一人で一部隊分の強さです
「『大鷹』の第一分隊は東より、第二分隊は西より、ミナトは北より侵入を行う。行動開始!」
太陽の下で傭兵たちが移動を始める。自分から離れていくミナトをケインは不安そうに見つめる。それを見て、ケインの先輩にあたる女傭兵は豪快に肩を叩いた。
「おいおい思い人だからってよそ見してるんじゃないよ、まずは目先の任務。ケイン、あんた防衛戦や哨戒に参加したことはあっても人間牧場に直接攻め入るのは初めてだろう?気を引き締めな」
「は、はいっす!」
そう言われてケインは顔を何度か叩くが、緊張は解けない。何しろ死ぬかもしれないのだ。少なくとも同世代で戦場に出た仲間の大半はもうこの世にいない、
「……行くぞ」
いつもは快活に笑う年配の傭兵たちの顔は鉄の兜に包まれて見ることができない。ケインが配属されたのは第二分隊。計十五名で構成され、そのうち十人がフルプレートアーマーを装備した傭兵、二人が魔術師、三人が弓使いという構成だった。
フルプレートアーマーを着ている傭兵たちは、その重量を感じさせない軽快な動きで移動を開始する。森をしばらく歩くと、目的の洞窟が見えてきた。
獣道の先にあったのは人一人が通れる程度の小さな洞窟であった。先はどこまでつながっているのか分からない。が、消し切れていない足跡がそこに何者かが出入りしていることを示していた。
「自然に出来た洞窟を流用した形か、洞窟ごと爆破して吸血鬼を日光で干からびさせるのはやはり無理そうだな」
「最初の調査で見つかった入り口は三つだったが、この様子だと他にいくつあってもおかしくない。やはり煙を送り込んでの窒息狙いは難しいか。行くぞ」
一見なんの変哲もない、雫の垂れる音だけがする空間に、ケインたちは過剰とすら思えるほどの警戒をしながら進んでいく。
「気をつけろ、昼でもここには日光が入らない」
先頭の傭兵は布を被せたランタンを持ちながら、指を立てて前進していく。何事もなく洞窟の中を進んでいるように見えた一団だが、ケインは異変に気づく。
「……うめき声がする……」
一団の足が止まる。洞窟はいつもと変わらず無表情な岩肌を見せている。違うのは風。ケインから見て左奥から生暖かい風と、そして声のようなものが響いていた。そうしている間に魔術師は何かに気づいたのか、詠唱を行い目を閉じる。そしてふっと息を吐いてから口を開く。
「警報魔術を確認、沈黙させました。声と警報魔術の存在を考えると目標地点は近いです。慎重に進みましょう」
魔術師が触っていたのは足元に張られていた細い糸だった。ケインはそれが具体的にどのようなものかは分からないが、魔力が籠っていることだけは分かる。恐らく糸に触れると反応し、術者に侵入者の存在を知らせる、というようなものなのだろう。
一団は再び移動を始める。そして直ぐにケインたちは洞窟の中とは思えないほど広さをした広場のような場所に出る。
「……うっ」
柵の中で、四肢をもぎ取られた人間たちが物干し竿に全裸で吊るされていた。口には異様な紋様が描かれたパイプがはめ込まれており、何かが流れ込んでいるのか喉がごくごくと動いていた。が、量の調整など何一つされていないのだろう、しばらくすると捕まった人々は苦しそうに何度も震え口からぐちゃぐちゃの緑色の液体を吐き出す。
吸血鬼の餌にして敗北した人類の末路。
『血袋』がそこにはあった。




