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俺のスマホのAIだけ、ダンジョンの答えを全部知っている〜クビにされた配信の裏方、元職場が狙うボスを先に倒してバズる〜  作者: 月見まっちゃ
第3章

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第28話 切り抜きが消された日に、エキストラさんが初めて歩いた

 300万回再生された切り抜きを開くと、1行だけが残っていた。


[この動画は、著作権の申し立てにより削除されました]


 下の行に、申し立てた者として、アセントの名前がある。


 昨日の午前、元上司の堂島さんの誘いを、協会の休憩所で断った。今は翌朝で、中野の自分の部屋にいる。机の脇には、組み上げた3体目の人形、エキストラさんが、まだ一歩も歩かないまま立っている。


 堂島さんの声が入った切り抜きも開いてみた。

 200万回再生されていた所に、同じ1行が出た。


 この画面なら、よく知っている。

 所属の冒険者の配信を無断で使った切り抜きを探して、申し立てを出す。アセントの配信制作部で、毎週俺がやっていた仕事だ。

 断ったのが昨日の10時で、申し立てはその日の夜には通っている。


 堂島さんは、数字がいちばん出ている所から片づける。

 間違っていないから、余計に腹が立つ。スマートフォンを置く音が、自分で思ったより大きかった。


 SNSには、消された切り抜きの転載がもう何本も回っていた。消したことに怒った人たちが貼り直していて、再生はかえって増えている。

 それなのに、登録者数は昨日から動いていない。


 46万。


 アセントの公式チャンネルは120万のままだ。


 転載は回ってる。でも、そこから俺のチャンネルへ来る人がいない。


 アーカイブのコメント欄にも、朝から書き込みが積もっていた。


『消されてる』

『汚ねえ』

『権利者削除って、そこまでやるか』

『スーツの人、何か言い返せよ』


 入力欄を開いて、2行書いた。

 送る前に消した。

 競争の日の前から、言い返す文は一度も送っていない。今朝も同じだ。


 アセントが1秒も映らない映像なら、誰にも消せない。


 机の脇のエキストラさんを、胸に抱え上げた。


 ◇


 昼すぎの電車では、エキストラさんを制作部にいた頃の古い機材ケースに入れて胸に抱え、つり革につかまった。無傷の人形のADさんは背中のキャリーだ。

 スーツの男がケースを抱きしめている姿は、向かいの席の子どもにしか受けなかった。


 新宿ダンジョン第1層の、行き止まりの脇道の入口で、ドローンを放して配信をつける。題は〔新宿ダンジョン 人形の修理と、3体目〕にした。


 同時接続数は競争の日にとても届かない。切り抜きが消えた翌日なら、こんなものだ。


 《収納》から肩の予備の外板を出して、肩の外れた人形のスタントさんに付ける。スタントさんの膝は、買っておいた材料を使って《鍛冶》で作り直した。何度目かになると、早回しの音を聞いている間に終わる。

 最後に、エキストラさんを入口の脇に立たせた。スタントさんから外した古い関節で組んだ継ぎはぎの体で、膝だけは店でいちばん安い新品だ。


「こちらが3体目です。エキストラさんといいます」


『継ぎはぎじゃん』

『膝だけ新品』

『胸に割れ目ある』

『3体目きた』


「柏木さん!」


 大盾を背負った朝比奈さんが、脇道に駆け込んできた。腕の画面を、こっちに突き出している。


「切り抜き、消されてますよ。アセント、なんで今さら」

「昨日、元の会社の上司に会いました。朝比奈さんも一緒に所属しないかと誘われて、断りました」


『断ったの!?』

『え、引き抜き?』

『アセントの誘いを?』

『それで消されたのか』


「わたしも?」

「朝比奈さんのことは、朝比奈さんが決めることなので。返事はしていません」


 朝比奈さんは袖の安全ピンを留め直した。


「じゃあ、わたしの分は、わたしが断ります」


 誘われる前から断ると決めている人を、初めて見た。


「それと、第10層の中間ボスに挑む準備、進めてますから。中身は言いません」

「聞いてないです」

「聞かれても言いません」


 ◇


 肩と膝が付いたところで、腕の画面でAIを開いた。配信に声が乗らないように、黙って入力する。


「なあ。3体目も戦いに出して、中層の、パーティが引き返すような相手を倒したい。何を、どうそろえればいい」


 左耳のイヤホンに、答えが届く。


[いい質問ですね! 結論から言うと、第12層の石柱の部屋に出ることのある、大ムカデの強い個体です]


 中層の、それも強い個体。聞いたのはこっちだが、いきなり大きいのが来た。


[協会の資料には載っていませんが、頭上から、いちばん大きく動いている物へ落ちます。浮いているドローンは、獲物と見ません。噛んだ物が暴れている間は、頭が床から離れません]


 噛まれる役が1体いれば、残りで頭を取れる。


 その下に、長い胴で巻きついて絞め上げることと、機械の人形には毒が効かないことが続いていた。

 その先の長い箇条書きを、親指でいちばん下まで送っていく。

 要る物の欄には、3体を一度に動かすための《人形操作》のLv4。


[3体を動かし続けると、柏木さんのMPでは、およそ8分です。激しく動かすほど、早く尽きます]


 8分。

 《並列思考》Lv1で別々に動かせるのは2つまでで、3体目はどちらかと同じ動きになる、とも書いてある。

 いちばん下の、次は計画をまとめましょうか、という行まで読んでから、画面を一度上へ戻した。


 読み飛ばしかけた行に、大ムカデの牙のことが書いてあった。


 AIの画面を閉じて、ステータスを開く。


 スキル:《人形操作》 Lv3

  戦闘人形を、指の動きと念じることで動かす。

 《人形操作》を Lv4 に:スキルpt 5(はい/いいえ)


【《人形操作》がLv4になりました】


 エキストラさんに、頭の中で歩けと命じた。


 膝の関節が小さく鳴る。

 右の足が床から浮いた。


 一歩。


 継ぎはぎの体が、自分の脚で、脇道の石の床を踏んだ。


 もう一歩。


「歩いた!」


 朝比奈さんの声が脇道の奥まで響いた。

 エキストラさんを止めて、コメントを読み返す。


『置物じゃなかったのか』

『初めて歩くとこ見た』

『よちよち』


 組んでから2日で、やっと戦える数に入った。


「3体、いっぺんに行きます」


 スタントさんを左の壁際へ、ADさんを脇道の真ん中へ、別々に歩かせる。エキストラさんには、ADさんと同じ動きをしろと命じた。

 白いADさんの斜め後ろを、継ぎはぎの人形が同じ歩幅で付いていく。


 ADさんが一歩出る。

 エキストラさんも、一歩出る。

 一拍遅れて、膝だけがかくんと沈む。


「ちょっと待って、エキストラさんが」


 朝比奈さんが盾に額を当てて、肩を震わせている。


「主役の真似してる……」


 3体を止めて、コメントを読み返した。


『エキストラの動きで草』

『一拍遅れて膝かくってなる』

『主役の後ろ歩く新人』

『継ぎはぎの人形かわいい』


 店でいちばん安い膝を選んだのは、俺だ。


 動きは2つまでしか分けられない。なら、同じ動きでいい所は、同じ動きにする。


 配信の画面に映らないように、腕の画面で、明日の作戦を1行ずつ書くメモを開いた。

 真ん中に、いちばん大事な行を入れる。スタントさんとADさん、同じ振り付けで、左右から頭へ。

 最初にやることを書く1行目は、まだ空けておいた。台本でも、最初の行がいちばん決めにくい。


 3体を運ぶ手も考えないといけない。背中のキャリーは1つきりだ。


【《収納》がLv4になりました】


 スタントさんとエキストラさんに手を触れ、《収納》にしまう。ADさんは今までどおり背負っていく。明日は、電車でケースを抱かずに済む。


 メモのいちばん下に、1行だけ足す。


 牙は、倒したあとに残っていたら拾う。


 残りのスキルptから8を、戦うためのスキルでなく、部品を作る《鍛冶》に振った。


【《鍛冶》がLv2になりました】

【《鍛冶》がLv3になりました】


 スキルpt:9


『なんでまた鍛冶』

『戦えるスキルに振れって』


 答えないまま、ドローンのレンズを見た。


「明日は、第12層に行きます。本日は、ここまでにします。ご覧いただき、ありがとうございました」


『12層!?』

『中層じゃん』

『ソロで?』

『明日絶対見る』


 配信を切って、もう一度作戦のメモを開いた。

 空けておいた1行目に入力する。


 エキストラさん、噛まれる。


 隣から、朝比奈さんが画面をのぞき込んだ。


「……エキストラさん、台詞もないのに、いちばん痛い役じゃないですか」

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