↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あまりに何度も召喚されて心が壊れてしまったので、この新しい世界を滅ぼすことにした。  作者: トーン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話「機兵狩り」

ルーン石で舗装された地面が、二体の鉄の巨人が歩くたびに震えていた。


《魂の市場》にいた群衆は、ヒステリックな悲鳴を上げながら一斉に逃げ出した。


商人たちは金貨や宝石で満たされた露店を放り出し、我先にと地区の出口へ殺到する。


オークヘイヴンで、《血の自動人形》に立ち向かうほど愚かな者はいない。


それは――


タイタンによって造られた戦争兵器。


痛みも。


恐怖も。


疲労も感じない。


ただ命令に従い、軍隊そのものを粉砕するために造られた殺戮機械だった。


「トム! お願いだから逃げましょう!」


ニクスが震える手でトムの袖を掴んだ。


「奴らの外殻は通常の魔法も普通の刃も通さない! あんなもの、どうやって貫くつもりなの!?」


トムは彼女を見ることすらしなかった。


肩を軽く動かし、ティーフリングの手を振りほどく。


「お前にとっては、倒せない怪物だ」


トムは奪った狩猟用短剣を握り直す。


「俺にとっては――」


冷たい目が二体の機兵を捉えた。


「歩く魔力電池にすぎない」


【現在魔力:45%】


左側の自動人形が、二トンにも及ぶ巨大な戦斧を持ち上げた。


胸部に刻まれた深紅のルーンが激しく輝く。


大量の魔力が、鉄の腕に組み込まれた油圧機構へ流れ込んでいく。


「――脅威ヲ排除スル」


機械音声が、雷鳴のように響き渡った。


BOOOOOOM!


戦斧が振り下ろされる。


巨体からは想像もつかない速度だった。


巨大な刃が石畳を直撃し、石を粉々に砕く。


衝撃波が周囲の露店を丸ごと吹き飛ばした。


だが――


そこにトムの姿はなかった。


戦斧が落下を始めた、その一瞬。


トムは左へ身体を滑らせていた。


眼力は使わない。


温存する。


自動化された機兵の攻撃パターンなら、トムは誰よりも知っている。


二十四回目の召喚。


あの世界で、トムは一個軍団にも匹敵する機械ゴーレムの群れと戦ったことがある。


――大型機兵は質量が大きい。


――その代わり、腰部を支点とした旋回加速度が極端に低い。


トムは地面に突き刺さった戦斧の刃へ足を乗せる。


そのまま勢いを利用して跳躍。


一直線に――


機兵の胸部へ飛び込んだ。


「――標的ヲ拒絶」


右側の機兵が反応した。


巨大な機械腕が振り抜かれる。


トムを一体目の胸部へ叩き潰すつもりだ。


空中でトムは身体を折り畳んだ。


脚を縮める。


巨大な拳が――


ブーツの底から僅か数センチの場所を通過した。


その瞬間。


二体目の腕が一体目の装甲へ激突する。


トムはその衝撃を利用した。


身体を弾き飛ばし――


一体目の首関節へ向かって飛ぶ。


露出した関節。


重量級機兵の――


最大の弱点。


トムは短剣を鉄板の隙間へ突き刺した。


CLANG!


狩猟用短剣は鋼鉄合金に耐えきれず、真っ二つに折れた。


だが――


必要な亀裂は、すでにできていた。


「――構造破壊」


トムが呟く。


躊躇はなかった。


そのまま素手を装甲の隙間へ突っ込む。


バチィッ!


魔力電流が指先を焼く。


皮膚が焦げる。


だが、トムは気にしない。


何百もの魔導兵器を解体してきた人間だけが持つ知識。


内部に走る魔力流管。


それを――


力任せに引き千切る。


CRACK-SPARK!


青く輝く魔力液が噴き出した。


切断された血管から血が噴き出すように。


機兵の巨大な身体が――


停止した。


全身のルーンが不規則に点滅する。


内部圧力の制御が崩壊していく。


しかし、トムは止まらない。


さらに腕を奥へ突き込む。


胸部中央。


その奥にある――


魔力核。


トムの手が、何かを掴んだ。


人間の頭ほどもある巨大な球体。


青白い光を放ちながら脈動している。


原初魔力結晶。


「――これか」


トムは笑った。


そして――


一気に引き抜いた。


ズゴォッ!


四メートルの巨体から生命そのものを抜き取られたかのように、機兵が崩れ落ちる。


ドゴォォォンッ!


鉄の山と化した身体が、石畳へ倒れた。


トムはその残骸の上に立った。


そして手にした原初魔力結晶を――


魔力を僅かに纏わせた拳で殴りつける。


ピシッ……


亀裂が走った。


次の瞬間。


WOOSH!


純粋で、まだ精製されていない魔力が一気に溢れ出した。


トムの身体へ流れ込む。


肌の毛穴が、その魔力を貪るように吸収する。


熱が血管を駆け抜ける。


まるで液体の炎。


あの世界へ落ちて以来、枯れ果てていた魔力の器が――


再び満たされていく。


【現在魔力:88%】


トムの表情が変わった。


疲労による青白さが消える。


代わりに――


冷たく。


濃密で。


恐ろしい輝きが、その瞳に宿った。


だが――


まだ終わっていない。


もう一体。


仲間の破壊を認識した二体目の機兵が、戦闘アルゴリズムを変更する。


胸部のルーンが――


赤から、不安定な紫へ変化した。


「――危険度:極大」


「――自爆モードヲ起動スル」


機兵の内部で、魔力核が急激に過熱し始めた。


爆発すれば――


商業地区一帯が消し飛ぶ。


「……そうはいかない」


トムの声は冷たかった。


「そのエネルギーは――俺のものだ」


今度は――


潜り込む必要すらなかった。


【現在魔力:88%】


魔力が満ちたことで、トムの身体能力は桁違いに跳ね上がっている。


十倍。


それ以上。


一瞬――


トムの姿が影の閃光へと変わった。


次の瞬間には、二体目の機兵の胸部前に立っていた。


緊急封鎖装甲が閉じるより早く。


トムは右拳を握る。


そして――


吸収したばかりの魔力の一部を、拳の一点へ集中させた。


――霊穿撃。


BOOOOOOOOOOM!


拳が突き刺さった。


強化鉄甲が――


濡れた紙のように砕ける。


トムの腕が、そのまま機兵の胸部を貫通した。


そして――


指先が魔力核を掴む。


自爆シークエンスが完了する、その直前。


トムは魔力核を――


引き抜いた。


ズゴォォッ!


二体目の巨人が大きく揺れる。


そして――


後方へ倒れ込んだ。


ドゴォォォォンッ!


石造りの地面が大きく震える。


トムは瓦礫の横へ軽く着地した。


手の中には――


二つ目の原初魔力結晶。


トムはそれを両手で握る。


力を込める。


――ミシッ。


巨大な結晶が――


簡単に砕けた。


WOOOOOOOOOSH!


精製された魔力の波が広場全体を駆け抜ける。


瓦礫の陰に隠れていた僅かな生存者たちの外套が、強烈な風圧で大きくなびいた。


そして――


【現在魔力:100%】


静寂。


トムは目を閉じた。


完全に満たされた魔力の感覚を、一秒だけ味わう。


力が満ちている。


圧倒的な力。


だが――


トムにとって、それは特別なものではなかった。


本当の破壊を始めるために必要な――


ただの最低条件。


ゆっくりと目を開く。


広場は、死んだように静まり返っていた。


瓦礫の陰に隠れていた生存者たち。


その中には、ニクスもいた。


全員が――


広場の中央に立つ人間を見つめていた。


恐怖。


それは、悪魔やドラゴンを見た時よりも深かった。


たった二分にも満たない時間。


素手と、折れた短剣だけで――


オークヘイヴンの伝説的な防衛兵器を二体とも破壊した男。


その事実が、誰の頭からも離れなかった。


その時――


街の中央塔から、巨大な音が響いた。


――ヴォォォォォン……!


タイタンの角笛。


オークヘイヴン全域へ響き渡る、巨大な警報。


一回。


二回。


三回。


四回。


五回。


六回。


そして――


七回。


侵入者に対する――


最大警戒信号。


「……嘘……」


ニクスが呟いた。


その顔は、死体のように青ざめている。


膝から力が抜け――


その場に崩れ落ちた。


「タイタンの警報を……鳴らした……」


震える声。


「バルタザールが来る……」


「それだけじゃない……」


ニクスは絶望したように顔を上げる。


「《鉄の衛兵》全軍が……来る……」


トムは目を開いた。


左眼が――


僅かに輝く。


前髪の隙間から覗く瞳の奥。


その中で――


機械仕掛けの時計のような紋様が、ゆっくりと回転していた。


トムは街の中央。


タイタンの塔を見つめる。


そして――


ゆっくりと笑った。


壊れたような。


狂気を孕んだ。


飢えた笑み。


「……最高だ」


トムは姿勢を正した。


「まとめて来い」


その瞳に――


殺意が宿る。


「――全員、一度に相手してやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。