160話★私に足りないもの
海の神がすっと私の隣に降りてくる。そして、うんうんと頷く。
「魔力が巡っておるな!よく気づいたな!そなたに足りていなかったもの」
「え?」
「そなた、もう魔法が使えるようになったはずじゃ」
どうやらあんなに苦戦していた魔法が今、使えるようになったらしい。
え?どのへんで?なんで?何が起きている?
クエスチョンマークをいっぱい飛ばしているであろう私に海の神はずいっと近づいてくる。目の前に少しツリ目気味の大きな瞳がある。
視界の端でアンディ様とマーク公爵が跪いたのが見えた。目の前に海の神がいるからだろう。海の神はそんな2人の様子を流し見て、「楽にせよ」とひとこと声をかける。
いつも通り気さくな雰囲気だ。こうも気さくだと時々神だということを忘れそうになる。神らしいのか神らしくないのか……。
海の神の神様らしさは一旦置いておき、海の神の説明を聞くことになった。
なにか供え物をした方がいいのか……とオロオロするマーク公爵に、海の神は「気にすることないぞ。じゃが、わらわは甘いものを好いておる」と仰ったので、急いでケーキと紅茶が用意された。テーブルの上に山盛りのケーキが並ぶ。
海の神に促されたため、海の神を囲うようにソファに座ることになった。マーク公爵が「か、神と同じテーブルに……!?」と目を白黒させて失神寸前になっていた。
そんなマーク公爵の様子は露ほども気にせず、海の神はテーブルに並べられたケーキを頬張っている。
「うむ、苦しゅうない」
お気に召したらしい。もぐもぐと頬張る海の神は、「おっと、説明せねばならぬな!」と思い出したように言い放った。
「愛には2種類あると言ったであろう。そなたは、先生をしておるから子どもたちを大切に思うし、まぁ、恋もしておるから、他者を想う愛は充分すぎるほどある」
こうも大々的に恋をしていると言われるととても恥ずかしい。だが、子どもたちへの想いもアンディ様への想いも間違いではないので、海の神の言葉に頷く。
他者を想うことが愛のひとつらしい。では、私に足りなかったもうひとつの愛のとは……?
海の神の言葉を待つと、海の神はじっと私の瞳を見つめる。不思議な色の瞳が美しい。
「そなたに足りなかったものは、自分を愛する心じゃ」
「自分を……愛する心……ですか?」
私がオウム返しのようにそう言うと、海の神はスっと目を細めて、頷く。
「つまり、簡単に言うなら"自信""自尊心"といったものじゃの。これは、ありすぎてもいかんが、無さすぎてもいかん。難しいところじゃ。そなたはどこかで、自分はいらない子だと思うておったであろう?」
確かに……。
私は前世の記憶を持って生まれている、この世界に必要なのか必要じゃないのか分からないような存在だと思っていた。
半端者で、魂でさえ2色あるらしい。
それに、学校づくりもたまたま私が前世に教育を学んでいたから少し詳しかっただけ。
前世の記憶のないアンディ様やジェニーがどんどんいろんなことを考えて提案してくれる度に、アカシアがどんどん生徒たちと打ち解けていく度に、私じゃなくても良かったんじゃないか、そう思っていた。
私がいなくてもこの学校はまわると。
「じゃが、この学校から居られなくなると思ったのじゃろ?そして、同時に"私にしかできないことがあるはず!"と思った……ちがうか?」
「はい……」
私のかわりに誰かがここにいたら、と思うと嫌だと思った。私にしか出来ないことがあるはずなのに、と。
「その自分を認める心が大切だったのじゃよ」
そうか、他者を愛し、自分を愛す。愛は2つないと成立しないんだ。
「確かに自己犠牲は美しいかもしれぬ。じゃが、壊れてしまえば元も子もない。それに、自分を大切にすることは、そなたを大切に思っている人のためでもある。今感じた心を大切にせよ」
「はい」
「では、また時間があるときに魔法放出の練習をせよ。神殿に来ればわらわも教えてやる。いつでも来ればよいぞ。それから、このケーキは大変美味であったぞ!残りはそなた達で食べるがよい」
海の神はカラカラと笑ってそれから、スっと消えた。神殿に戻ったのだろう。
海の神の電撃来訪から少し落ち着き、私達は改めてソファに座り直した。マーク公爵の心臓が心配だったので少し休憩をとった。
マーク公爵は狼狽えから復活し、いつものキリッとした姿に戻っている。目の前にはとても可愛いファンシーなケーキが並んでいるので、少々違和感があるが。
「あなたの気持ちを考えてあげられなくて申し訳なかったね。王室教師は断るかい?」
マーク公爵が申し訳なさそうに謝った。断る……断っていいのだろうか……?だって、せっかく私を必要としてくれているのに。私に任せたいと言ってくださっているのに。
出来ることなら、そっちもしたい。そう思ってしまう。あれ、私、欲張りになっているかもしれない……。
「せっかく私に依頼をして下さったのです。私、両方したいです。両方できる方法はないでしょうか……?」
難しいことを言っているのはわかっている。それでも、私に出来ることはしてみたい。困っているというのなら助けたい。
そう思って提案すると、マーク公爵は心配そうな顔をした。本当に優しい人なのだと思う。
「あなたの負担が増えてしまうかもしれないが、大丈夫かい?」
そりゃそうだ。第2王子がどの程度できるか分からないけれど、確実に今やっている学校以上の内容をすることになる。となると、教材研究も教材準備も今までの倍かかるということだ。
新たな試みになるのだから、全てでは無いけれど、ある程度1から手探りでしなければならない。それに、今までの方法が王子に合うかもわからない。
でも、そんなの承知の上である。できるかは分からない。でも、やってもいないのに諦めるのは嫌だ。私は意志ののった瞳で向かいに座るマーク公爵を見つめる。
「大丈夫です。承知の上です」
「わかった、考えてみるよ」
マーク公爵はじっと私の顔を見てから、頷いた。それから、席を立つ。この後の調整のためだろう。王にも連絡を取るかもしれない。
「申し訳ないけれど、私は所用で抜ける。このケーキはあなたたちで食べて大丈夫だよ」
このケーキを食べていいって!?うれしい。実は食べたくて、うずうずしていました!なんて、言えないけれど。
「ありがとうございます!」
私の目がキラリとしたのがわかったのだろう。隣に座るアンディ様がクスッと笑ったのが横目に見えた。そんなにわかりやすく笑わなくていいだろう……。
だって、神様から下げ渡されたものには神の力が宿るのよ、残すなんて勿体ないわよね?!
それに、忙しくなるから美味しいものをたくさん食べておかないと!!
第4章はこれで終了です!次から、第5章に入ります。
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