⒀ 出発前
太陽が遥か彼方の水平線から目覚めようとする前、ルオとラジエルはダンジョン管理部遠隔援護室に訪れていた。無数のモニターからは大陸各地にある無数のダンジョンの中が映し出され、ヘッドマイクを装着した人たちが画面の前で慌ただしく援護をしていた。
「まだ日が昇っておらる頃からせわしないのぅ。」
「ダンジョンに入っている人たちの安全のために24時間体制になっているんだ。普通は2人以上で交代してサポートを行うんだ。」
「ということは我は休まず、ということか。」
「うん、だから心配なんだよ。」
「我は魔法生物の一種の<天使>じゃよ。知的生命体に必要とされる休息なしでも活動が可能じゃ。」
「そういうことじゃないんだけどな。」
見た目は小さな子供だ、そんな子を24時間休みなしで働かせているという最悪の噂がすぐに広まってしまう。
「とはいっても、他にサポーターを雇う勇気もないんだよな。」
周りを見ても忙しそうで、とても声をかけられない。
「そういうことだろうと思って、こちらからサポーターを雇っておいたよ♪」
後ろを振り返るとウィンデはが手を振ってにっこりと微笑んだ。
「グットモ~ニング♪ 二人とも早いね、昨日はよく眠れたかい?」
「はい、ぐっすりと。……そちらの方は?」
昨日と同じことを聞かれたが、今日は答えることができた。
ウィンデの隣にはどこかでみかけた人物が隣に立っていた。たしかアレはそう、昼食をとる前のこと。
「ジャック=ルージュだ! まさか僕のことを忘れていたのか!?」
彼はルオが思い出そうと目を瞑り顎に手を当てると、名乗って怒ってしまった。
「あぁ~、あなたでしたか! すみませんあまりにも印象に残らないものできれいさっぱり忘れておりました!」
ルオが笑顔で謝罪する。
「嫌味だろ!」
ジャックは不機嫌になった。
「もう一人は、昨日<読書会>の案内をしてくださった方ですよね。」
もう一人隣にいるドワーフははっきりと覚えている。ドワーフの男性はぺこりと軽い会釈をした。
「土星の老賢者様の側近をしております。私のことはどうかセバスチャンとお呼びください。」
老賢者の側近は偽名を名乗った。
「どこからどう見てもか弱い子供の姿をしているラジエルだけに任せるのは、ルオ君の今後の社会的地位に悪影響を及ぼしかねないからね、助っ人を連れてきたのさ。子爵殿はともかくセバスチャンはダンジョン攻略経験者であるから、心強いさ♪」
「……僕の嫌味ともとれる発言な気がするのだが! 名誉毀損で訴えるぞ!!」
「気のせいですよ。」
ウィンデはにっこりとジャックをなだめる。目が笑ってない気がする。
「さて、ラジエル。」
「なんじゃ、朝から大悪魔の言うことなど聞きたくないのじゃが。」
「相変わらずけんか腰だな、まいっか。攻略開始時刻になる前にサポートの必須道具の説明をするから。セバスチャン、頼める?」
「お任せを。ではラジエル様、こちらへ。」
ラジエルは無数の正方形のブロック群が付いたモニター前の金属製の机に座った。
「これが最新の魔導技術か! 素晴らしい進歩じゃの!」
ラジエルは目をキラキラと輝かせた。
——午前7時半
「それじゃ、ルオ君は攻略を開始しようか!」
「はい、分かりました。」
ウィンデは指をパチンと鳴らし、ルオの目の前にワープゲートを出現させた。ゲートの向こうは謎の文字列が円を描いていた。ダンジョンの入り口である。
「転移魔術まで、わざわざありがとうございます。」
「それが我ら七王の仕事でもあるからね。ま、してるのは私と老賢者だけなのだがね。」
「気を付けるのじゃぞ、ルオ君!」
モニター前に座るラジエルは言う。
「それじゃあ、行ってきます!」
ルオはゲートをくぐり抜けた。




