最終形態
「我らが父よ、ブラックブックドラゴンの最終形態らしいです。いま生物学で振ったらそう出てきました」
「は?」
「え、どういうことっすか!?」
「は?」
「あれも技能で倒しますのぉ?」
「……は?」
「我らが父……?」
「……はあ?」
今まで。今まで、個人行動万歳の奴らをまとめて、案も指示も出して、ようやく倒せたと思ったのに。それが。それが。
全部全部全部、ぜーんぶ無駄だった。こんなに腹立たしいことはあろうか……。
実際は苛立たせるためではないし、第一形態が解かれたからこその最終形態だったのだが。スクナにはそんなこと関係ない。
いつの間にか握っていたこぶしは、白く震えていた。爪が長ければ食い込んでいただろう。
俯いて、腹の底から溜め息を一つ。
長く続くその溜め息に、他の三人の顔が引きつった。ゆっくりと、スクナの右腕が上がりこぶしの形のまま。
「〈アザトースのこぶし〉」
振り下ろされた。同時に、先程まで雄々しくも鳴いていたその姿がなくなる。見えないこぶしに押しつぶされたのだ。同時にブラックブックドラゴンがいた場所は余波で窪んでいた。
一瞬で狩られたブラックブックドラゴンに、技能で倒した意味とは? と思ったスクナ以外の三人。しかし、ぱっと顔を上げたスクナが、笑顔で。
「技能を使ってドラゴンを倒す、なかなか得られない体験だったね!」
と最終形態のことはなかったように話す。つまりその話に触れるな、という無言の圧力に、三人は同調した。これが同調圧力。
「悪くなかったっすよね! うちらにまんまと騙されてましたし!」
「我らが父とともに戦えるなど、身に余る光栄でした」
「旦那様が羨ましいわぁ」
「シュブとナイアもよく頑張ったよ。ヨグは高め安定で回避ぎりぎりだったのも何回かあったけど。ぼくも楽しかった」
明るく騒いでいると、ぽんっと軽快な音がした。見てみれば、本が一冊と魔石、宝箱。ブラックブックドラゴンがいたところに残っていた。ドロップアイテムだ。
「わあ、ぼく本もらってもいい?!」
「もちろんです」
「我らが父の作戦のおかげですものぉ」
「あ、うちも鍋敷きにほしいっす!」
「いや、普通に鍋敷き買えよ」
スクナは本が好きだ。というのも、化身であろうとも神にとって『名前』というものは重要なのである。
スクナ、という名前はスクナビコナと呼ばれる医療や農業、呪術や温泉、薬や酒造など多岐にわたる神にも名前が引っかかり、その側面も持つ。
他にも漢字を当てれば『宿名』となるため、占いや月、星読みなども引っかかるのだ。そのため、常に新しい知識を欲している。その知識が、自分の分野に影響を与えるかもしれないから。
代わりに、ナイアやシュブ、ヨグのように本体から名前を持ってくるのは、そういった影響を受けないようにするためだったりする。ナイアのように化身が多ければ容量も小さくなり邪神だけいっぱい、ということ。反対に、スクナはアザトース唯一の化身、その容量も大きいのだ。
と、いうことで。
本をもらって嬉しそうにしているスクナだが、ふと思い出した。
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