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一魂一体  作者: Kioh
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第4話 守らされる身体

一魂一体――いっこんいったい。

ひとつの魂に、ひとつの身体。

翌日。


教室は、いつものように少し騒がしかった。


机を寄せ合って弁当を食べる者。

購買で買ってきたパンを片手に笑っている者。

教室の隅でスマホを眺めている者。


その中で、如月は自分の席に座り、弁当のふたを開けていた。


前の席では、四宮美月が静かに弁当を食べている。

箸の持ち方も、食べる所作も、どこか上品だった。


昨日転校してきたばかりだというのに、彼女はすでに教室中の注目を集めていた。


まあ、無理もない。


あれだけ目立つ見た目で、あれだけ整った雰囲気をしていれば、放っておかれる方が難しい。


如月がそんなことをぼんやり考えていると、教室の入口から一人の男子生徒が入ってきた。


同じ学年ではあるが、このクラスの生徒ではない。

男子生徒は周囲の視線も気にせず、美月の席の前まで歩いてくる。


「四宮さん、だよね?」


美月は箸を止め、少しだけ顔を上げた。


「はい。そうです」


「転校してきたばっかりなんでしょ? 学校どう? もう慣れた?」


「まだ少しだけですけど……皆さん、優しくしてくださいます」


「へえ。友達とかできた?」


「はい。少しずつですが」


最初は、ただの会話だった。


転校生に興味を持った生徒が、何気なく話しかけている。

それだけなら、如月も気にしなかった。


普段の如月なら、他人の会話になど興味を向けることすらない。


だが、男子生徒の質問は少しずつ変わっていった。


「四宮さんって、どこに住んでるの?」


美月の表情が、ほんのわずかに固まった。


「えっと……それは……」


「家、近い? よかったら今度一緒に帰らない?」


「すみません。まだ、そういうのは……」


「じゃあさ、彼氏とかいるの?」


その瞬間。


如月の中で、何かが音もなく切れた。


気づいた時には、すでに立ち上がっていた。

椅子が床を引っかく音が、教室に響く。


男子生徒が振り向くより早く、如月の手はその胸ぐらを掴んでいた。


「……え?」


男子生徒の顔から、余裕が消える。


如月は、低い声で言った。


「そろそろ行った方がいい」


怒鳴ったわけではない。

脅したわけでもない。


ただ、それだけだった。


それなのに、男子生徒は何かを感じ取ったように顔を引きつらせた。


「あ、ああ……悪い」


男子生徒は如月の手を振りほどくこともできず、ぎこちなく頷いた。


如月が手を離すと、彼は逃げるように教室を出ていった。


教室の空気が、少しだけ固まる。


如月はその視線を無視して、自分の席へ戻った。

椅子に座った瞬間、自分の手を見下ろす。


「……何やってんだ、俺」


信じられなかった。


今の行動は、完全に自分の意思から外れていた。


これまでの人生で、如月が一番信じていたものがある。


自分の頭。

自分の判断。

自分の精神。


怒りも、恐怖も、焦りも、必要なら押し殺せると思っていた。

少なくとも、自分の心だけは、自分で制御できると思っていた。


なのに。


今は違った。


美月が困っていると気づいた瞬間、身体が勝手に動いた。

考えるより先に、怒りが出た。

抑えることすらできなかった。


如月は制服の袖の下にある腕を、無意識に押さえる。


そこには、昨日現れた印がある。


二枚の天使の翼。

その中央を貫く、一本の長い剣。


――彼女を守りなさい。


昨日の声が、頭の奥で蘇る。


如月は奥歯を噛んだ。


答えは、なんとなくわかっている。


あの声。

あの印。

そして、美月。


全部が繋がっている。


だが、何もわからないまま従うつもりはなかった。


知る必要がある。


自分に何が起きているのか。

美月が何者なのか。

そして、あの執事が何を知っているのか。


放課後。


一人、また一人と生徒たちが教室を出ていく。

夕方の光が窓から差し込み、机の影を長く伸ばしていた。


如月が帰る準備をしていると、前の席の美月がゆっくりと振り返った。


「玖条さん」


「……ん?」


美月は少しだけ迷うように視線を落としてから、静かに言った。


「昼休みのこと、ありがとうございました」


如月は一瞬、何のことかと思った。

だがすぐに、あの男子生徒のことだと気づく。


「別に。普通のことをしただけだ」


「それでも、助かりました」


美月は小さく微笑んだ。


その笑顔を見た瞬間、如月は胸の奥がわずかにざわつくのを感じた。


まただ。


自分の感情なのに、自分のものではないような感覚。


如月は一度、短く息を吐いた。


ちょうどいい。


今しかない。


「四宮さん」


「はい」


「一つ、聞いてもいいか」


「はい。何でしょうか」


如月は少しだけ言葉を選んだ。


本当は、聞きたいことはいくらでもある。


昨日のこと。

印のこと。

天使の魂のこと。


だが、それをいきなり美月本人にぶつけるのは、あまりにも危険だった。


だから、まずは一つだけ。


「四宮さんの執事さんに、もう一度会わせてもらえないか」


美月の表情が、ほんの少しだけ変わった。


「……執事に、ですか?」


「ああ。話したいことがある」


如月は、袖の上から腕の内側に触れた。


そこにある印は、まだ静かに熱を帯びている気がした。


「昨日のことで、聞きたいことがあるんだ」


美月はすぐには答えなかった。


少しだけ考えるように視線を落としてから、静かにうなずく。


「分かりました。執事に聞いてみます」


「助かる」


「ただ……すぐにお返事できるかは分かりません」


「それでいい」


如月は短く答えた。


急ぐ気持ちはあった。

だが、焦っても仕方がないことくらいは分かっていた。


美月は小さく頷き、もう一度だけ如月を見た。


「返事がもらえたら、私からお伝えしますね」


「ああ。頼む」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


自分の意思ではないように動いてしまう如月。

その違和感が、これからの物語に繋がっていきます。


次話もよろしくお願いします。

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