013●眠れない夜の出会い
ローレンスは、眠れぬ夜を迎えていた。
食糧調達の目処は立ち、良き友とも出会えたというのに・・・。
それが興奮によるものなのか、迫り来る戦争への恐怖なのか、彼自身にも分からなかった。
彼は静かに、宿屋の一階の片隅にあるバーへと足を運んだ。
そこに先客がいた。
ラベンダー伯に随行していた、ソレイユである。
「こんばんは、子爵様。眠れないのですか?」
透き通るような声。深い眼差し。ローレンスは、高まる鼓動を感じた。
「こんばんは、レイディ・ソレイユ。」
「ソレイユで結構です、子爵様。」
「では、わたしもローレンスと呼んでくださいませんか。」
「ふふ、では・・・お互い、敬語はやめましょうか。」
最初はぽつりぽつりとした会話だった。
しかし、酒の力がローレンスをいつもより雄弁にさせた。
「あなたの王国は豊かだ。あれだけの穀物を輸出できるとは。」
「ええ。いろいろと工夫して、技術革新も進めたから。」
「わたしの国は、慢性的な食糧不足だ。土地が痩せていて、陛下は税をできるだけ軽くされているのだが、それでも民の中には飢える者がいる。限られた国家予算で、なんとか買い付けて配給してはいるものの・・・未来が見えない。」
ローレンスの声には、文官としての力の限界を感じさせる響きがあった。
「でも、あなたはできるだけのことをしている。とても懸命に取り組んでいるわ。」
「そうかな?そうだと良いのだが。・・・今回、ロイに会って考えさせられた。やはり、もっと経験を積み、広い見聞を持たないと。冒険は苦手だが、いろいろな場所へ行って、いろいろな人と出会うことが大切だと思ったよ。」
「ローレンス、わたしが知っている金言を教えてあげる。」
「あなたの国の?」
「ええ。それはね・・・」
井の中の蛙、大海を知らず。されど、空の青さを知る
「大海に出ることは、自分の世界を広めることになるかもしれない。でも、井戸の中だって、世界を深めることはできるのよ。」
ローレンスは、その言葉を心で聞いた。静かに、深く、穏やかに。
「ありがとう、ソレイユ。・・・何だか、眠れそうだ。おやすみ。」
「おやすみなさい、ローレンス。よい夢を。」
これが、ローレンスとソレイユの最後の会話となった。
ローレンスが伝説となる、ほんの少し前の、小さなラブ・ストーリー・・・。




