092●フロアの呼び名
「ブラッド、どうした?ため息なんかついて。」
「・・・いや、島に残してきた海賊の爺さんたちのことを思い出してたんだ。」
「首領や年寄り連中か。どうしてるかな・・・。」
「若気の至りで反発して飛び出したけど、もう1年だ。ちょっと心配だ。」
「まがりなりにも、育ての親だからな。」
えっ、王虎さん、いいんですか?一週間も休みを?
船も自由に使っていいって?
俺たちは帆船を操り、自分たちのかつての根城、
通称「パイレーツ・オブ・トレビアン」へ向かった。
入り江に静かに入ると、懐かしさで胸がいっぱいになる。
「投錨!帆をたため!上陸準備!」
仲間たちは伯爵領海軍で鍛えた動きで、素早く対応する。
「おーい!首領ー!爺さんたち、いるかー!」
茂みの中から、にょっきりと顔が現れる。
「なんだ、ブラッドか。驚かすなよ。海軍の討伐隊かと思ったじゃねえか。」
「ガブリエルじいちゃん、久しぶり!・・・あれ、痩せた?」
あちこちから年寄りたちが集まってくる。
持参した食糧を渡すと、すぐに食べ始める。
「喉、詰まるぞ。ゆっくり食べてくれ。まだたっぷりあるからな。」
「いやあ、ちゃんと食べるのは、ゴホッ、久しぶりでな・・・ゲフッ・・・。」
「首領はどうした?姿がみえねえ。」
「食べるもんがなくて、無理して漁に出たんだ。嵐に巻き込まれて、それっきりだ・・・。」
「お前らが出てったあと、だんだん海軍の見回りが厳しくなってな。海賊はどの一家も捕まった。みんな縛り首だったろうな。俺たちは魚を獲って暮らしていたけどよ、もうこの歳じゃ漁もままならん。」
いや、捕まった海賊たちは、各地で転職して元気に暮らしてる。
この島、小さすぎて見落とされたんだな。
「だからさ、みんな元気にやってる。俺たちもそうだ。どうだ、一緒に来ないか?ちゃんと食べて、飲んで、寝て、みんなで暮らそうや!」
爺さんたちはぽかんとした顔をしていたが、
やがてガブリエルじいちゃんが言った。
「できねえよ、ブラッド。俺たちはお前らの世話になるわけにはいかん。」
「遠慮するなよ。子どもの頃から面倒見てくれたじゃないか。今度は俺たちが面倒見る番だ」
「・・・いや、そうじゃねえ。そうじゃねえんだ・・・。」
爺さんたちは重い口を開いた。
そうか・・・俺たちは、海賊が奪った船の乗客の子どもだったのか。
他の一家が皆殺しって言ったのを、連れてきたのか。
この島に着いたら、流行り病で海賊も親たちも次々命を落としていって、
生き残ったのが爺さんたちと俺たちなのか・・・。
「お前らの親は、裕福な暮らしをしてたんだろうな。この島じゃ、すべてが違いすぎたんだ。俺たちはお前らの親を奪ったんだ・・・。」
幼い頃の記憶がよみがえる。
釣りを教えてくれた。
舟の漕ぎ方、帆の張り方、風の読み方。
肩車、虫取り、怪我をした時に手当てしてくれた優しい手。
爺さんたちが泣いている。
爺さんたちは、貧しさや社会的偏見から、この道に入ったんだな。
悪いことと分かっていたのか。
でも、命はとらないっていうのは、鉄則だったんだよな。
俺たちも声が詰まる・・・。
いや、言わなくちゃ。
「じゃあ、まあ、ともかくだ、爺さんたち、乗船してくれ!」
「・・・話が見えねえ。俺たちは仇なんだぞ!」
「それがどうした?育ててくれたのは、間違いなくあんたたちだ。行こう。伯爵領の飯は、もっと旨いぜ。」
えっ、首領?!この施設にいたの?
漂着して、高齢者施設に入れてもらった?
なんで連絡しないんだよ!
毎日が楽しくて、すっかり忘れてた?!
まあ、しょうがねえなあ。じゃあ、ここで暮らそう。
俺たちも来るからさ。
全員、個室で三食付き。介助員とメディカルチームも常駐。
安心だ。ホールでいろいろできるし、舟やヨットだって使えるぞ。
えっ、このフロア、爺さんたち専用にしてくれるの?
フロアの通称名も決めていい?そ
れじゃあ、お願いします!
ぜひ‘パイレーツ・オブ・トレビアン’で!




