(36) 御伽噺は架空だったのか
フロアポイントを出発し、竜宮城の最奥の扉の前に到着した。昨日一日中眠ったので3日間の疲れは殆ど取れていた。扉には御伽噺に出てくる東洋の赤い立派な建物と巨大なウミガメの絵が描かれていた。
「ポラリスはこの奥に<玉手箱>があると示している……。御伽噺を元にして考えたらボスエネミーは亀型の確率が高そうだ。」
ダンジョンボスは迷宮の象徴である。竜宮城の美しき姫君を元にしたエネミーは流石にあり得ないだろうから、心優しき釣り人を乗せて竜宮城へと招いた亀がモチーフになるだろう。
「ルオさんってほんとうに東洋海賊領域のことを知ってるのですね~、メリーは大陸から出たことが無いからもし一人だったら今頃海の中をさまよって海魔のご飯になっていたのですの。
「確かに大陸の中だと平均よりも詳しいだろうけど、聞いた話ばかりだからそれ以上のことは明るくないよ? それに、本来大陸にあるはずのない竜宮城が<ニヴルヘイム>にある時点で、もう俺の知識が絶対有利になるというわけではないし……。」
何がどうして竜宮城が<ニヴルヘイム>の中にあるのかは全然分からない。<ニヴルヘイム>の王、つまりこの迷宮群を統べるヌシか迷宮そのものの意思なのかは定かではないが、無関係であるということではないだろう。
「とりあえず早く安全にボスエネミーを撃破しよう! ラジエルたちに心配をかけてしまってるし……。」
「それなですの!」
二人は扉をよっこいしょでギギギと扉を開けた。
「「!?」」
「これは……。」
「きれい……、でも寂しい感じですの……。」
扉を開けた先に2人を出迎えたのは、ボロボロの廃墟へと化した朱色の東洋の城であった。塗装は殆どが剥がれ落ち、あの御伽噺のようなこの世にはないほどの美しい海の国は何処にも無い。人語を使いし城の魚もおらず、寂しいだけが言葉に出てくる。
「何があったんですの?」
「さぁ、母からの読み聞かせでは竜宮城が釣り人が帰っていった後のことは一切書かれてないからね。そもそも御伽噺だ。迷宮の竜宮城と御伽噺の竜宮城とでは違いがあるだろうから……。でも、どうして廃墟?」
劇場のセットのようにただの雰囲気づくりのハリボテではなく、数日前まで誰か不特定多数の者たちが生活していた跡がある……。
「誰か先に来たのでしょうか?」
「東のことは分からないから、今ここで判断はできないな……。」
Woooohooooooooyoooooo!?
不思議な鳴き声が下のほうから響きわたってきた。ダンジョンボスの雄たけびだ。だが少しだけ寂しそうな声色であった。
「メリー!」
「はいです!」
2人は魔力をそれぞれの利き手に集め始める。
「来た!」
深く暗い深淵なる海底から竜宮城を覆うほどの巨大な真っ黒なウミガメが現れた。片目がつぶれ、甲羅やヒレの所々は痛々しい傷がついていた。不死身の海魔がここまで傷を負うほど戦闘がかなり前にあったのだろうか?
「とりあえず挨拶代わりの<オロチ>!」
「さいきょうキック!」
ルオの魔術の蛇でウミガメを頭から丸ごと飲み込み、メリーが<黒炎>をまとう、ガーターソックスを履いた足で蛇ごと蹴る。
「うぉおおおおお!」
ルオの身体の中に海魔が流れ込んでいく。血液に入り込み、全身に気持ち悪い感触のナニカが浸蝕してゆく……。
<オロチ>、それは海賊<八岐大蛇>が代々使う海魔殺しの力。正確には海魔を自分の身体の中に吸収させる方法だ。
使用した術者は個人差があれど人間なら、段々と身体に吸収した魚の特徴が現れていき、抵抗力が無ければ身体を乗っ取られ、全く新たな不死者が誕生してしまう。代償ありきの力だ。
「うっ!? んあっ!、くっ……!」
海魔の大好物である魔法生物には人間よりも猛毒であるが、乗っ取られる心配はないので、後は吸収するまで耐えるだけである。
「ルオさん!!」
メリーがじたばたとおぼつかない泳ぎ方でルオのもとに駆け寄る。ルオはスッと利き手である右手でメリーに止まれのサインを出した。
「もう、大丈夫……。」
ルオは大量の汗をつたわせ、心臓の魔狂石を抑え、大きく呼吸をしながら言った。
「……、とりあえず良かったですの。想定よりも早く終わったのが驚きですの……。」
「今、ハァ、<大蛇流>を習得していて、ハァハァ、本当によかったって思ったよ……。ハァ……。」
迷宮を攻略したら母と古の海賊たちに礼を言わなくては……。




