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041●偉大なる者
母は買い物帰り。路上でおしゃべり、ふと視線をそらす。
自分が住むアパートの4階の自室を見る。
ベランダの3歳の我が子の姿。
あっ、落ちる!
彼女は走った。手を伸ばす。ナイスキャッチ!
見事に我が子を受け止める。
このことを知った科学者が、興味を持った。分析をする。
ええっと、彼女が我が子を見たのが、この場所で落下地点がここ。
とすると、走った速度はっと。
ええっ?!
では、この幼児の体重と落下速度から導かれる力積はっと。
ええっ?
距離と落下時間から導きだされた、走る速度。
それは人類として不可能ではない。
ただし、当時の100m走の世界記録保持者であれば。
なおかつ、記録保持者は、状態のよい競技場で、
ベストなシューズを履いて叩き出した数字である。
母は舗装されてはいるが、普通の道を、
それもサンダルで駆けたのだ。
子を受け止めるために必要な筋肉は、
重量挙げの選手に匹敵した。
命を守るために命を賭ける時、
確かに人は肉体の限界を超えることがある。
火事場の馬鹿力と呼ばれるものだ。
母は強し。
全人類が言うべき言葉、
「お母さん、ありがとう。」
おっと、お父さんにもね。




