055●模擬戦 雷の力を知る者たち
朝の空気は澄んでいた。
ラベンダー公国の訓練場には、百名の兵士が整列していた。
マンジはその中の一人。
まだ入隊して半年の新兵だが、今日の模擬戦には自信があった。
「30人相手にこっちは100人だぞ。負ける方が難しいだろ、これ。」
隣の兵士が笑いながら言う。マンジもそう思う。
彼らの装備は、刃のない金属製の模擬剣と軽装、あるいは重装の訓練用鎧。
対する30名の兵士たちは、剣と弓を持っていた。
剣は平凡なものに見えるが、弓の矢尻は丸く、まるで玩具のようだった。
双方の練度は、ほぼ同じである。
新しい武器を試すための模擬戦。
通常の武装に加え、
転倒に備えるため頭部や肘・膝などの防具が配られ、装着している。
痺れがくるだろう・・・そう説明は受けていたが、実感はなかった。
「矢も刺さらないって話だし、互いの剣も斬れないから安全だな。矢を盾で防いで接近戦だ。数で楽勝だな。」
3倍以上の兵力差があれば十分だとマンジは頷く。
彼は抜刀した剣の柄を握り直した。
ツキカゼ教官は、双方の中央の檀上から黙って兵士たちを見ていた。
その眼差しは鋭い。
「模擬戦、開始!」
ツキカゼの号令が響いた。マンジたちは一斉に前進する。
矢をしのぎ、数の力で押し切る。それが当然の戦術だった。
マンジは前衛に立ち、模擬剣を構えて突撃する。
隣を走っていた兵士が突然、崩れ落ちるように倒れた。
マンジの視界の端で、仲間たちの胸元や体、盾に矢が当たる。
刺さるわけではない。
半球状の矢尻が触れた瞬間、青白い閃光が走り、彼らの体が硬直する。
膝から崩れ、地面に倒れ込む。次々と戦闘不能になっていく。
「おい、どうした!?」
マンジが駆け寄ろうとした時、前方から相手兵が走って来るのが見える。
身構える。相手が剣を振るってくる。
教本通りに盾で受け、反撃の隙を狙った・・・そのはずだった。
「・・・っ?!」
なんだ?!光が、青白い光が見えた!
筋肉が勝手に収縮し、足が止まる。痛みはない。
だが、動けない。地面に膝をつき、息を整えようとするが、
体が言うことをきかない。
周囲では、剣と戦う仲間が次々と倒れていく。
30人の兵士が、100人を制圧していく。
雷のような閃光が、戦場を支配していた。
マンジは、地面に伏したまま考えている。
数の優位が、まるで意味をなさない。
あれは、なんだ?
対戦の常識が通じないのか。
ツキカゼが静かに歩いてきた。
「マンジ、意識はあるな。おい、倒れた連中を日陰に運んでやれ!水を飲ませろ!救護班、手当てにかかれ!」
それは、‘静雷’と‘雷牙’が、
この大陸に雷の時代を告げた、最初の閃光だった。




