078●一生 & 079●大神島 その2
078●一生
一生、誰と戦っても勝ち続けた将軍。
一生、地域で治療に専心した医療従事者。
人はどちらを英雄と称えるのだろうか?
一生をかけて使い切れない財を築いた経営者。
一生をかけて貧しい人たちと共に歩んだマザー。
人はどちらをすばらしいと見なすのだろうか?
一生をかけても罪を償う人。
一生をかけても罪を許せぬ人。
そのどちらの人生にも、深い悲しみが刻まれている。
079●大神島 その2
俺たちは上陸した。宿は民宿が1軒だけ。
ひなびた、如何にも漁村の面影を残している佇まいだ。
「こんにちは。おじゃまします。」
ジンが呼びかけると、90歳はとうに越えているような老爺が出てくる。
「すみません、予約をお願いした高宮です。」
老爺はギョロっと睨む。屋内に案内される。和室が2つ、同じ造りだ。
畳敷きでテレビ、テーブル、湯沸かしポット等々がある。
窓を開けると2階の部屋からの見晴らしはよい。海が一望できる。
「良い眺めですね。」ジンが言う。
「これしかねえんだ。」老爺が自嘲気味に言う。
トイレは男女に分かれてはいるが、家屋で1か所、
風呂は時間差を自分たちで決めて入るようにと言う。
宿泊客は俺たちだけのようだな。
荷物を置いて、男部屋で打合せをする。
「で、何を調べるっていうんだ?何にもないぞ、ここ。」
「何があるか見てこい、でしょ。見ればいいのよ。観光旅行ね・・・。」
エイミーも分かっているんだよな。ただの観光旅行じゃないってこと。
「だけど、調査対象がわからないっていうのは、厄介ですね。ココア、何か感知するか?」
「何もありません。携帯端末などは使えますね。繋がります。盗聴などの心配はありませんね。特に注意を払うようなものは、見当たりません。」
4人でため息を吐く。
とりあえず、2組に分かれて島内を見て回ることにする。
ジンとエイミー、俺とココア。徒歩圏内を散策する。
フェリーで車も一応持ってきたが、歩いても問題ないな。
神社、兼、寺。意外と新しい感じだ。ココアがデータを検索する。
「30年ほど前に、再建されているようですね。詳しい日付は残っていません。火事があったようです。」
ふーん、それまでの社や仏閣は焼けちまったんだな。
突然、頭痛が起きる。なんだ、これは?
うずくまる。ココアが俺を支える。
「どうしました、オオガミさん!バイタルチェック実行。脈拍が速い。血圧も高いです。そこのベンチに横になってください。」
ココアの手を借り、ベンチに横になる。何かがおかしい。
宿に戻って来た。体調は戻っている。
月齢は10日。いつもの俺なら満月期をひかえて、
気分も高揚してくるはずなんだが。
「どうだった?何か見つけたか?」
「ちょっと気になったことはあったよ。」
エイミーがそういうなら、収穫があったということだな。
ジンとふたりで海岸近くを歩く。やっぱり、特になあんにもな〜い!
エイリアンとか、モンスターとか出てきなさいよ。
あれっ?ジン、だれ、そのおばあさん?
「アキラちゃん、だね。よく帰ってきたね。ずっと、待っとたんだ。あの時は、すまなんだ。大きくなったねえ。」
「どうしたの、ジン?」
「いえ、わたしを‘アキラ’っていう人と間違えてるみたいなんですよ。」
ジンが優しく老婆に話しかける。
「‘アキラ’じゃないですけど、大丈夫ですか?おうち、どこかわかりますか?」
「あんときの炎はすさまじかった。何とか、カズヨシさんとカズミさん、小舟まで案内したけれど。すまんかったなあ。」
20代の男が駆けてくる。
「すいませーん!ばあちゃん、よかった、見つかった!ありがとうございます!」
聞けば、徘徊を繰り返しているという。
男性を見ると、‘アキラちゃん’と誰かれ構わず話しかけるのだそうだ。
「で、’大神’島で‘アキラ’ちゃんって、あなたと重なったっていうだけなんだけどね。」
カズヨシ、カズミ。それは!・・・俺の両親だと聞かされた名前じゃないか・・・!
「どうしました、オオガミさん?また、具合が悪いですか?バイタルは正常ですけど。」
心配そうにココアが尋ねてくれる。
いや、そうじゃない。
俺の頭の中の誰かが、何かを言っているんだ。




