だった。これまでも、これからも一緒に居られると思っていた。だけど、高校に入ってから変わってしまった」
そして私を睨みつける。
「あんたが私とアッキーの時間と空間を奪った。何かにつけて私とアッキーの邪魔をして言葉を奪った。でもそれだけなら耐えられた。だけど、アッキーの一番を奪ったのは許せない」
一番? なにそれ?
「アッキーはいつの間にかあんたのことを中心に考えていた。私じゃなくて、あんたを軸に考えるようになった。それがどんなに辛かったのか、どんなに寂しかったのか、あんたには理解できない!」
身勝手、自分本位の理屈。
「一番アッキーのことを想っていたのは私なんだ! アッキーのことならなんでも知っている! アッキーのためなら誰だって殺してやる! 私は、アッキーのために生きていたんだ! どんなことになっても、それは変わらない!」
溜まっていたものを一気に吐き出すかのように、ひかりちゃんは言う。
「なのに、どうして殺したんだ? 物事にはきっかけはあるはずだよ」
朝倉くんの質問に、ひかりちゃんは深く息を吸って、そして言う。




