スローター
今回は説明会です。
そのためかいつもより短めです。
サファイアの月7日
-World Heir Online-が〈デスゲーム〉となって10日。
ようやくプレイヤーの間にとある認識が理解され始めたころだった。
……外部からの助けはない。死にたくなくばこのゲームをクリアする必要があると。
初日からこの解り切っていた現実を直視し、動き始めることができたプレイヤーは恐ろしいほど少なかった。
多くのプレイヤーは戸惑い困惑し、数日待てば外部からの助けが有るであろうと楽観視し、そのことがその後の恐ろしい悲劇の要因となってしまった。
ゲームの開始直後、プレイヤー達は〈HALL〉の転移によって様々な場所に飛ばされてしまっていた。
だが全プレイヤーの半分にあたる15000人程は転移することなく【王都カーリオン】に残され、その他の不幸なプレイヤーが様々な地域に飛ばされた。
最も多くのプレイヤーが飛ばされたとされるのは、【王都カーリオン】の東西南北に延びる大通りから繋がっている四つの大都市である。
【東都コンスティアポリス】【西都サンセット】【北都アガルタ】【南都アネクメネ】、この四都市に各3000人ずつ飛ばされたらしい。
そして残る3000人のプレイヤーはさらにバラバラに、数人から十数人単位でそれ以外の色々な小さな町や村に飛ばされた。
かくいう俺も自分を含めて六人しかいない小さな村に飛ばされたため、【王都カーリオン】や【四都】にいるプレイヤーとは大きく差を開けられてしまうはずだった。
……誰しもが恐れ、黒幕の〈HALL〉の思惑通りだったとしか考えられないあの展開にならなければ。
死亡者数3000人弱、内PKによる死亡者数2000人強。
この数字は僅か十日しかたっていないこの〈デスゲーム〉の死亡者数である。
初日から積極的に行動し、フィールドでレベル上げに勤しんでいたプレイヤーは大きく分けて二種類に分けられた。
現実を直視しこの〈デスゲーム〉を攻略しようとしたプレイヤーと、現実を直視するのを諦めPKによって少しでも生きながらえようとしたプレイヤー達である。
どちらも街の周囲のフィールドを中心とし、ほんの数日でトッププレイヤーと呼ばれるまでのレベルまでに成長した。
そして数日後、ようやく現実を直視し外部からの助けが期待できないと考え始めたプレイヤー達が町の外に一歩踏み出したとき。
……彼らは牙をむいた。
モブとの戦闘が終了した直後に、一時休憩をしようとしたときに、共に協力しようと友好的な顔をして……彼らは一斉に襲い掛かってきた。
ほんの数日。ほんの数日のスタートの差であったのだが、その差は歴然としていた。
その時点のトッププレイヤー達に襲われた者は、ソロもチームもパーティも関係なく為すすべもなく蹂躙された。
彼らはどこにどういったモブが出現するかを完全に把握し、安全だと思われた休息ポイントを押さえていたのである。
いや、正確に言うならば、彼らにとって都合のいい様に情報をコントロールしていたと言うべきか。彼らはそれまでトッププレイヤーとして最も頼りになる情報源であったし、彼ら以外に情報を持っているプレイヤーなどいなかったのから。
もちろんトッププレイヤーの全員が全員PKを行っていたわけではなく、その数はトッププレイヤーのうち二割ほどであったが、出遅れたプレイヤーを恐怖のどん底に陥れるには十分すぎる勢力であった。
結果として二日の内に1000人を超えるプレイヤーがPKされ、多くのプレイヤーがPKを行うトッププレイヤーを『虐殺者』と呼び対策を行うことが急務とされた。
王都カーリオンを含む【五都】の内【北都】と【南都】は強力なモブと過酷な環境のため『虐殺者』の被害は比較的穏やかではあった。しかし【東都】と【西都】そして【王都】は『虐殺者』による被害が甚大であった。
【王都】はプレイヤーが最も多かったため『虐殺者』による被害も一番大きかった。
しかしその分人材も多く、他のMMORPGで有名な十七のギルドが一つに集まり《連合》と名乗る超巨大ギルドが結成された。
《連合》はどれか一つのギルドがギルドマスターの地位に就くトップダウン制ではなく、その名の通り十七のギルドの代表者一名が選出され会議による多数決でギルドの方針を決めているらしい。
そして幸運なことに、その十七のギルドの内の一つが《エレメンツ》だという。WHOで初めて出会ったギルドでメンバーも好感が持てるプレイヤーだったため、少なからず《エレメンツ》について気にかけていたのだが、その心配がただの杞憂に終わったとことは少なからず俺に安心感をもたらした。
……これで権力者とコネができたと思わなくもない。
《連合》はその圧倒的な人数と物資により『虐殺者』達を拘束、留置し、フィールドの巡回などの対策を始め、徐々にだがPKの被害はだいぶ減ってきたらしい。
そして【西都】では一人の【神】クラスプレイヤーを中心としたギルドが結成され、徹底した強硬策により西都の『虐殺者』は一人残らず皆殺しにされたらしい。
【神】クラスのプレイヤーがこんな初期に現れるはずがない、『虐殺者』を一人残らず皆殺しにするなんて不可能だ、などとありえないと否定的な情報が多いのだが、ただ一つ事実として存在するのが【西都】では『虐殺者』の被害は全く無くなったということだけである。
そして残る【東都】だが、ここは不幸にもほとんど対策が立てられていない全くの無法地帯のような場所となった。
【王都】や【西都】のように強力なギルドがあるわけではない。また【北都】や【南都】のように環境に助けられることもない。さらにはより東へ進むと海があり、これ以上進むことができないことも一つの要因となり、【王都】や他の三都から追われた『虐殺者』が跋扈する危険な場所となってしまっているらしい。
ただ【東都】に飛ばされたプレイヤーの多くが【王都】へ逃げ出したのだが、一部の腕の立つ正義感溢れるプレイヤー達は『虐殺者』と闘うために町へ残っているという話も聞く。
このゲームでは町や村の中は基本的には安全ではある。
だがそこから一歩でも外に足を踏み出した時に最も危険な相手がモブではなく、同じ〈デスゲーム〉に囚われたプレイヤーであるのは一体どんな冗談であるのか。
最もこれが〈HALL〉の狙いであり、【魂の欠片】などというアイテムを作った訳なのだろうが……
さらにはWHO内にある情報掲示板や交流所などは、ガセやデマが飛び交いほとんど信用ならない状態となっている。
本来MMORPGの掲示板などに誹謗中傷、ガセやデマは付き物である。
しかし『虐殺者』が掲示板に偽の情報を流し、それを信じてやってきたプレイヤーを罠にかけて殺す。そういった掲示板を使った悪質な手口が流行ったため、掲示板の情報の真偽を確かめる術を持たない多くのプレイヤーは掲示板や交流所の利用さえ避けるようになっていった。
このことは見知らぬプレイヤー同士の不和や不信に繋がり、些細なことでのトラブルや争いの元となっている。
僅か十日。僅か十日にして考えうる最も最悪な事態に、そして〈HALL〉が望んでいたであろう展開に陥っている。
俺が【五都】以外へと飛ばされたのは、幸運だったのか不運だったのか……
少なくともみんなとバラバラになったのは不幸と言えるが、【五都】の現状を見るとみんな揃ってどこかに一緒に飛ばされていれば大丈夫だったと言う保証もなかっただろう。
……だがそんなことを考えていても仕方がない。
俺はみんな揃って現実へ帰ると、このゲームをクリアすると誓った。
それならそのために戦うことを始めようじゃないか。




