161話★始まり
新章開幕です。よろしくお願いいたします。
大きく息を吸う。少しの緊張と新しいことを始めることへの高揚感が交互に押し寄せてくる。
今日は国王陛下への謁見と第2王子との顔合わせの日だ。
王宮までは公爵家の馬車で片道1時間程。そこそこの距離がある。だが、これから王子の授業がある時はこうやって通わなければならない。
ちなみに、学校の方は、私が授業したいとわがままを言ったので、私が王子の授業でいない時は、アンディ様と学習が進んできたルカさんに任せることになった。ウィル先生も手伝ってくれる。ありがたい。
さて、話を戻して、王宮及び王都に来るのは学校の許可を貰った時以来で2度目だ。あの時は身分を示すものも何も持っていなくて怪しまれたのを覚えている。でも、今日は大丈夫。陛下からの直接の召喚状がある。大丈夫よね?
少しの不安を抱えつつ門へと行くと、馬車を運転してくれている御者さんが召喚状を衛兵にみせてくれる。すると、衛兵は確認をし、それから中へと入れてくれた。
よかった、大丈夫だった。
ほっと胸を撫で下ろしながら、御者の手を取って馬車をおり、そして王宮へと入っていく。御者とはここでお別れだ。中には待っていてくれたのか、お仕事中のはずのマーク公爵がいた。
「来たね。王の元へ案内するよ」
「偉大なる公爵閣下に案内して頂けるなんて光栄ですわね」
「こちらこそ美しいお嬢さんをエスコートする大役を仰せつかって光栄だよ。じゃあ、行こうか」
なんて少しの軽口を交えつつ王宮へと歩いていく。国王陛下のいる謁見室へと歩き、そして、衛兵が扉を開けてくれた。
あの時と変わらず広く美しい王宮の部屋は、いつ見ても気持ちがピリッと正されるような気がする。その中央におられるのがこの広大な王国を治める国王陛下その人だ。
私達は陛下の座られている下に膝をつき、頭を下げる。
「よく来たね。頭を上げて」
国王がそう言ってくれたので、私は顔を上げた。キリリとした目に艶のある金髪。陛下の美しい姿は健在だ。その切れ長の目を優しく細め、慈愛深くこちらを見ている。
「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しいこと恐悦至極に存じます」
公爵が挨拶を述べる。陛下は頷き、それから言葉を続けた。
「アッカリー嬢、今日はそなたに2つ話がある」
「はい」
私は陛下の言葉に答える。ひとつは今回の家庭教師のことだろう。もうひとつはなんだろう……?
「ひとつは、我が愚息のこと。家庭教師を引き受けてくれると聞いた。ありがとう。よろしく頼むよ。そなたの生徒となるのは第2王子である、ローレンス・ケイラーだ。部屋にいるから後で会いに行ってやってほしい」
「謹んで拝命致します」
ローレンス・ケイラー第2王子殿下……どんな方なのだろうか。国王陛下に似ているのだろうか。
「ローレンスのことについては、この後、別の部屋ですることとする」
「承知致しました」
まぁ、そうよね、こんな謁見室みたいなところで王子のことをベラベラと話せないもんね。誰が聞いているか分からないし。最初にここに呼ばれたのはきっと家庭教師を拝命するためなのだろう。拝命式のかわりのような……。
「2つ目は神に関すること。そなたは海の神の愛し子になった。この国での神の愛し子の待遇について話しておかなければならぬ」
「はい」
神の愛し子……。きっとそれはこの国で大きな意味を持つ。厳しい制限などがあるのだろうか。よくあるのは修行のために神殿に入る、とか国を出てはいけない、といったことだと思う。自由に身動きが取れないのは嫌だな……。
そう思っていたが、陛下からの言葉は予想とはだいぶ違っていた。
「神の愛し子は自分の全ての決定権をそなた自身がもつ。つまり、王命に従わなくてもよい。愛し子だからと国を出てはいけないなどと制限されることもない。どこにあろうと自由である。王国はそなたの意志を尊重する」
そんな自由なかんじなの!?私が思わず目を見開く。しかも、王命に従わなくてもいいだなんて、そんなことある!?
私が驚いているのがわかったのか、国王陛下は優しく目を細めて、
「愛し子は神に認められた者だ。何人たりともそなたを損なうことは許されぬ。たとえ国王であろうとも。そなたの安全は我が国が保証する」
神の存在はそれほどまでに偉大なのだなと思った。最大限尊重してくれる。
「ただ、人の命に関することや国を守るためのことなど最低限のことは制限させてもらう」
つまりは公共の福祉に反しない……みたいなかんじかな?理不尽なことは押し付けられない、といったところだろうか。そりゃそうだ、愛し子のために国が傾いては本末転倒だから。当たり前のことだ。それを差し引いても高待遇過ぎると思う。
「わかりました。ありがとうございます」
その後、場所を移して、国王陛下と公爵と私で第2王子殿下の今後のことを話した。
第2王子殿下は、名前をローレンス・ケイラーという。元々は王立サンフラワー学園の生徒だったが、全く学校には通わずに、暇さえあれば街へと遊びに行く、出かけるなど遊び歩いていたらしい。夜遅くに帰ってくることもざらじゃない。
つまりは全く勉強はしていない、と。
陛下曰く、学園に入る前は家庭教師がついていて、それなりに勉強もしていたらしいのだが、学園に入ってからは勉強も鍛錬もしなくなってしまったらしい。
ついには、学園には当分の間来なくていい、と言われてしまったらしい。いわゆる素行不良の停学、のようなものだろうか?
そして、陛下は学園に復帰をさせたいと思っているらしい。その方が彼のためになるから、と。
「生きていくのに勉強は必要だ。特に王族は、民の生活を支えるためにいる。それに、あの子も学ばなければこの先生きていけまい……。まぁ、勉学についてそなたに説くのはおこがましいかもしれぬな」
「とんでもございません」
陛下の方がたくさんのことを見て、たくさんのことを知っている。私が偉そうな顔をする方がおこがましいと思う。
「学園復帰にはテストがある。そのテストに合格をさせたい。どうか協力して欲しい」
「わかりました。精一杯務めさせていただきます」
第2王子殿下に私ができることは是非協力したい。でも、ただ押し付けるだけじゃなくて、本人が望む形で。
とりあえず、王子殿下に会ってみよう。




