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一魂一体  作者: Kioh
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第12話 真夜中への招待

一魂一体――いっこんいったい。

ひとつの魂に、ひとつの身体。

 体育祭が終わった翌日。


 教室は、いつも以上の賑わいに包まれていた。


「いや、だから最後のリレーで逆転したんだって!」


「その写真送って!」


「見ろよこれ。転んだ時の傷」


 勝利を語る者。

 写真を見せ合う者。

 怪我の絆創膏を自慢する者。


 生徒たちの興奮はまだ冷めていない。


 そんなまま時間は過ぎ、あっという間に昼休みになった。


 如月は弁当箱を机の上に置く。

 隣では蓮夜も同じように昼食の準備をしていた。


 その時だった。


「玖条さん」


 前の席から美月が振り返る。


「もしよかったら、一緒にお昼食べませんか?」


「……え?」


 予想もしなかった言葉に、如月は固まった。


 美月は少し困ったように笑う。


「いつも一緒に食べてる友達が今日はお休みなんです」

「よかったら、一緒にお昼食べませんか?」


 如月が返事に困っていると、


「もちろん!」


 蓮夜が即答した。


「キサが断るわけないだろ!」


「俺が断ろうとしてたみたいに言うな」


「実際断ろうとしてただろ」


「……」


 図星だった。


 美月はくすりと笑う。


「ありがとうございます、蓮夜さん」


 そして少し悪戯っぽく続けた。


「玖条さんに聞くより、蓮夜さんに聞いた方が早かったですね」


「だろ?」


「だろじゃない」


 結局、蓮夜が机を動かし、三人の机を繋げる。

 如月も諦めて手伝った。


「「「いただきます」」」


 声が重なる。


 こうして話す機会も増えたせいか、以前ほどの気まずさはない。


 蓮夜は体育祭の徒競走で最下位だった理由を必死に弁解していた。


「だから! あの日は腹痛だったんだって!」


「本当ですか?」


「本当だ!」


「嘘ですね」


「なんで!?」


 美月は楽しそうに笑う。


 そして、


「でも、体育祭っていいですね」


 そう言った。


「みんな本気で楽しんでいて。先生たちまで一緒になって盛り上がっていて」

「なんだか見ていて楽しかったです」


 如月は二人の会話を聞きながら弁当を口に運ぶ。


 自分は昔からこういう雑談が得意ではない。

 だからいつも蓮夜が勝手に話を進めてくれる。


 蓮夜とは小学生の頃からの付き合いだった。


 同じ学校に通い。

 同じ時間を過ごし。


 気が付けば隣にいるのが当たり前になっていた。


 だからこそ――


 未だに悪魔のことを話せない。


 自分の力のことを。

 夜に人知れず悪魔を狩っていることを。


 話した瞬間、今までと同じようには見てもらえなくなる気がした。


 友情を守りたいだけなのか。

 ただの考えすぎなのか。


 それとも――


 自分が怖いだけなのか。


 その時だった。


 如月の動きが止まる。


 鼻先を掠める匂い。


 悪魔の匂いだった。


 だが、今まで嗅いだことのない種類の匂い。


 欲望ではない。

 興奮でもない。

 人を殺したくてたまらないという衝動でもない。


 もっと純粋なもの。


 圧倒的な――力。


 背筋が冷える。


 如月は立ち上がった。


「おい?」


 蓮夜が驚いた顔をする。


「キサ?」


 しかし如月は返事をしない。

 そのまま教室の外へ向かった。


 廊下に出る。


 そしてすぐに見つけた。


 一人の男子生徒。


 制服を見る限り一年生だろう。


 匂いはその生徒から漂っている。


 しかし――


 普通だった。


 赤い目もない。

 牙もない。

 爪もない。


 どこからどう見ても普通の学生だ。


 混乱する如月をよそに、その生徒は緊張した様子で口を開いた。


「あの……玖条先輩、ですよね?」


「ああ」

「どうした?」


「あの……俺、桐谷翔きりたに・しょうって言います」


 少年は言いにくそうに視線を泳がせる。


「変な話なんですけど……」


 そう言ってポケットから何かを取り出した。


 黒い紐。


 そして菱形の黒い結晶。


 ネックレスだった。


「昨日の夜、変な夢を見たんです」


「夢?」


「はい」


 桐谷は頷く。


「知らない声が聞こえてきて……このネックレスを玖条先輩に渡せって」

「それで朝起きたら、本当にこれがベッドの上にあったんです」


 声が震えていた。


「正直、めちゃくちゃ怖くて……」


 如月はネックレスを受け取る。


 冷たい。


 まるで生き物のような嫌な感触だった。


「体に異常は?」


「え?」


「気分が悪いとか」


「いや……特には」


「そうか」


 如月は頷く。


「何かあったらすぐ教えてくれ」


「……はい」


 桐谷は少し安心したような表情を浮かべた。

 そして頭を下げて去っていく。


 如月はその背中を見送る。


 理解が追いつかない。


 学校の中では何もできない。

 とりあえず放課後まで待つしか――


 そう考えた時だった。


 桐谷の足元。


 伸びる影が――笑った。


「――ッ!?」


 思わず息を呑む。


 その瞬間。


 手の中のネックレスが脈打つように赤く光った。


 結晶の中心が、ゆっくりと紅く染まる。


 そして。


 耳元で誰かが囁いた。


『今夜、午前零時』


『公園で会おう』


 低く。


 不気味で。


 どこか楽しそうな声。


『……久しぶりだね、如月』

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


今回は体育祭後の日常回……かと思いきや、新しい謎が動き始める回でした。


如月たちの距離も少しずつ縮まってきましたが、それと同時に彼の周りでは不穏な出来事も増えていきます。


そして最後に現れた謎のネックレスと声。


果たしてその正体は何なのか。


次回から物語がまた大きく動き始める予定です。


それでは、次話もよろしくお願いします。

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