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057●20年後の効果検証
今日の彼はひとり勤務だ。
相方の教育担当者は有給休暇だ。区役所の静かな朝である。
ああ、そうですか、わかりました。窓口に住民の方ですね。
教育関係の申請ですね。すぐに行きます。
住民の女性が窓口の机を隔てて座っている。彼女が驚いて言う。
「先生・・・?!英語の先生ですよね? あの時の!」
彼も驚いた。
しかし、落ち着きながら、申請書の書き方を説明し、一緒に記入していく。
無事、彼が受理した後、彼女は卒業後の半生を語った。
「でもね、先生。今でも‘なぜ日本に住んでいて英語を勉強しなくちゃいかないか’って話、おぼえてるの。」
ああ・・・。
沖縄戦で、老人が知っていた三つの英語の言葉で、多くの命が救われた話。
中学一年の最初の授業で、必ず話したものだ。
「でね、わたしの子どもたちにも同じことを話したのよ。勉強って知識だけじゃなくて、いろんな人の想いを知ることだってね。」
あれから20年は経つ。
なんでも即時的な効果検証が求められる今。
でも、これだけの年月の後、その影響を知ることになるとは。
彼は思った。
人生、捨てたものじゃないよな、と。




