(62) あなたに夜明けを
炎と雷の衝撃が身体中に伝わる。そういえば痛みなんて何百年ぶりだろうか。
「からの~、0距離<箒星>!!」
彗星の威力がゼロ距離でヘルに当たる。
「があぁっっ!!」
人類が想像できない痛みがヘルを襲う。
痛みでつむる眼をなんとか開けると、目の前には黒髪短髪の青年が荒い息を吐きながら、こちらを睨んでいた。
流石ね……。
マギアバーストを起こした時はどうなるものかと思ったが、しっかりと大地を踏みしめている。
これならきっと、自分の誕生の原罪にも向き合えるだろう……。勝手に母を名乗った身だが、冥利に尽きる。
きっと、息子がいたら、この幸せを味わえたのかしら……。
「ヘル……?」
青年のルオはヘルが抵抗することなく攻撃を受け入れたことに疑問持った。いや、今までの行動ですでに持ち始めていた。
「鋭い子ね……、がはっ……!」
赤黒い液体が口からこぼれ落ちる。<黒血>派の魔獣以外の魔法生物はだいたい赤い血液である
「全然倒れてくれないです!!」
「流石は<厄災期の永夜>の象徴じゃの!! だが、あと少しじゃ!!」
厄災期の永夜……。懐かしい忌み名だ。流石は知恵の天使、自分が知らぬ知識を常時取り入れているのか。
「そう簡単にくたばる気はないわ!! 」
ヘルは残りの魔力で、三人にもう一度<死の概念>を与える。
「同じ手に乗る気はない!!」
ルオの魔力を貰ったラジエルが、ヘルの魔法攻撃をキャンセルする。
「さっきのお返し!!」
血と泥にまみれてもう捨てるしかないほどボロボロになったゴスロリのを着た、メルセリス(メリー)がヘルに飛び蹴りをする。
「いい加減、あきらめなさいよ!!」
利き手でメルセリスの足を受け止める。いつもなら指一本だけだが、片手が震え拮抗する。
「いやです!! ここでリタイアしたら、師匠に100%怒られてしまうです!!」
ヘルは彼女の師である、ウィンデを見る。開戦早々に観客側になり、椅子に腰かけて高みの見物をしている。
だが、厳しい顔をしている。ウィンデは<玉手箱>の力と異能の合わせ技で、時空の歪みを止めているのだ。愛すべき馬鹿弟子を助けたくても、助けられない。
「強者の余所見ですか!」
「しまった!?」
たった一瞬の隙をつき、ヘルの間合いに踏み込まれる!!
「<残花・夜明け槍>!!」
魔術によってつくられた槍が桜の花を舞い散らしながら、ヘルの胸を貫く。
「くっ!」
血を吐きながら、ヘルは槍の逆輪を両手で持ち、引き抜こうとするがルオの力が勝っている……。
「……これで!! 最後だぁああああ!!!!」
ルオは力いっぱいに槍をグンッとヘルの胸に突き刺す!!
パリンっ
「あっ……。」
死霊を維持する術式が崩れた音がした……。
身体がひび割れていき、断面から光の粒子が宙へと飛び出していく……。
あぁ……、ついに終わるのか……。長い長い夜が……。
「……流石、真打ね……。」
「……俺は落語家じゃないんですけど。」
頭を掻きながらルオは苦笑いをする。
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