(33) 覇者の遺産
羅針盤型魔導具は彼のお墨付き通り、迷うことなく層を次々と突破していく。全20層で、罠や行き止まりも多いダンジョンだが羅針盤の前では無意味となっていた。正直時空乖離という条件が無ければ禁止レベルのチートアイテムだ。一体だれがこんなものをつくったのやら……。
「確か<覇者のゼイダート卿>っていうお方がシャングリラで見つけたんだっけ?」
「そうなのです?」
「これが、その実物なのかは今は恐ろしくて考えられないけど。数十年前のウィザードタイムズ(魔術師用の新聞)で載ってた気がする。」
「ほぉ~、ゼイダート、やはりその名前が出てくるのですね。プラチナクラスの伝説。」
「第三迷宮でメリーが口にしたとき、ふと思い出したんだ。性別年齢不明の謎多きドワーフ、そしてドワーフの英雄……。」
ルオは彼について少し興味があった。
「今も存命ですの?」
「いや、数年前に<アマリリスの庭>に招かれたみたい……。原因は未だ不明で<抜け殻>はまさかの教会が保管しているみたい」
「……てことは、コレは覇者の遺産なんですね……。」
「そうだね……。」
ルオは羅針盤を軽く撫でた。魔力により優しく光る。
静かな夜の海では海魔のナワバリであり、魚だったものたちが海中を漂っている。危険な夜中の海はフロアポイントで明けるのを待つの一択だと思っていたが、第四迷宮からの追加条件により、そんな場合では無くなった。遺産の羅針盤にはわずかに魔除けが付与されているので、何とか襲われずに進んでいる。
「!? メリー、俺がいいって言うまで喋らないでね……。」
「なんでです? ふごぉ!?」
ルオは仕方が無く(安全のため)メリーの口を手で押さえた。ルオはメリーを離さないようにくっつかせ(安全のため)、岩場の陰に静かに隠れた。
(危険度s海魔……、光を代償に二つの口を持つ異形の鮫……。迂闊だった……。アレの群れの中に入っていたなんて。)
二人の周りに鮫型海魔が獲物を探していた。視力が無いため音と血の匂いで探すが、口を増やしたことにより知能が大きく下がっている。コイツらが下がるまで音を立てなければ襲われることは無い。
「……!」
メリーは恐怖で叫ばないように目を瞑る。
「…………、よし。もういなくなった。……ごめんな、メリー。いきなり君の口に触って……。後身体にも触れてしまって……。」
「そんなことないです! ルオさんが居なかったらメリーは今頃海魔に襲われていましたです。」
メリーは必死に首を横に振る。
「ありがとう。確か海魔は魔法生物ですら喰らうんだよな。」
「そのとおりです。魔法生物を好んで捕食・吸収するので海を嫌う同胞が多いのです。かくいうメリーも夜の海が大の苦手なのですが。」
「そこは耐えて……。」
「わかってるのです。……それよりも! 今はどのくらいすすんだです?」
「11層かな。羅針盤のおかげでチートレベルの早さだよ。ま、おかげで寝れてないんだけど。」
現在深夜3時である。
「今頃現世ではどうなってるのでしょう?」
「ラジエルたち曰く、こちらの1日が終わると現世で1カ月となるみたい。今は月末なんじゃないかな。」
未だ迷宮の外が何週間も経っているだなんて、実感が湧いてこない。
「そういえば、メリーが好きな漫画の最新刊が月末発売されるんでした……。こんな状態じゃ買いに行くことすら難しいですの。」
「漫画はフロアポイントのお店に置いてないからな~。時間のズレがデメリットすぎる……。」




