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World Heir Online  作者: 案山子慧
第1章 草木も眠る
28/31

襲いくる悪意

前回投稿からかなり時間がたってしまいましたがようやく更新再開できました。

どうぞよろしくお願いします。

 サファイアの月12日【インセクトフォレスト】 午前6時43分


「何もなかったな……」


 昨日、抗いがたし睡魔に身を任せて眠ってしまったが、正直朝まで目が覚めないなんてことはないと思っていた。

 昨日の謎の気配がPKを企むプレイヤーだとしたら、間違いなく寝込みを襲ってくると思っていたからだ。

 少なくとも俺がストーカーの立場なら格下と思われるプレイヤーと闘うのと、夜の森の中をセーフティエリアに入らずに過ごすのであったら前者を選ぶだろう。


 しかし実際には俺は襲われることなく朝までぐっすりと眠っていた。これは何を意味しているのだろうか。


 仮説一、何らかの罠の気配を感じて諦めた。

 答、一応《気配探知》を発動したまま寝たので追跡者(ストーカー)が近づいてきたら目が覚めるようにはなっていたが、しかしそれも絶対じゃないし、そもそもそこに気が付くようなプレイヤーなら《気配探知》に引っかからずにPKを遂行できただろう。


 仮説二、実はPKが目的で追ってきたのではなく俺に一目惚れしたプレイヤーだった。

 答、現実を見ろ。それにもし仮にそうだったとしたらどうしてセーフティフィールドに入ってこなかったのか。幾ら俺に警戒されているとはいえ、夜の森でセーフティフィールド以外で過ごすと言うのは自殺行為だろう。


 仮説三、寝込みを襲うのは卑怯だとして諦めた。

 答、そんな殊勝なことを考える奴がPKをしようとするはずがない。




 ……やはりどれもこれも理由としては決め手に欠けている。


 さらに妙なのは昨日までずっと感じていた気配を今は全く感じていないと言うことだ。


 普通に考えれば相手が諦めたと考えるべきなのだろうが、一日中付きまとったり無防備な姿で寝ていた俺(えもの)をこんなにもあっさりと諦めるとは考えにくい。


 俺が一筋縄ではいかないと警戒しているのか、それとも油断させて罠にかけようとしているのか、はたまたただの気まぐれなのか全く判断が付かない。


「ま、今回も出たとこ勝負でいくか」


 昨日も散々考えて答えが出なかったことが一日経ったらわかると言うのもおかしな話だ。


 とりあえずこの森を抜けることを最優先する。謎のストーカーは出てきたときに対処すればいいだろう。

 よし、そうと決まればまず最初にすべきことはただ一つ……




「……朝はやっぱりモーニングコーヒーだよな」




 腹ごしらえは大切だよね。うん。




                 ◇               ◇




 朝食のモーニングコーヒーと取れたて新鮮食材をふんだんに使用したサンドイッチを平らげてから三時間。未だに俺は森の中をさまよっていた。


 この森での出会いは気持ち悪い虫ばかりで潤いと言ったものが全くなく、時々出てくるゴブリンに親近感がわきてくる始末である。

 覚悟はしていたのだが、二時間ほど昆虫型モブとしかエンカウントしなかった時には本気で心が折れそうになった。ここには昆虫しか出てこないと分かっていれば我慢も覚悟もできるのだが、中途半端にちょこちょこ亜人系のモブが出てくるのが本当に性質が悪い。全く躊躇なくこいつらを斬れるかと聞かれるとすぐさま返事をするのは難しいだろう……まあ実際には俺の経験値とゴールドになっているのだが。




 ただ、今現在はその状況が少し変わってきていた。


「んー、虫ケラすら出てこないってのはどーゆうことだ?」


 ここ数十分は亜人系モブどころか昆虫すらなかなか見かけなくなってきているのだ。

 正直これが偶然……だとは考えにくい、だとすると。


「……俺以外のプレイヤーが効率よく狩りをしているのか」


 この森は気持ち悪い虫が大量に出てくるが、一体当たりの経験値も多いしリポップも早いのでレベル上げには向いている場所と言える。しかも地理的に見れば西都から程よく近く、セーフティエリアもきちんと配置されている。

 むしろここまで条件がそろっていながら今まで一人も他のプレイヤーに出会わなかったのが妙と言えるだろう。


「だったらモブとエンカウントしなくなったのはそうおかしな話じゃない……のか……?」


 ただ昨日から着けてきた気配が今朝になって急に消えたのを考えると、何か裏があるような、引っかかることがあるような気がしてならない。

 それに尋常じゃないリポップ率で復活するモブ全てを俺に気付かれないように始末するのはほとんど不可能に近いことだろう。

 それなのに現実にはそれが起きている。それが本当に気になる。


 例えるなら歯と歯の間に肉の繊維が挟まっているような、シャツのボタンを掛け違えているような、そんな違和感である。




 そんなことを悶々としかし呑気に考えながら歩いていた俺を、発動していた《気配探知》が敵モブを表すカーソルを大量に表示することによって一気に現実へと引き戻した。




「う、っそだろ、オイ!?」


 レベルの低い今の俺の《気配探知》では、探知範囲ギリギリに表示されているモブの正確な数やレベルなどは解らない。


 だがそこに表示されていたのは、画面の一部を塗りつぶすかのように表示された敵モブを表す赤いカーソルと、その集団から逃げるように移動しているプレイヤーを表す緑のカーソルであった。




「おいおいおいおい、ザケンな! そうゆうことかよ!?」






 ようやく、ようやく全部繋がった。




 昨日から続く妙な出来事の数々。




 それらは全て俺を狙ったもの…………ではなかった。






「……MPK(モンスタープレイヤーキル)ッ! 目的はそっちか!!」




 《気配探知》が示すカーソルは、大量の敵モブを表す赤いカーソルとその先頭を走る緑のカーソル……以外にそれらが向かう進行方向にはセーフティエリア内で休息を取っているのであろう、四つのプレイヤーを示す緑のカーソルが表示されていた。




                 ◇             ◇




 サファイアの月12日【インセクトフォレスト】 午前10時06分


「はい、みんなお疲れ。いったん休憩しましょ」

「ふぇぇ。ようやく休憩だねー」

「わ、私、もうだめかと思いました」


 ギルド《プエッラ》のマスターである《剣士》のランがそう宣言すると同時に、《魔獣使い(テイマー)》のルンと《修道女(シスター)》のリンはほとんど同時に地面に腰を下ろしていた。

 リアルとほとんど変わらない、服装や髪の色などほんの些細な違いしか見受けられないみんなの姿を見て、私も地面に座って休憩をしたい欲求にかられたのだが、


「ちょっと、いくらセーフティエリアに入ったからって気を抜きすぎよ。罠とかあるかもしれないのだからいきなり腰を下ろしちゃダメじゃない」


 そう言って初めて入るセーフティエリアの中を罠がないかと捜索する。


 WHOのシステム上、フィールド内で唯一と言っても過言ではない安全の確保されているエリアであるが、それはモブが入って来れなかったりフィールドトラップが無いと言うだけで、他のプレイヤー、特にスローターが仕掛ける卑劣な罠がないとは言うわけではない。

 セーフティエリアに到着し油断したプレイヤーを罠に引っかけたり、襲撃してくるのはスローターの常套手段とも言える行為なので警戒するに越したことはない、いや警戒してしかるべきなのだ。


 だが、ルンは私の言葉を聞くとぷくーと頬を膨らませて、


「もー、レンちゃんは真面目すぎだよー。今までずーっと休み無しだったんだから、ちょっとぐらい休んでもいいじゃんかー。ねー、ぴよちゃん」

「ピ? ピピ?」


 数日前にテイムした鳥獣型モブのぴよちゃん(ぴよぴよ鳴くからぴよちゃんらしい)に話しかけている。

 その姿は同い年でしかも同性だと分かっていても、保護欲を掻き立てるようなかわいらしさに満ちていた。正直私もここが危険なフィールドでなければ、ぎゅっと抱きしめたかったのだが心を鬼にしてその言葉に反論する。


「もちろん私も休むのには反対しないわ。だけどまずは罠が仕掛けられていないか確かめるのが先決よ。それを怠って命を落としたプレイヤーも少なくないのよ」

「で、でも、私たちがここを見つけたのは偶然だし、この森のマップを貰った時もこのエリアは載っていませんでしたよ」


 リンもおずおずと言った感じに休みたいといった意志を伝えてくるが、


「ダメね。スローターは本性を現すまではこの世界のトッププレイヤーで、彼等の持ってくる情報だけが頼りだった。だけど彼らが意図的にいくつかの重要なデータを隠していたのはリンも知っているでしょう」

「……はい、そうですけど」

「だから貰ったデータにここが載ってなかったからと言って、ここが誰にも知られてないとは限らないでしょ。だったら罠をきちんと確認すべきだわ」


 リンは私が言っていることが正しいと分かっているようで、それ以上何も言うことはなかったが腰はあがらないようだった。

 私も女の子なのだから森の中で二時間も延々と戦闘、それも相手が巨大な昆虫だったのだから罠の確認など後回しにして今すぐ休みたい気持ちはよく分かる。分かるのだが、この世界はその甘さが命取りになる世界なのだ。


 一触即発。疲れがピークに達していてピリピリとしたムードが私とリンとルンの間に流れていた。


 だが、そんな雰囲気を断ち切るようにマスターのランがポンッと手を打って話に入ってきた。


「じゃーこうしましょ。今回は私とレンがここに罠が仕掛けられていないか確かめる。それで次に休憩するときはリンとルンが罠の有無を確認すること。どう? 」

「はーい。賛成でーす」

「えーっと、できたら私もそれでいいと思います」


 ランの提案にほっとした表情でリンとルンが賛同する。彼女たちも休憩に入ろうとしたらいきなり罠の有無を確認しろと言われるより、初めから罠の有無を確かめてから休憩すると知っていた方がいいのだろう。


「はい、後はレンだけなんだけど……ダメ?」


 そう言ってキラキラと光っているような上目づかいでランがこちらを覗き込んできた。

 その奥ではリンとルンも懇願するような目でこっちを見ている。


 ……ここで断れたらどれだけ楽か。


「はあ。分かったわよ。そのかわりちゃんと約束は守ってよね」

「わーい。ありがとーレンちゃん、あいしてるー」

「よかった……レンちゃんありがとうございます」

「よしっ、それじゃあレン、ざっと確認しようか」


 そう言うとランは《索敵》のスキルを発動した。《索敵》は《気配探知》に比べ効果範囲がだいぶ狭いが、その分アイテムや罠の有無、《隠蔽》で姿を隠しているプレイヤーも探知することが出来る便利なスキルである。


「んー……セーフティエリアの中と外に白色の反応が一個ずつあるみたい。私は外の反応を見てくるからレンは中の確認お願い」

「……これね。私の《索敵》でもランの《索敵》でも何かわからない、か」


 私も《索敵》を使って確認してみると、確かに何かがあることを示す白色のカーソルが点滅していた。

 《索敵》はカーソルの色によってアイテムか罠かなどを判断することが出来る。青ならアイテム、黄色なら罠、隠れているプレイヤーは緑で表示されるなどしているが、それでもアイテムのレア度や罠のレベルが高かったりすると白で表示され確かめてみるまでそれが何か解らないと言うこともある。


 もしこの反応がプレイヤーの仕掛けた罠だとするならば、それは私達より上のレベルのプレイヤーの仕業。


 そのことに気が付いたのかリンとルンもこちらを向き顔つきが変わった、が、それでも短剣を構え十字架をしっかり握りなおしただけで立ち上がる気配はない。いくら白のカーソルが表示されたとはいえ、私達の《索敵》には引っかかっているのだからそこまでレベル差はないと判断したのだろう。


「それじゃ確認してくるわね」

「気を付けてねー」

「な、何かあったら私達で対処しますから、だから、大丈夫です!」


 ……まあ何かあったらまずいんだけどね。


 そう思いながらもカーソルが表示されている場所に行ってみる。


 その場所は、私たちが最初に腰を下ろした場所からほんの4、5mしか離れておらず、そこには何もないように見えた。

 が、よく見てみると一か所だけ地面の色がほんの少し違う場所があり、おそらく反応はこの下にあるのだろう。


「……ってなんだ、【ビックリダケ】じゃない」


 散々気に揉みながら地面を掘り返してみて、出てきたのは何の変哲もないただの茸であった。

 この【ビックリダケ】はその名の通り、食べてみると様々な効果が表れてビックリすると言う一種のジョークアイテムである。【毒】、【麻痺】、【混乱】、【睡眠】の各種バッドステータスから、HP、MP、SP回復及びリジェポ、はたまた何の効果も発揮しなかったりと全くのランダムで、精々特殊なポーション製作に時々使われるぐらいのものである。

 ただこれはひたすら珍しいためその分ランクも高く、そのため《索敵》では白と表示されたのだろう。


「おーい、そっちはどう。罠とかなかった?」

「ええ、ただの【ビックリダケ】だったわ。ランの方はどうだったの」

「私の方は【拡音石】だったし、これでひとまず安心、かな」

「……まだ油断はできないけどね」


 そう口では言いつつも私もランももう座り込んでしまっていた。張りつめていた緊張の糸が切れてしまったのか、今まで感じなかったそれまでの疲労がドッと圧し掛かってきたようだった。


「レンちゃんおつかれさまー。これでもどうぞ」


 そう言ってルンが渡してくれたのはMP回復用のポーションであった。

 正直これまでの戦闘によってMPポーションを全部使い切ってしまっていた私にとって、この申し出は大変ありがたい話だった。


「気持ちは嬉しいけど……本当にいいの? ちゃんと自分も回復しなくちゃダメよ?」

「これまでの戦闘はレンちゃんが一番頑張ってくれたからー。リンちゃんと話し合って決めたんだよー」

「はい。このパーティの要はレンちゃんですから」


 確かにこのパーティの中では、攻撃魔法は苦手ではあるが《白魔術師》の私が火力役(アタッカー)を担当してきたので、ここに居る誰よりもMPの消費量は激しかっただろう。


「そうね。これから帰ろうとしているのに途中で、レンのMPが切れてしまいました、なんてことになったら全滅しちゃうかもしれないし。ありがたく貰ときなさいよ」

「……頂くわ。ありがとう」


 ルン達が渡してくれた最後の三本のMPポーションを一本ずつ丁寧に空けると、それだけで体の疲れがだいぶ楽になったかのように思われた。


 そして最後の一本を飲み終わると四人で顔を見合わせ……誰と言わず笑い始めた。


「あーはっはっはっはぁ。もうダメ、もうダメ」

「まったく、油断しちゃダメって言ってるじゃない」

「ふふっ。だめだよぉ、我慢できそうに無いよぉ」

「くすくす。そうですよ、そう言うレンちゃんも笑ってるじゃないですか」






 その時、私はこんな光景がずっと続くと理由もなく思っていた。




 身をもって知っていたことを忘れて、自分で言ったことも失念し。




 ただただ、その時はそう思っていた。






 この世界がそんなに甘くないことを知っていたはずなのに。






「あーもう、わらったなぁー。それじゃ、もうあと十分ぐらい休憩したら帰えろっか」

「えー、もう行くのー?」

「ハイハイ、わがまま言わないの……っと《索敵》にしたまんまだった。《気配探知》に変えとかないと」


 ランが計画を立て、ルンが無駄だと分かっていてもわがままを口にする。そんなリアルでも変わらないランとルンのいつもの会話を聞きつつ、私とリンもゆっくりとそれでも着々と出発に向けて準備を整え始めた。


「これからまた森を突っ切ることになるけど、リンは大丈夫?」

「はい。しっかり休憩を取ることもできましたし、大丈夫です」

「そう、だけど無理はしないでね。このパーティの攻撃の要が私なら、回復の要はリンだからね」

「心配ないです。ランちゃんやルンちゃん、それにレンちゃんがいますから。ぜったい、だいじょうぶです」


 ……そう正面から言われると流石に照れるな。

 そうして私達が顔を赤くして見つめ合っていると、


「あー! リンちゃんとレンちゃんラブラブしすぎー! ダメー私も混ぜてー」

「え、ふぇ、あの、あの、ち、違います! いや、その、違うって言ってもですね、そういった意味じゃなくて、あの、その」

「ちょ、何言ってんのよ!? ラブラブなんてしてないし、リンがテンパっちゃってるじゃない」

「むー、それがラブラブしてるってことだー! 私も混ぜろー!」


 そう言って私達三人は出発前最後にふざけ合っていた。




 そこへそんな現実を塗りつぶすかのように真っ黒な悪意が襲い掛かってきた。






「嘘……なにこれ……どうゆうことなの!?」


 《気配探知》を発動していたランの信じられないといった声が、じゃれ合っていた私達の動きを完全に止めた。

 訳も分からず固まってしまった私達だったが、ただ状況が深刻な方へと刻一刻と変化していると言うのがランの声色から理解できた。


「どうゆうこと……どうゆうことなの!? なんでこっちに向かってきているの!? 十……二十……嘘、五十? 違う、もっといる。逃げる? そう……早く逃げないと!!」

「ラン! どうしたのラン! いったい何が起こっているの!?」


 その言葉にようやく私達も居ることを思い出したかのようにゆっくりとこっちを振り返り、何か言葉を発しようと口を開き、






 …………そして、ソレはやってきた。

 謝罪と申しますか言い訳と申しますか。


 前回投稿後学校の二学期が始まったのと、バイトが増えたことで私生活が忙しくなり更新が大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

 ようやくいろいろなことにひと段落ついたので、今までのペースを目安に更新を再開していこうと思います。

 どうか今後ともよろしくお願いします。

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