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World Heir Online  作者: 案山子慧
第1章 草木も眠る
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森の追跡者

切のいいところで切ったので今回は短めです。

次回以降ではもう少し長くなる予定です。

 サファイアの月11日【インセクトフォレスト】


 「んー、気になる。なんなんだろうなーこれは」


 【スキャッフ村】から旅立って二日、俺は【西都サンセット】へ向かって森【インセクトフォレスト】を横断していた。

 この森は【西都サンセット】から見て南の方角にあり、ここから西に進むとより高レベルの【ディープフォレスト】に続いている。


 スキャッフ村は【王都カーリオン】から見て南西の方角にあり、俺の行き先としては【王都カーリオン】、【西都サンセット】、【南都アネクメネ】の三つがあった。

 この中で最もプレイヤーが多いのは王都のため王都へ向かおうとしていたのだが、とある噂を入手したため急遽行き先をサンセットに変えたのである。




 その噂とは、金髪で赤い瞳をしたイケメンの忍者がサンセットに居るとのことである。


 もちろんそれに当てはまるプレイヤーは掃いて捨てるほどいるだろうが、十中八九レイのことだろうと俺は当たりを付けている。

 ソースが掲示板なのでほとんど信用無いに等しかったが仮に違ったとしても、いずれは五都全てを回ろうと考えていたので多少は順番が前後しても問題ないと軽く考えていた。


 ただ問題としてはソロで全く情報の無い森の中に入っているので、出てくるモブは正体がよく分からないものが多いと言うのがある。


 一応は殆どが問題なく倒せているのでたぶん大丈夫だろう。


 ただこのことがルリ辺りに知られたら、自殺行為に等しいものだから今すぐ止めろ、若しくは一回フルボッコにされてこい、などと言われそうだが、今のところ何とかなっているので反省する気持ちは全くない。

 むしろそこにどんなモブが出て、どんなスキルを持っていたりするのかが事前に分かっている方が少ないと思うのでこの状況の方が普通だろうとすらおもう。


 ……こんなことを聞かれるとまた何か言われそうなので誰にも言うつもりは無いが。


「ほんとにもう一体いつまでついてくるつもりだ、この気配は。いいかげん正体を現せってんだまったく」


 カマキリっぽいモブを屠りながら呟くが返事があるわけでもなく、かといってこの妙な気配が消えるわけでもなく昆虫型モブのパーティを殲滅し終わる。


 どうもこの森にはその名の通り、たった今屠ったばかりのカマキリのような昆虫型のモブとゴブリンのような亜人種が多く生息しているらしい。


 昆虫型はチョウやガやカマキリ、ハチにテントウムシにダンゴ虫、おまけにカブトにクワガタにクモと多種多様な昆虫型モブが出てくるのである。

 ハチやガは毒を持ち、チョウやテントウムシは味方を回復する、カブトやクワガタやダンゴ虫は堅い外殻を持ち、クモはトラップを仕掛けてくる。


 そんなウザい虫どもがワラワラと湧いてくるのがこの森の特徴である。


 ゴブリンは上位種が多少出てくるぐらいで、数も少なくそこまで強くないため全く問題にならない。

 いや昆虫九、ゴブリン一ぐらいの割合でしかゴブリンを見かけることがないので、おそらくゴブリン達は昆虫の数少ない動物性タンパク質として摂取されているのだろう。



 ただ虫であるためHPは恐ろしく少なく、一撃食らわせられればあっさり殺れるし、経験値も悪くはないのでレベル上げには向いていると言える場所ではある。




 ……ただアグレッシブに飛んでくる50cm近いGや地面を埋め尽くすほどのアリに心を折られなければの話ではあるが。




 だが俺にとって虫の種類と言ったことは些細な問題でしかない。


 それよりも昨日から感じている妙な気配の方が気になる。


 この妙な気配は昨日の昼、今のようにモブとの戦闘中に感じたのが最初であった。

 最初は今闘っているモブ以外の奴等が俺に狙いを定めているのかと思っていたが、どうやらそれは思い違いのようであった。


 その気配は付かず離れず、俺がそちらに意識を向けると一時的には遠ざかっていくようだがまた暫くたつと一定の距離を取って追いかけてきた。

 俺は何度かその追跡者の正体を暴こうと試みたが、相手は《隠密》やそれに類するスキルを持っているようで全くに尻尾を掴むことが出来なかった。


 ただ一つ分かったことはこの追跡者はモブではなくプレイヤー。それも俺に対して友好的でない、スローターかPKプレイヤーと言うことである。




「さーてと。どうすっかな」


 そう、これからどうするかが重要なのである。


 おそらく、と言うか間違いなく俺は狙われている。

 今のところ相手が襲ってこないのは、俺のレベルや戦い方を見極め確実に勝てる状況を作り出そうとしているからだろう。


 そうなれば俺が取れる手は二つしかない。


 一つは全力で逃げて相手を振り切る、もう一つは相手に俺と闘っても勝てないと思わせる、この二つが現実的な案だろう。


 ただこの方法にも問題なない訳ではない。


 まず最初の逃げると言った案だが、おそらく逃げ切ることはできないと思われる。

 理由としては、俺にはここの土地勘はないこととレベル差があることがある。

 相手はここで待ち伏せや追跡ができるほどに土地勘があるし、俺が相手の気配に気づくことが出来ても捕まえるどころか正体すら掴めないのはそれだけレベル差があると言うことだろう。


 俺と闘っても勝てないと思わせようにも、レベル差と相手が自由に奇襲ができる状況がある以上それも難しい。

 逆にわざと俺を弱く見せて襲ってきたときに返り討ちにする作戦もあるが、相手の力量が解らない以上(負けるとは思わないが)危険だろう。




 色々な考えが浮かんでは消え、浮かんでは消える。どれもこれも問題が有り、これと言ったナイスアイディアが浮かぶわけでもなく徒に時間だけが過ぎていく。


 そうこう考えているうちにリポップした虫どもがまたしても群がってきて思考は無理矢理中断された。


 ……ま、出たとこ勝負でいくか。


 そう開き直ると、俺は襲ってきた虫どもの中心に躍り出した。




                 ◇            ◇




「まーだついてきてんのか? 実はただの暇人だったとかそんなオチじゃねぇだろうな」


 現在九時数分前。

 フィールドにいくつか設置されているセーフティポイントの一つを今夜の寝床にしようと腰を下ろしたのだが、相変わらず感じる謎の追跡者の気配が背中にひしひしとプレッシャーを与えてくる。


 正直これは、Tシャツに染みた醤油かレ○プ目をしたヒロインぐらいに手強いとしか言いようがない。

 どちらも経験上、時間をかけてじっくり対処しなければ大変なことになるうえ、時間が経てば経つほどドンドン問題解決が難しくなっていく、そんな厄介な性質を併せ持っている案件である。


 それに近い臭いを感じるこの気配もできることなら早期解決が望ましいだろう。


「とは言っても正直眠たいし……なんか色々どーでもよくなってきたなー」


 セーフティポイントに身を投げ出し(別に建物やベッドがあるわけではなく地面の上だが)、適当にごろごろしながらこれからの事について考えを巡らすが、やっぱ眠い。

 とりあえずそこらに生えている木に頭をぶつけて眠気を飛ばし、考えをまとめることにする。


 セーフティポイントには一応モブは入って来られないので、いつどこでエンカウントするかわからないフィールドの中で唯一と言ってもよい安全地帯ではあるが、絶対に安全であるわけではない。

 例えば戦闘などでモブがこちらを敵だと認識したままセーフティエリアに逃げ込んでも敵モブが追ってくることは可能であるし、その性質を利用すればセーフティエリアで休んでいるほかのプレイヤーにMPK(モンスタープレイヤーキル)を仕掛けることもできる。またセーフティエリアは基本的にモブが入ってこられないと言うだけで戦闘禁止区域ではなくPvPは自由に行えるため、俺のようなソロプレイヤーがここで熟睡するのは非常に危険が伴う。


 だが眠たさは本当にヤバい。一日中歩き通して、モブどもとソロで戦い続けていたので無理もないっちゃあ無理もない。だから眠ってもよし!


 いやいやいやちょっと待て、未だに気配があるのに寝ちまったら追跡者にとっては襲い掛かる絶好のチャンスだろう。だから寝ちゃいけない!




「――――ッッッガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!???」




 ダメだ解らなくなってきた、とりあえずガツンガツン頭をそこらの木にぶつけまくって眠気を覚ますことにする。


 現状を把握!

 謎の追跡者が近くにいるから寝たら危ない! だが眠い!!

 どうする!!??




「よし決めた! 眠い、寝る!! 追跡者が何ぼのもんじゃ! どっからでもかかってこいや!!」




 大声でどこかの誰かに聞こえるように宣言すると、地面に大の字になって眠ることを決めた。

 後は野となれ山となれ。謎の追跡者の事は襲ってきたときに考えることにしよう。


 一度覚悟を決めれば眠りに落ちるのは恐ろしく速く、俺は急速に夢の世界へと落ちて行った。


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