(29) いざ海中へ
水の香を起動すると、香から海の香りがする青色の煙が二人を包み込む。
「これで海の中でも陸と変わらず行動できるはずだよ。浮力云々とかも、追加で魔力を使うことで歩行もできるんだっけ。」
「なるほどです。ルオさんは使ったことがあるのです?」
「連合で試作品をお試しで1回だけ。海の中ではまだ使用したことが無いけど、相当凄いみたい。」
二人はゆっくりと海の中に入っていく。普通なら足に当たる冷たい海水のあの不思議な感触が来るはずだが、水の香によって打ち消されている。靴は砂まみれにならないのがありがたいが、あの感触が味わえないのが少し残念でもある。
ちゃぽちゃぽ、と音だけがする。
顔まで海に使っても、海に入ったという感覚が無い。便利だがその反面危険な代物でもあると感じた。
「おぉ~、海で呼吸ができるのです!」
「海洋民族の呼吸法を取り入れているみたいだからね、他にも極薄被膜バリアで身体が濡れないようにしているし。」
「メリーは少し金づちなのですが、これなら何とか進めるのです。」
メリーは海中で陸と同じような状況でスキップをして見せた。浮力の方まで調整できるのは、試作品では無かった。
「歩けても泳いだ方が速いんだけどね。」
「ぬがっ!」
乙女らしからぬ声を上げる。
『故障もなく、作動しているようじゃの! 我はセバスチャンと交代するから、我がいない間もしっかり安全第一で頑張るのじゃぞ!』
ラジエルは一足先に休憩に入った。
『ここからは、私セバスチャンが担当いたします。』
「よろしくなのです。」
「いつもありがとうセバスチャン。とりあえず夜中になる前に、2層にあるフロアポイントを目指そうか。夜になると海魔が出現するから。」
「<嫉妬の君>の哀れな眷属達ですか、ならば早く行くべきです!」
二人は魔術で明かりを灯し、海の中を進んでいく。
『お二方! 前方二時の方向に海魔です!』
「も、もう!?」
メリーは咄嗟にいつもの黒炎で出そうとするが、海魔のスピードが速く間に合わない。
「<オロチ>!」
ルオは魔術で水の大蛇をつくりだし、海魔を迎撃した。水の大蛇に頭から喰われた海魔はそのまま絶命し、身体は大蛇によって魔力に変換された。
「……ふぅ、メリー、無事?」
「はい、なんとかです。先ほどの術は?」
「<大蛇流>の奥義だね。全てを喰らい、魔力に変換する悪食の蛇を顕現させる魔術さ。海魔は海だと不死だからね。」
「感謝オブ感謝なのです。魔法なら倒せるはずなのに、遅れてしまい申し訳ないです。」
確かに魔法ならたとえ海の中だろうが不死の海魔だろうが、倒すことができる。
「魔法はメンタルによって威力が変化するんだろ? さっきの様子じゃ海魔を見慣れてなかったようだし、海中で戦闘なんて海洋民族じゃなきゃ滅多にないさ。」
「ルオさんは慣れているのですね。」
「幼いころに家族全員での海水浴で、母さんに海魔討伐の特訓をさせられたからね。おかげさまで手慣れたんだよ。」
<大蛇流>は古の海賊によって生み出された魔術。ならば当然海に特化している。海中に特化している魔術の流派は残念ながらランセティア大陸には存在しておらず、東や海洋民族くらいである。
『私も<大蛇流>については少しだけ存じております。奥義は連発できないはずです。本当に危険な時は構わず電撃でお願いします。水の香に雷耐性が既に付与されていますので。』
「それを早くいえぇぇぇぇぇぇぇえ~!」
夜の海中にルオのツッコみが響き渡り、眠りについた魚たちが驚いて目を覚まし、再び眠りについた。




