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159話★私にしかできないこと

今日も今日とて海の神と向かい合っていた。


「うむうむ、魔力を引き出すのは、造作もなく出来るようになってきたな」


「はい……」


魔法を感じるのは上手くなってきた。今ならある程度海の神と離れても魔力を引き出すことができる。魔法は使えなくても、魔力を感じることは日々練習しているのだ。


神殿に通う予定だった期間は、もう今日で終了だ。学校も明日から始まる。つまり、あれから一週間、ほとんど進展がないということだ。


「明日から学校が始まりますので、この一週間ほど頻繁に来れないかもしれません」


「そうか、まぁ、仕方ないのぅ。して、準備はよいのか?明日から始まるなら準備時間が必要なのではないか?」


「ありがとうございます」


海の神にお礼を言って神殿を出る。1週間で結局魔法を使えるようにはならなかった。私は神殿を出たあと、ため息をつきながら、学校へと向かう。


学校と教室の整備のためだ。全然行っていなかったから掃除などをしなければならない。久しぶりに学校へと赴く。切り替えなければ。


と、思ったものの、切り替えられないのが現状で。箒をもったまま教室の中で立ち尽くす。あまり汚れていないのが幸いだ。


つい考え込んでしまう。どうして上手くいかないのか、何がダメなのか。努力不足かもしれない。もう少し努力しなければいけないのか。


そこまで考えてブルーな気持ちになる。はぁっとため息を吐きかけて、ブンブンと首を振る。


こんな調子じゃだめだ、だめだ!明日から始まるというのに!教室整備すらままならないとは!


落ち込んだ気持ちを吹き飛ばしたい。


そう思っていた時、


「レベッカ、いる?」


学校の出入口から声が聞こえた。顔を出したのはアンディ様だった。


「アンディ様!」


「あ、よかった!いた!お父様が来て欲しいって言っているんだけど、今、構わないかな?」


アンディ様は私を見つけると、優しく笑ってそういった。マーク公爵の用事……何だろう?


「大丈夫です。すぐ行きます!」



「レベッカ殿には、王室教師をやってもらいたい」


「……つ?!」


アンディ様に連れられてマーク公爵の部屋に招かれると、開口一番そう言われた。思わず淑女らしからぬ声がもれそうになり、慌てて声を引っ込めた。


「レベッカ殿が作った学校に王がいたく感動されてね。それで、第2王子の勉強を君に任せたいと仰っているんだ」


驚いた様子の私に、マーク公爵はそう続けて言った。私の作った学校の事や評判が王にまで届いているとは……。作る許可を貰いに行ったっきり関わりはなかったのに……。


とても光栄なことだ。王子の教師に任じられるなんて。でも、そうしたら、この学校は……?


「で、では……この学校は、どうなるのでしょう?」


そう聞くと、マーク公爵は優しく笑った。その様子はどこかアンディ様に似ている気がする。


「ここは、アンディとルカに任せようと思っている。君は王室教師に専念してくれればいい。王宮お抱えの教師となる。王族と関われるのは君にとってもいい事だと思う」


君の地位を確立できる、と続けた。


「………」


「返事は急がないから、少し考えてみてくれ」


マーク公爵は、私を心配して下さっているのだろうと思う。これから先、ずっとマーク公爵の庇護を受け続けられる保証はない。大人になるというのは自分で生きていく、そういう事だ。何の後ろ盾もなく生きていくには貴族社会は危な過ぎる。それも分かっている。


マーク公爵もアンディ様を私を心配してくれている。


でも、


とりあげられる……?


1番初めに思ったのはそれだった。おこがましいかもしれない、でも、そう思った。大切に大切に作ってきた学校と、愛らしい生徒のみんなとの時間……それがなくなってしまうということ?


そんなの、そんなの


……嫌だ。


嫌に決まっている。


……誰にでも出来そうだ、私がいなくても、きっとちゃんと回る。私がここにいる意味は何なのだろうか。私は、必要ないのかもしれない。


そう思っていたはずだったのに。


醜い感情かもしれないけれど、誰にも譲りたくない。私にしかできないことだってあるはず。ここのことを1番分かっているのは私だ。


こんなのわがままでしかない。わかっている、幼子がおもちゃを取り上げられたみたいな、格好悪いわがまま。それを通そうとしてる。


でも、


ここは、私の学校だ。

ここは、私の全てだ。


涙が溢れそうになる。目頭が熱くて、身体がワナワナと震える。ぎゅっと握りこんだ手が痛い。心が、心臓が痛くて、苦しい。


気づいたら叫んでいた。


「ここで先生をするのは、私です!私にしかできません!」


その刹那、何かが弾けた。


なにが、と言われればわからない。でも、そう形容するのが一番近い。私の身体の中で何かがバチンと大きな音を立てて弾けたのだ。そして、温かいものが身体を巡るのも同時に感じた。


それは確かな熱をもってぐるぐると身体を巡る。全力疾走をした後のような高揚感とぬるま湯に浸かっているかのような快適感を同時に感じるような不思議な感覚。


「……なに、これ……?」


「レベッカ、大丈夫?」


戸惑う私に、アンディ様がすぐ近くに来てくれる。心配そうな表情だ。私は戸惑いを隠せないままではあるが、身体の方は大丈夫だったので、頷く。


「は、はい……。でも、不思議な感覚が……」


何これ……?


温かい何かに気を取られていると、頭上から声が聞こえた。


「よくやったな、レベッカ!」


海の神の声だ。

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