三階層
三階層は同じような朴訥とした雰囲気であったが、そこにいたのはグランサーシープではなく。それよりも大きい鶏の立体折り紙だった。
こっこっこと鳴いているから鶏だろ、でかいけど。尻尾にヘビ巻き付いてるけど。と思ったスクナだったが、横でヨグが頭を抱えたことに驚く。
「え、なに」
「……申し訳ありません、我らが父よ。ファンブルです、あの生き物……生き物? の生態についてなにもわかりませんでした」
「あ、うん。鶏っぽいなって思ってるから大丈夫だけど……え、技能使うたびにダイス振ってたの?」
「はい、ええと、いいえ? なんと言いますか。詳しく知りたいと思うと頭の中でダイスの跳ねる音がして、数字が浮かんでくるというか。今までは低い数字だったんですが、先ほど97が浮かびまして」
「97はさすがにファンブルだよ」
「ファンブルだわぁ」
「ファンブルっすね」
ダンジョンにおいて、ファンブルとは95以上の数字が出ることだ。ファンブルは大失敗を意味し、大成功の場合はクリティカルと言われる。クリティカルは5以下を示し、これが出た場合。例えば情報を取得したい場合、ファンブルなら取得に失敗した上、相手を正常に認識できなくなる。反対にクリティカルの場合は必要ある? と言われる情報まで技能が教えてくれるのだ。ファンブルしてしまったヨグは、いまあの立体折り紙の鶏が認識できない状態にあるということだ。
そんな会話をしていたときだった。不意に鳴き声がやんだな? と首を傾げたスクナ。スクナの顔があったところを何かが豪速球で通り過ぎる。
「……え?」
ぎこちない動きで、鶏を見れば。全ての鶏が足元に卵を持ってきていて。
先程のはサッカーボールよろしく蹴られた卵だったらしい。いいのかそれで、と思ったが、それよりも。狙われている。
「……ごときが」
思わず漏れた。その表現が近しいほど、小さな声で柔らかくて幼い声が呟いた。
寄り目になりながらスクナたちを見つつ、身体を前後に揺らしている鶏たち。その足元もいつでも蹴れるように、地面を掻いている。おかげでそよ風に土煙がまじり、バトルのような風合いだ。
「〈我が死為す腕・拉〉」
いっそ、慈悲深くすら感じる声色でスクナが呟く。
途端、全ての鶏が見えない腕に圧力をかけられたかのように、潰れた。軽快な音でドロップアイテムに変わるが、音が鳴り止まない。一体どれだけの数がいたのか。
恐る恐る、ヨグがスクナの顔を見る。穏やかに微笑んでいるのに目だけは笑っておらず……。ヨグはすぐに振り返り、ナイアとシュブに首を振った。怒っている、と。
実際、スクナは冷ややかな心持ちだった。
たった、たった紙ごときが矮小で脆弱で愚かで、己の身の丈も弁えない程度が。スクナを攻撃の的にしたのである。これが他の邪神だったらここまで怒らなかったのに。怒っても皆屠殺まではしなかったのに。
「きひっ……おっと、いけないけない」
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