来たる旅立ち
ソラリアの森での任務後、無事守護団に帰り着いた五人は、フーガを第六班に加えることを嘆願するため、帰還報告も兼ね団長室を訪ていた。諜報から班に入ることはあまり前例もなく、どう説得すべきかと身構えていたもののいざ話し出すと、オスカー団長は驚くほどあっさりとその願いを聞き入れてくれ、逆に二つ返事の許可に面食らっていた。
「許可しよう。お前達は今回の任務で想定していた以上の成果を上げてくれた。第四班の健闘もあったとは言え、第四班と行方不明者の救出についてはかなり絶望的だと考えていたが、お前達はそれも成し遂げてくれただろう。任務報告からも五人の誰一人欠けても成し得ない成果だと判断できる。それに、」
オスカーは重要なことを話すぞという雰囲気を出して、一呼吸置き言葉を続ける。
「もうすぐ団を抜けて魔王討伐の旅へ発つ予定だろう?だったら、仲間は多いに越したことないからな。」
今まで具体的な旅立ちの時期や、ロンド、ワルツ、フーガの三名に関しては守護団を抜けオラトリオに同行する旨をオスカーに直接話したことがなかったため、その言葉に狼狽えている。驚いてオスカーを見ると、皆まで言わずとも分かるだろうと言いたげな顔で見返され、ロンドとワルツはその言葉を以て団長からの出発許可であると察し顔を見合せた。ワルツが念のためと問いかける。
「団長、そのお言葉は魔王討伐の旅への出発許可と取ってよろしいのでしょうか?我々についても……」
「そう取ってくれて問題ない。オラトリオ、バラッドの二名についてはまだ成長途中ではあるが、この半年の働きを見てソラリアでの任を言い渡した。そして、この任務を無事を成し遂げることができるなら、もう十分に旅立つに値する実力はついていると判断できると思っていた。つまりは、今回の任務の達成をもって、守護団の卒業試験の合格と取ってくれて良い。だが、今回の任務も二人きりでは厳しかっただろう?だから、条件付き合格というやつだ。ロンド、ワルツ、フーガの三名も旅に同行すること。」
多分ソラリアに向かわせる時、既に団長はこうしてやろうと決めていたのだろう。フーガの処遇についても、帰還後の当人の意思を尊重するつもりだったため、フーガが望むならと二つ返事だったことに気づく。団長なりの思い遣りと、これから旅に出るオラトリオとバラッドへの助け舟なのだ。
ロンドは今まで面と向かって相談できていなかったことを悔い、もう悟られていようとも、今話さなくてはと口火を切る。
「団長!!今日まではっきり許可をとることも話すこともできてなくて申し訳なかった。もう分かってくれてるみたいだが、ちゃんとケジメはつけたい。改めて、ちゃんと話させてくれ。」
そう言ってロンドは姿勢を正し、団員としてオスカーに向き直った。
「俺、ロンドとワルツ、フーガは、オラトリオとバラッドの勇者としての旅に同行したいと思っています。俺とワルツは守護団に命を救って保護してもらってから、今日まで家族みたいに大切にしてもらいました。だから、ちゃんと話すべきだと思っていたが、唐突に守護団を抜けることになってしまい……」
心の中で決断を下してはいたものの、いざ団を離れることを思うと言いようのない寂しさや様々な思いが押し寄せ、言葉の歯切れが悪くなってしまう。その言葉尻を穏やかに掬い上げるようにオスカーは続ける。
「良いんだ、ロンド。さっきも言っただろう。仲間は多い方が良いと、それが俺の返事だ。オラトリオもバラッドも才能に恵まれているとは言え、まだ戦闘経験は浅いんだから、お前達がちゃんと支えてやりなさい。それこそ、お前達とは長い付き合いなんだ、第六班に二人を迎え入れたいと言い出した時から、こうなるんだろうと何となく察していたよ。それに、もう結構な噂になってるぞ。お前たちが守護団を抜けるんじゃないかってな。大体、何かを企てがあるならもっとこっそりやるもんだ、目立ちすぎなんだよ。……と、まぁ、軽口はここまでとして、今まで長い間、守護団に尽力してくれてありがとう。ロンド、ワルツ、フーガも、皆ガキの頃から知ってるから、独立する子どもを見送るような寂しさはあるが、子の旅立ちは快く送り出してやってこそ親ってもんだろう。それに、守護団を抜けたからと言って、この関係までが消えるものじゃないんだ。俺は出来る限り、お前たちの旅を支援したく思っている。無事、魔王討伐を成すことができて、その後帰る所や行く場所がなければ、またここに帰って来い。ここはお前達の家だ。第六班はお前達の席として空けておいてやるから。」
オスカーは改めて五人それぞれに温かな視線を送りながら話を続ける。
「オラトリオ、バラッドもだ。お前達なら、偉業を成し遂げて、胸を張って帰ってくると信じている。故郷を守ってやることができなかった事は申し訳なかった……。だからってわけでもないが、ここがお前たちの第二の故郷と思ってくれて良い。いつでも帰りを待っているからな。安心して旅に出ろ!」
「オスカー団長!ありがとうございます!」
オラトリオが礼を告げ、バラッドとロンドもそれに続き、謝辞を告げ頭を下げる。ロンドのその声は少しに震えていた。ロンドの中には感謝など多くの言葉にしきれない思いが渦巻き、守護団で過ごし団員として生きてきた日々が次々に思い出されていて、中々頭を上げることができない。ワルツが、後に続くように話し出す。
「オスカー団長。今まで大変お世話になりました。私のような素性も分からぬ者を快く団に迎えてくださり、大切に育ててくださったご恩は忘れません。身寄りの無い私にとって、守護団は本当の家族でした。今日の自分があるのはひとえに守護団の、団長のおかげです。ありがとうございます……!」
「僕は基本、単独で出払っていることの方が多かったから、中々皆と関わることはできなかったが、その分、団長には本当に世話になりました。この仕事においての孤独や悩み、腹を割って話せる数少ない相手でいてくださった事、心から感謝しています。どうか、これからも僕たちが戻るまで健在でいてください。良い報告ができるよう。身命を賭して務めを果たしてきます。」
「あぁ。この道中は今までの任務より長く険しい旅になろうと思う。だが皆無事に魔王討伐を成し得て、ここに還ってくること。これが守護団ではなく、俺個人がお前達に課す任務だ。必ず達成して来い!」
皆が「はい」と声を揃え、今回の任務の慰労と準備のため旅立ちは一週間後にと話もまとまり、揃って団長室を後にした。
決意はあったが、思いがけず急な卒団が迫り、長年団に属していた三人には思うところも多かったようで、部屋に戻ってからは外に揺らぐ街灯の灯りをぼんやりと眺めていたり、見慣れた守護団の中を改めて心に焼き付けるように歩き回ってみたり、書台で何かをしたためてみたりと落ち着かない様子だった。
その後、準備等に追われつつ、あっという間に一週間は過ぎて行く。
ロンドは団内での挨拶や引き継ぎなど、業務を遂行しつつも親交のあった者と話すことに時間を費やしている様子だった。ワルツも引き継ぎ業務は遂行しつつつ、資料室や図書館などで何やら調べ物をし、必要な資料を集め、今後の道中についてフーガと相談するなどしていた。そんなフーガも、何やらやるべきことがあったらしく数日間はどこかへ出向き、姿を消していた。オラトリオとバラッドは準備以外はできる限り訓練に費やした。守護団から出て、後ろ盾なく自分たちの身一つで戦い抜くことになるのだ。ソラリアで喫した辛勝ではなく、今後は危なげなく勝利をおさめられるようにとの思いからだった。
ありがたいことに団長の計らいで、装備や武具などは守護団の所持している一等上等なものを持たせてもらえることとなった。オラトリオにも武器があてがわれたが、「僕はこの剣で戦い続けます」とそれを辞していた。テイルバレイから持っている剣だが、何かしらの思いがあってのことなのだろうと皆その様子を見守っていた。
そして、来たる旅立ちの日、中庭の訓練場にて、団長と各々の顔見知りの団員が送り出してくれている。その中にはソラリアで救った第四班の姿もあり、口々にまたな、頑張ってこいよ、などと激励の言葉が飛んでいる。
団長が前に歩み出て、高らかに号令を出す。
「オラトリオ、バラッド、ロンド、ワルツ、フーガ。以上、第六班の五名は只今をもって守護団の任を離れ、魔王討伐に出立する。五名が新たに負った使命を果たし、無事に帰還することを心より祈っている!よし……団長としてはこれで十分だな。俺個人としては、お前たち元気でやれよ!無理するな!!」
オスカー団長の力強い声に背中を押され、それぞれに返礼する。
「団長、皆、ありがとう!皆も元気でな!」
「お許しを頂き、拝命したこの使命、しっかり果たして帰還します。」
「守護団の一層の発展と健勝を願っている。どうか皆も無事でいてくれ。」
「短い間だったが、世話になりました。また、必ず恩返しにここへ戻ります。」
「素質はいただきましたが、僕にはまだ勇者と名のつくような大それたことはできません。それでも、一人でも多くの人を救えるよう、守護団で教えていただいた護る志を精一杯体現してきます!本当にありがとうございました!」
しっかりと挨拶をした後、五人は名残惜しく後ろ髪を引かれつつも、守護団を発った。
何名もの勇者の素質を持つ者とその仲間が、その道中や魔王に挑み、命を散らしている。宵闇の王と呼ばれる魔王が現れて以来、数百年の間、その打倒は成し遂げられていないのだ。この先の道中が楽なものではないことは、各々覚悟している。
オラトリオが石畳を歩みながら皆に向き直り、声をかける。
「改めて、長く大変な旅になると思いますが、皆さんご同行いただき本当にありがとうございます……!」
「おい。オラトリオ、ずっと言おうと思ってたんだが、堅苦しいし敬語じゃなくて良いぞ、別にそんな年も離れてねぇんだし、もっと気楽に行こうぜ!」
「そうですよ。私はこの話し方が癖なのでお気になさらず、呼称も呼び捨てて頂いた方が気負わなくて良いですし。戦闘中の号令なども出しやすいでしょう?」
「あぁ、それにどうせ長い付き合いになりそうなんだ。旅は大変かもしれないが、だからこそせめてメンバー間では気を張らず楽に行こう。」
「そうだな、俺も賛成だ。その方がずっと気を張ってるより良い成果が出ることも多いと思う。」
オラトリオはえ、とか、でも……とか戸惑っていたが、皆に言われ、じゃあと気持ちを新たにしたようだった。
「うん!皆ありがとう!改めて、ロンド、ワルツ、フーガ、バラッド!!僕、勇者として早く一人前になるから、それまで……いや、魔王を倒す時まで、どうかよろしく頼むよ!!」
それぞれにオラトリオへ笑みと返事を返し、気持ちを新たに歩き出す。
大変な旅になることは分かっている。それでもと、五人は各々の思いや信念を胸に一歩一歩を踏み締め歩き出した。




