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俺のスマホのAIだけ、ダンジョンの答えを全部知っている〜クビにされた配信の裏方、元職場が狙うボスを先に倒してバズる〜  作者: 月見まっちゃ
第2章

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16/25

第16話 切り抜きの作り方なら、俺のほうが知っている

〔新宿〕アセント下見情報流出の件 Part1


 アセントの投稿の翌朝、起きて最初に開いた掲示板に、下見の情報が漏れた件のスレッドが立っていた。


38:名無しの冒険者

アセント公式の昨夜の投稿

・先日予定しておりました新宿ダンジョン第10層の企画配信に関しまして、当社が事前に行った下見の情報の一部が、外部に流出した可能性を確認しております


39:名無しの冒険者

>>38

第10層の企画って、スーツで潜ってる人形使いに先に中ボス倒されたやつだろ


40:名無しの冒険者

スーツの人のスレの Part1 の24番。最初の頃の書き込み

>この人の声、アセントの配信で裏方やってた人じゃね?


41:名無しの冒険者

つながった

元社員なら、社内の下見で中ボスの倒し方も知ってたわけだ

そりゃ一発で固まらせるわ


42:名無しの冒険者

>>41

倒し方まで知ってたなら、アセントの看板パーティが下見で引き返すか?

あとアセント公式の配信一覧、全部見てきた。第10層の奥に入った回なんて1本もない

スーツの人が第10層の奥で倒してる角鹿のことは、どこから流れたんだよ


51:名無しの冒険者

スーツの人と組んでる盾の子も元アセントの養成所だろ

二人ともアセントとグル


52:名無しの冒険者

もう切り抜き出てる

〔切り抜き〕スーツの人形使い、元アセントの裏方だった

朝の時点で20万回。戦いの最中に人形の膝直した方の80万回に追いつくのも早いぞ


53:名無しの冒険者

>>51

お前がグルだと思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな


 俺の名前を書いたのはアセントではない。このスレッドを読んだ側だ。

 この分なら、アセントは最後まで、自分の口では名前を出さずに済む。


 ◇


 職人の店で膝の関節の部品を受け取り、昼前には第1層の脇道の入口に座っていた。

 代金は前の晩に払ってあるので、残高の2,000円には手を付けずに済んだ。済んだと言えるほどの額でもない。

 前の晩に立てた計画の一番目は、膝の取り付けを最初から最後まで、切らずに映すことだった。

 ドローンを浮かべて、配信をつける。


 同時接続数は、つけて数分で、修理を配信した日の最大を越えた。

 膝の切り抜きの客だ。


『膝直すとこ見に来た』

『仕込み』

『台本あるだろ』

『普通に見たいんだけど』

『どうせ編集で切ってる』


 コメントの半分が、最初からこの調子だった。

 編集で切る、という疑い方は、切り抜きを作る側の言い方だ。どこで切れば話が変わるかを知っている人の。

 俺も5年、アセントで配信を作る側にいた。


 言い返す文句なら浮かんでいた。口に出さなかっただけだ。


「では、膝の取り付けを始めます。潰れた関節を外すところからです」


 人形のスタントさんを《収納》から出し、脚を伸ばしたまま床に寝かせる。潰れた関節を外し、替えの部品を、膝の差しこみ穴に当てる。

 穴の縁が少し曲がっていて、そのままではかみ合わない。昨日、戦いの最中に急いで戻した所だ。自分の雑な仕事の跡を、万を越える客の前で直すことになる。

 工具を当てて《鍛冶》を念じると、工具の当たる音が早回しで続き、曲がりが部品の形へ寄っていった。

 曲がりを戻すあいだ、MPがじわじわ減っていく。急がない。急げば、また曲がる。


「今、穴の縁の曲がりを戻しています。……はい、かみ合いました。ねじを留めます」


『その部品アセントの?』

『手元ずっと映ってるな』

『止めずに映すの逆に怪しい』

『普通に上手い』

『仕込み』


 どれにも答えないまま、最後のねじを締めた。

 スタントさんの膝を曲げて伸ばすと、関節の小さな機械音が、元どおりの間で鳴った。

 これなら、踏ん張っても曲がらない。


「本日は、膝の取り付けまでお付き合いいただき、ありがとうございました」


 配信を切る。最大の同時接続数は約3万だった。

 登録者数の欄を見る。


 21万5千。


 昨日の夜から、ほとんど動いていない。


「柏木さん」


 脇道の入口に、黄色い矢印の大盾が立っていた。角の形のへこみが、通路の明かりで影になっている。

 朝比奈さんだ。来るとは聞いていない。聞いていても来るのが、この人だ。

 ドローンは浮いていないから、配信はしていないらしい。


「見てました、さっきの。最後まで」


 朝比奈さんは自分の腕の画面を俺に向けた。昨日のアーカイブのコメント欄だ。


「読みますね。『グル』『工作員』『養成所の出戻り』『アセントに帰れ』。……帰らないですけどね」

「……はい」

「あと、常連のしじみさんが一人で全部に言い返してくれてて。『7人の頃から見てる。この子は人の言うことなんか聞かない』って」


 画面の中の名前に、朝比奈さんが口をとがらせる。


「それ、褒めてます?」


 それから、笑った。


「わたしの登録者、千人減りました。……次!」


 千人。見る人が7人だった頃から積んできた数字の、千人だ。

 声は明るい。

 言いながら、袖の安全ピンを外しては留め直している。何度目かで、数えるのをやめた。


 損得を考えるより先に、俺は言っていた。


「朝比奈さんが決めることですが。しばらく、別々に潜りましょう」

「……え」

「朝比奈さんの配信まで、巻き込むので」


 流出騒ぎの火元が俺の前の職場なのだから、我ながら世話がない。


 朝比奈さんが動きを止めた。

 空いたほうの手を俺の袖へ伸ばしかけて、途中で止める。


「怖いです」


 声は、小さくなかった。


「離れるのがいちばん安全なのも、分かってます。もめてる人からは距離を取れって、養成所で最初に教わるやつです」


 朝比奈さんは安全ピンから指を離し、背中の大盾を下ろした。

 黄色い矢印を前に向けて、俺の隣の床に立てる。


「でも柏木さん、今、言いましたよね。わたしが決めることだって」

「……言いました」

「じゃあ、決めました」


 盾の縁を握ったまま、朝比奈さんがこっちを見る。


「わたしの配信は、柏木さんの隣で撮ります。撮りたいから、撮るんです」


 隣に、角のへこんだ盾が立っている。明日は、その持ち主のドローンもここに浮く。

 画面が、2つある。


「で、柏木さんは?」


 朝比奈さんが、盾の縁に顎を乗せて聞いてくる。


「明日は、切れる所も、前もって決めておける所もない配信にします」


 疑いのコメントは、どれもその2つを突いていた。


「道は、分かれ道ごとにコメントで選んでもらいます」

「え、毎回ですか」

「毎回です。朝比奈さんの画面と並べて、同じ時刻を別の角度から映します。2つの画面を並べて見比べられたら、どこを切っても分かるので」

「わたしの画面は、わたしが撮りますからね。柏木さんの二台目のカメラじゃないです」

「はい。それでお願いします」


 頼む前に、断られた形になった。この人の段取りは、いつもこっちの一行先にある。

 腕の画面で協会のサイトを開き、ダンジョンの中で電波をつなぐ中継器の配置図を出した。第10層の奥では、電波の届く通路にだけ色が付いている。アセントにいた頃、撮影の下調べで何度も印刷した図だ。

 投票にかけるのは、色の付いた道だけにする。届かない道を選ばれたら、配信はそこで切れて、切れる所ができてしまう。


 その場で、自分のアカウントに打った。


『明日の配信は第10層の奥です。行き先は、分かれ道ごとにコメントで決めていただきます。朝比奈さんの配信と同時にお送りします』


 送って、画面を伏せずに待つ。

 告知の下に、返信が付きはじめた。


『どうせ台本』

『行き先こっちで決めんの? 見るわ』

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