『ゲーム』の始まり
ルビーの月27日 午後3時00分00秒0000 【王都カーリオン】
〈HALL〉の口から語られた、蘇生アイテム【魂の欠片】を最も簡単に入手する方法。
それは他のプレイヤーを自らの手で殺すこと。
少しでも生き残りたいのなら他人を切り捨てろ。
友情や愛情など自分の命と比べればどれほど軽い物か。
所詮この世は弱肉強食。
そんな世界の冷たい現実を具現化したような最悪のルール。
全てのプレイヤーが死に絶えてしまったかのような広場を睥睨し、〈HALL〉は素晴らしいショーを見終わった観客のように満足げな表情をしていた。
「ね、簡単でしょ。貴方の隣にいるプレイヤーを殺せば、残機が一機増えます。大丈夫、大丈夫、WHOの中で殺しても現実で死ぬわけじゃないし。ここはゲームの中なんだから、PKなんてみんなやってることでしょ?」
困惑するプレイヤー達を見下ろしながら、愉快で愉快で、どうしようもなくたまらないかのように言葉を続ける。
「このデスゲームは、誰か一人でも生き残ることができれば全員が助かるんだからさー。どうせこの中の半分ぐらいは何もせず町に引きこもっているんでしょ。それなら攻略を頑張るプレイヤー様々に命を預けた方が賢明なんじゃなーい☆ 『君たちの事は絶対に忘れない! 我々がみんなを生きて現実世界に連れ戻してやる!』って感じで。きゃーかっこいー☆」
〈HALL〉の蜂蜜のように甘い言葉は続く。
ただその言葉は、蕩ける様な甘美な快楽をもたらす代わりに、俺達の心をゆっくりと致命的なまでに犯す危険極まりない毒薬のような言葉であった。
〈HALL〉はそこでいったん口を閉じると、自分の言葉がもたらした効果を吟味するかのように、研究用のモルモットを見るような目で俺達の様子を見下ろした。
そして周りのプレイヤー達はみんな呆けたように〈HALL〉の言葉に聞き入っていたが、徐々に〈HALL〉の言葉の意味が理解できたのか、喧騒が戻ってくると同時に張りつめた空気が流れてきた。
ヤバい、俺が恐れていた、いや間違いなくそれ以上の危機が口を開いて待ち構えている。
他のやつらなんか知ったことか、俺は力ずくで道を作り、喉が嗄れるかと思うぐらいの大声でルリ達の名前を呼ぶ。
だがその声も、俺と同じように危機感を募らしていたプレイヤー達が一斉に行動を開始したためかき消されてしまう。
その様子を眺めていた〈HALL〉はやれやれと言ったように首を振ると、口を開いて説明を再開した。
「なんか騒がしくなってきたしちゃっちゃか説明を済ますよー。このゲームの『クリア』条件はズバリ、『グランドクエスト』の達成!! または私の『目的』が達成されたら『クリア』となるよ☆ ちなみに『グランドクエスト』の内容と私の『目的』についてはノーコメント☆ そうそう私の『目的』は貴方達が意識して達成するものじゃないから、気にしないでゲームをしてね。おねーさんとの約束ダゾ」
〈HALL〉の言葉が進むと共に喧騒はどんどん大きくなっていき、ほとんど叫ぶように名前を呼ばなければ全く聞き取れないようになっていった。
「『グランドクエスト』は複数のクエストを並列的にクリアしていったり、時間経過と共にイベントが発生したりしていくから気を付けてね。そうそう、モブやフィールドそのものも時間経過によってレベルが上がったり、上位種が出るようになったりと強くなっていくから気を付けるよーにね☆」
頭上からは〈HALL〉の呑気な声によるゲームの説明がなされていたが、今の俺には意味の無い、ただ言葉の羅列に過ぎなかった。
今やるべきことはルリ達と合流してすぐさま対策を練ること。
いや、ルリ達と会うだけでいい。これからの事よりも、一刻も早く顔を合わせて少しでも安心したかった。
「…………………………………………」
! 今どこかでルリの声が聞こえた。
周りの喧騒によってほとんどかき消されてしまっていたが間違いない。
十年以上聞き続けてきた声である、絶対に間違えるはずがない。
一旦その場に立ち止ってさっきの声がもう一度聞こえてこないかと耳を澄ます。
「……………………ッ!!」
聞こえた! 前方二時の方向。どのくらい離れているかは分からないがそちらの方向にルリがいる!!
「ルリ! どこだ、どこにいる!?」
俺の方からも声を出し、声の聞こえた方へ向かって全力で走り出す。
それでも大勢のプレイヤーに進路を邪魔され思うように進めず、もどかしく感じる。
それでも押しのけ、突き飛ばし、体を捻じ込むようにして前に進む。
「……マ……、こっ………………す。ヤ……トォ!!」
間違いない、さっきよりもだいぶハッキリ聞こえた。
「ルリ、こっちだ! クソッ! 邪魔だ、退け!」
「いま…………に、むか……………………」
俺が地上で苦戦している間に〈HALL〉の説明も佳境に入っているようで、ますます取り返しのつかないことが起きる予感がヒシヒシとする。
「んー、さっきから気になっているみたいの【魂の欠片】だけど、ここであんまり話すのもあれなんだよねー。まあ、使ってからのお楽しみってことにしといてよ。それじゃーだいたいこのゲームについての説明も終わったし、そろそろ始めるとしますか」
!!! ヤバい、さっきの【魂の欠片】説明の時に感じた、致命的な何かが起こってしまう感覚。それと同じぐらい、いやそれ以上の危機を感じる。
「邪魔だ! 退け! 退けェ! ルリ、ルリ! どこだ!」
「こっちです! ヤマト! そこにいるんですか!?」
今度こそ完全に捉えた。
もうほとんど離れていないはずなのに、プレイヤー同士がひしめき合っている中ではそのほんの十数メートルがもどかしい。
時間にすれば後一分もかからない距離だろう。
だがこのとき運命の女神は残酷だった。
いや残酷なのは女神ではなく〈HALL〉なのか……
「そーそー、VRMMOってさーみんなが同じ場所で、よーい、どん! って始まるのが多いよねー。私はさーそうゆうのが嫌いなんだよねー」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
〈HALL〉がまたにやにや笑いながら俺達を見下ろしている。
あの笑みは絶対にヤバい!
こうなったら後の事なんか考えている場合じゃない。
俺はルリのいる方へ全力で向かいながら、ステータス欄のアイテムボックスから【銘無し】をオブジェクト化する。
「死にたくなかったら退けェェェェ!!!」
町中ではダメージを負うことはないが、武器を持った男がこっちへ向かってくることへの恐怖によりプレイヤーが左右に割れ一本の道ができる。
そしてその道に先に見えたのが、その名の通り瑠璃色の髪と目をした、俺の大切な幼馴染の櫛名瑠璃の姿であった。
「―――――――――――!」
目が合ったルリが何か叫んでいるようであったが、その言葉が聞こえることはなかった。
その声を塗りつぶすかのような〈HALL〉の悪意に満ちた声が先に耳に入ってきたから。
「だから皆さんのうち何人かをランダムに違う街へと飛ばすことにしまーす☆ ただ今のWHO参加人数は、初回販売分の二万人+懸賞等のプレゼント五千人+βテスターなどの特別参加者五千人、占めて三万人でーす。そのなかで半数の一万五千人ほどをとばさせていただきます。そうそう、パーティ組んでる人達はみんな一緒に飛ばされるから安心してね♡」
今の俺達はパーティを組んでいないどころか、フレンド登録もしていないため連絡を取り合うこともできない。
もし飛ばされてしまったら生きて会うことが叶わなくなるかもしれない。
パーティやフレンド登録は半径二メートル以内での互いの同意が必要であり、その条件を後ほんの僅か満たしていない。
後ほんの数秒、ほんの数秒さえあれば、パーティを組むことはできなくとも、フレンド登録を交わし連絡を取り合えることができる。
後三秒。
二秒。
いちびょ……
「それじゃー転移スタート♡」
その言葉が聞こえると同時に俺の体が崩れていくのが分かった。
ルリの方を見ると俺と同じように体が崩れていた。
せめてどちらかが転移せずに済んだのなら、この町を目印にして待っていることもできたが、それも難しくなる。
「ルリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
「ヤマトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
俺達二人はどちらかもともなく手を伸ばして相手を掴もうとしたが、指先が崩れ、たったそれだけのことすら叶わなかった。
「さあはじめましょう-World Heir Online-を!!
混沌に満ちた<デスゲーム>を!!
誰一人クリアする必要はない!
誰一人死ぬ必要はない!
どうかこのゲームを皆様がクリアされますように!
どうかこのゲームをクリアできず皆様が死にたえますように!
私の唯一の願いを叶えるために!!!
ハハハハハ、ハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
どこか遠くで〈HALL〉の悲痛な叫びと狂ったような笑い声が聞こえてきた。
夢か幻か、それすらもわからない。
ただその声は小さな子供が泣き叫んでいるようにも聞こえた。
これにてWorld Heir Online『第0章』が終了です。
一応活動報告で予告しておいた八月中に『第0章』を終わらせるという目的を達成できたのでよかったです。
これから〈デスゲーム〉開始となりますので、ようやくあらすじにおっつけたところです。これも作者の文章力がなく、長くなってしまったからであります。
まだまだ長くなりそうですが頑張って完成させたいです。
今後の予定としましては、一応『第1章』のプロットなどは完成しているので、今ある分を含めてある程度書き溜めてから投稿する予定です。
まずは『第0章』の誤字脱字の訂正と話の手直し、できたら八月中に『第1章』を投稿開始したいと思っています。
ここまでやってこれたのは、皆様が至らないところも多くあるこの小説を読んでくださっていたおかげです。
心より感謝申し上げます。どうもありがとうございます。
これからも誠心誠意頑張っていきますので、どうか応援よろしくお願いします。




