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009●無敵
「もう、産後休は終わったのか、ウィル?」王が優しく問いかける。
「はい、陛下。長らく書類仕事のみでしたが、公国から戻り、本日より職務に復帰いたします。」
ウィルフレッダは丁寧に頭を下げる。
「最初から張り切りすぎるではないぞ。その腕の中の子が、ジンか?」
「左様でございます。初めての参内でございます。」
「おおっ!少しだけ、抱かせてくれんか?」
「えっ、畏れ多いことです!」
「なに、ほんの少しだけだ。」
王はジンを抱き上げた。
赤子はキョトンとした表情で王を見つめる。
「うーん、かわいいのう・・・おっ、笑ったぞ!きっと、そなたにも世界を頼むことになるのだろう。元気に育ってくれ。」
王は満足げに抱いていた。
満面の笑みを浮かべて。
しかし、ジンが急に泣き出す。
王は慌ててウィルに赤子を返す。
「ご無礼をお許しください、陛下。この子は、わたしでないと泣き止まらないのです。」
ジンを受け取ったウィルがあやすと、声をあげて笑い出す。
王は微笑みながら言った。
「なんの無礼があろうか。やはり母が一番なのだろう。泣く子には勝てん。無敵だな。」
その場にいた重臣たちも、静かに笑みを浮かべた。
後の世に、ジン・ラベンダー・エンジェラムがどのような活躍を見せるのか。
・・・それは、まだ誰にもわからない。
世界線を見つめる者たちでさえ。




