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あまりに何度も召喚されて心が壊れてしまったので、この新しい世界を滅ぼすことにした。  作者: トーン


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エピローグ「混沌の波紋」



オークヘイヴン陥落の知らせは、アエテルガルド大陸を駆け抜けたのではない。


まるで第九位階の殲滅魔法が炸裂したかのように――一瞬で世界中へと広がった。


二十四時間も経たないうちに、中央混沌領域最大にして最古の中立都市――


大国同士が全面的な殲滅戦争へ突入するのを防いでいた、世界の均衡点。


その都市が、完全な廃墟と化した。


鉄の巨人バルタザールは死亡。


鉄の衛兵は全滅。


そして、都市を守っていた防衛設備は完全に破壊された。


---


## 金色の光聖域――天聖領域


浮遊城塞ルミナ。


その最上層にて、アークエンジェル・アウリエルは、白金色の瞳を細めながら予言鏡を見つめていた。


その眼下では、最初の戦場を生き延びたヴァルキリーが跪いている。


その鎧には、いまだ煤と血がこびりついていた。


「たった一人の人間……?」


アウリエルの声は美しかった。


だが、その響きは星々の間に広がる虚空のように冷たい。


「軍勢もなく? 神の加護を受けた勇者でもなく?」


予言鏡に映し出された男。


「未知の空間能力だけで、古代のタイタンを素手で打ち倒したというのですか?」


「は、はい……アウリエル様……」


ヴァルキリーは震えながら答えた。


顔を上げることすらできない。


「彼には慈悲も、同盟もありません。栄光のために戦っているわけでも……」


その声がわずかに震える。


「まるで……道に落ちているゴミを片付けるように、人を殺します」


アウリエルはゆっくりと聖炎の剣を掲げた。


刀身から迸る神聖な炎が、彼女の不快感に呼応するように揺らめく。


「アースィマールの異端審問官を動かしなさい」


静かな命令だった。


「そして、第一神聖軍団も投入します」


アウリエルの白金の瞳が冷たく輝く。


「その『人間』は、世界の秩序から外れた異常存在です」


一瞬の沈黙。


「浄化できないのであれば――」


聖炎の剣が、より激しく燃え上がった。


「聖なる計画を汚す前に、存在そのものを消し去りなさい」


---


## マグマの深淵――竜帝領域


灰燼山脈の最深部。


そこでは、巨大な火山洞窟を流れる溶岩が轟々と音を立てていた。


その中心で、赤竜王――《喰らう者》イグニスが、大口を開けて笑っていた。


その笑い声だけで、溶岩の川が岸から溢れ出す。


「バルタザールが、翼も持たぬ虫けらに潰されたというのかァ!?」


炎の鱗に覆われた巨大な首が持ち上がる。


黄色い瞳には、怒りと愉悦が同時に宿っていた。


「鉄のタイタンともあろう者が、あれほど原初の自動人形を誇っていたというのに……!」


イグニスは牙を剥き出しにする。


「血統名すら持たぬ生物ごときに討ち取られただと!?」


その周囲では、数十体ものブラッドドラゴンと竜人の戦士たちが、歓喜の咆哮を上げていた。


その中から、一体のクリスタルドラゴンが一歩前へ出る。


「我が君」


頭を垂れながら報告する。


「中央混沌領域は、現在完全な空白地帯となっています。天聖領域と古代森林連邦は、すでにオークヘイヴンの魔力鉱山を確保するため軍を動かしております」


「ならば、我らも行くぞッ!!」


イグニスが吠えた。


巨大な翼が広がり、洞窟の天井全体を覆い尽くす。


「その人間の首を余に持ってこい!」


炎の瞳が赤く燃え上がる。


「そして、あのタイタンの心臓もなァ!!」


「中央混沌領域は――」


巨大な竜王が宣言する。


「ドラゴンのものだッ!!」


---


## 吐息する大森林――古代森林連邦


世界樹の巨大な枝葉の下。


ハイエルフたちの大祭司は、一つの空間収納指輪を見つめていた。


それは、かつて彼女の一族に属していた貴族の指輪。


使者によって返還されたそれには、以前まで存在していたルーン障壁が跡形もなく消え去っていた。


「我らの血統が受け継いできた財産を奪い……」


祭司の指先が、ゆっくりと震える。


「魂の市場にいた奴隷たちまで解放した……」


抑え込まれた怒り。


その感情に呼応するかのように、周囲の葉が次々と萎れていく。


「この侮辱を、連邦は決して許してはならない」


彼女は顔を上げた。


「《影追跡者》を送りなさい」


静かな声。


だが、その言葉には明確な殺意が込められていた。


「その人間を生きたまま連れてくる必要はありません」


「四肢を切り落とし――」


大祭司の瞳が冷たく細められる。


「森の根に、その魂ごと喰わせなさい」


---


## 混沌の震源地――オークヘイヴン廃墟


アエテルガルド最大の戦争。


三百年ぶりに世界が目撃することになる、史上最大規模の戦争。


そのために、この惑星の主要帝国と勢力が一斉に軍を動かし始めていた。


天使。


ドラゴン。


エルフ。


そして、深淵の大群。


すべてが中央混沌領域へ向かって進軍している。


その中心。


半壊した塔の頂上。


かつてバルタザールが座していた鉄の玉座に、トムは静かに腰掛けていた。


その隣では、ニクスが瓦礫の中から回収した狩猟用短剣を布で拭いている。


彼女は何度も地平線へ視線を向けた。


遠くには、オークヘイヴンへ向かって進軍する軍勢。


その巨大な隊列から立ち上る煙が、空を黒く染めている。


「来てるよ、トム……」


ニクスの声には、隠しきれない不安が混じっていた。


「全員だ」


彼女は唇を噛む。


「天使も、ドラゴンも、エルフも……それに深淵の大群まで」


視線の先。


数え切れない軍勢が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「オークヘイヴンは……世界中の連中にとって、賞品であり……」


ニクスは一度息を呑んだ。


「同時に、殺し合いの舞台になっちゃった」


トムは、すぐには答えなかった。


ただ右手を静かに開く。


その掌の中心。


浄化された魔力の細い線が、正確な円を描きながら規則正しく舞っていた。


トムの左目が、ほんの一瞬だけ淡く輝く。


機械仕掛けの時計のような虹彩。


その内部の歯車が――


カチッ。


静かで、正確な音を立てた。


*【現在魔力:100%】*


*【地形把握率:15%】*


*【敵対勢力識別:全勢力】*


トムは手を握る。


掌に浮かんでいた魔力の光が消えた。


そして――


地平線を埋め尽くす戦争の嵐を見つめながら、トムは笑った。


冷たい。


壊れている。


そこには、人間らしい温度が一切存在しない。


「……全員まとめて来い」


トムは小さく呟いた。


「一人ずつ狩る手間が省ける」


その瞬間。


遠くの地平線に、無数の軍旗が現れた。


天聖領域。


竜帝国。


古代森林連邦。


深淵の大群。


そして――


まだ名を知らぬ無数の勢力。


すべてが、オークヘイヴンへ向かっていた。


トムは鉄の玉座から立ち上がる。


そして、迫り来る世界そのものを見つめた。


*混沌は、始まったばかりだ。*


**【第1巻・完】**

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