だから明るいやつが反転するなって
傭兵。俺の知っている有名な傭兵といえばスイスの傭兵だろうか。金さえあればどちらの陣営にでもつく 腕自慢たち。
が、吸血鬼との戦争が起きている現状では扱いが大きく異なる。まず、人間同士の大きな戦争が存在しない。というかその体力が無い。吸血鬼との戦争で弱っている国を攻めたが最後、今度は自分たちが吸血鬼の脅威に晒されるから当然ではあるが。
一方吸血鬼との戦争は苛烈なものであり、諸国は自国の兵士だけでは戦力が足りないためこぞって傭兵たちを勧誘せざるを得なかった。そして一部の傭兵は高い対応力で素早く吸血鬼の戦術に適応し、戦果を挙げていたのだ。勿論各国にも対応力が高い兵士はいたのだろうが、上層部がそれを理解できず採用しなかったと思われる。兎にも角にも最初に成果を表したのは傭兵の方であった。
そのため今となっては一部の傭兵は吸血鬼狩りと呼ばれるようになっていた。アンリエッタ様はそう呼んでたし、俺も英雄っぽくて傭兵よりそっちの呼び名の方が好きなんだよな。
と長々と語ったが。まあ英雄志望吸血鬼狩りの俺は、世間的に見れば金で雇われる自由傭兵という立場にあたるのだ。(因みによく小説や漫画で出るような冒険者という職業やギルドは無い)
傭兵ギルドの門を開けると、中はそこそこの広さの酒場となっていた。混みあう室内は独特な匂いがしており、筋肉質な男たちがカードに興じていたり、帯刀した女性達が飲み物(酒ではない)を飲みながら大声で笑っていたり、あるいは年齢の低い少年が頭を捻りながら本を読んでいたりと多種多様である。その平穏を見て俺とケインは頷く。
「まだ吸血鬼案件は発生していないみたいですね」
「っすね。じゃあまずは飯っす!」
傭兵たちの仕事は常にあるわけではなく、待機時間が多い。そもそも街の警備などは治安維持の警察機構を兼ねるため騎士や兵士の領分であり、よそ者の傭兵などに到底任せることはできない。
よって傭兵の役目は吸血鬼の巣が見つかった時や近くの森林の定期巡回など、ピンポイントでの活躍なのである。なのでギルド内に待機できるような酒場を併設するのは収益の観点からも福利厚生の観点からも非常にいいのだが、何分うるさいのが難点である。
そんなわけで酒場が混み合っていて誰も戦闘に向かう準備をしていないということは、今日は吸血鬼が出ていないということだ。
俺が奥の空席に向かおうとすると、俺を目ざとく見つけた知り合いの傭兵たちが次々に声をかけてくる。
「おーミナトの坊やじゃん、この前はありがとね、本当に助かった!」
「お互い様です、気にしないでください」
「おう小僧、いい加減うちの傭兵団に入れよ! 今ならエース待遇だぞ!」
「検討を加速させていただきます」
「それいう割には入ってくれねえよな!なあケインも言ってやれよ」
「今なら私が付いてくるっす!」
「自分のことを物みたいに言ってはいけないですよ」
俺が酒場に入ると、すぐに複数の傭兵たちが声をかけてくる。いずれも年齢は俺より二回り上の熟練の傭兵たちだ。
概ね俺の傭兵たちからの評判は良い。腕がたちサラリーマン経験を活かした報連相もバッチリ、戦争で人手不足なこの状況では相当な優良物件である。
だが、そのような好ましい対応ばかりとは限らないわけで。
「けっ、ガキがちやほやされやがって」
そうわざとらしい大きな呟きをしたのは、酒場の端にいる赤ら顔のみすぼらしい恰好をした中年の男だった。傭兵ギルドの酒場はギルド構成員以外でも、構成員割引が効かないことを承知であれば飲み食いできる。日焼けした顔と土で汚れた服を見るにおそらくこの辺りで農業に携わっている者だろう。
中年の男は小刻みに震える手で大きな木製のカップに入った酒をぐいと飲み干し、こちらを据わった目で睨みつけてくる。中年の男はあてこするように、わざと俺に聞こえるようにぼやく。
「こんだけ人類が負けてる状態で良く碌に生きてないガキが偉そうにしているもんだぜ」
うーん嫉妬も良いところである。そもそも偉そうにしてないし、それを言うならお前ら大人が俺たちを戦わせなければいい状況にしておくべきだったのでは、みたいな反論も当然できる。
まあただこの絶望的な戦況の中、酔っ払っていればそういう無茶な嫌味が出てくるのも仕方ないかもしれない。マジでウザいけど、まあここは大人の余裕で流してやるか、と心の中で頷く。
が、俺より先に反応したのは隣にいたケインだった。ケインは先ほどまでのお日様を想起させるような明るい笑みをやめ、淀んだ目で中年の男の方を鋭く睨みつける。俺と話していた時とは明らかに違う、低くドスの効いた声を酒場に響かせた。
「もう一度言ってみてよ、小作人のおっさん。誰のお陰で生きていられると思ってるんっすか?」
……この子、偶に豹変するから怖いんだよな。




