戦いが終われば勿論
翌日夕方。俺は用事があったので目覚めた後宿を出て傭兵ギルドに向かう。
マールさんとの試合は嘔吐により中断、しばらくするとトレイター伯爵との打ち合わせも始まるとのことでシグノーミさんも渋々引き下がり。結局大した会話もなくあれはなんだったんだ、と疑問が残ったまま試合は終わってしまった。
多分模倣は成功してたような気もするんだけど、まあマールさんには適性のない魔術だったのかもしれない、そう思うしかない。俺の中の全人類省寿命プロジェクト(仮名)は始まったばかり。次の使い手を探すべく待とう。
因みにあのあとアンリエッタ様が何か言いたそうだったが適当に話を切り上げて帰還している。だって俺の恋愛センサーが異常警報を鳴らしていたから。万一組長(比喩)からの告白だった場合対応が大変すぎる。俺は英雄になりたいのであって組長お抱えの用心棒になるつもりはないのだ。
そんなこんなで歩いていると、大通りの向かい側から聞き覚えのある足音がする。そちらの方を見ると若干暗い顔で茶髪のサイドテールとそばかすが特徴の少女、ケインが歩いていて、そして俺を見つけた瞬間顔を輝かせる(勿論物理的にではない)。
「師匠、おはようっす!」
「おはようございます、ケインさん。怪我をされた傭兵団の皆さんのご体調はどうですか?」
「全然大丈夫っす、あと数ヶ月もすれば皆出られるっすよ! あ、今日来れないミンフォさんたちが差し入れありがとうございますって言ってたっす!」
ミンフォさんとはケインの所属する傭兵団『大鷹』の前衛を務める傭兵で、ダーラント兄弟(名前は後でケインに聞いた)に大怪我をさせられた可哀想な人だ。あのダーラント兄弟、実は格が結構高かったりする。
吸血鬼はランク分けすると
真祖
公爵級
伯爵級
子爵級
男爵級
爵位無し
の6段階に分けられる。これは吸血鬼連邦共和国の正式な分類であるらしく、概ね能力基準で決まっていると聞いている。伝聞系なのは当然俺が吸血鬼ではないのと、多分この分類が100%正しく機能しているかは微妙だからだ。絶対審査制度整ってないだろ、出来立てホヤホヤ国家にその能力があるとは思えない。
が、まあ参考にはなる。概ねランクが上がるほど強くなり、真祖は明確な規格外。その十二人の規格外の吸血鬼が全体の取りまとめをして国家を成り立たせているとのことだ。
なのでダーラント兄弟の伯爵級というのは相当の強さだったのである。伯爵級二体を相手に死者無し、あんたら紛れもないプロだよ傭兵の皆さん、という思いを込めて果物を見舞いに送っておいたのだがいい感じに好感度UPしているようで何よりである。
「改めて命を救われました、ありがとうっす!」
「いいですよ、仕事ですから。それにその分のお賃金はギルドより頂いています」
「でも大半を寄付してるんっすよね!」
「使いませんから、有効利用です。やはり戦争における悲惨な被害者の一つは、親を失った子供ですから」
「……でも師匠は子供の頃からずっと戦ってるんっすよね。じゃあ師匠も戦争の被害者と言えるんじゃないっすか」
「私は自分で言うのも何ですが、そこそこ強いので被害者と感じたことはありませんね」
「そこそこって表現は謙遜というよりもはや詐欺っすよ……」
そんな話をしながら歩いていると目的地の傭兵ギルドに辿り着く。扉を開けると、中に併設されている居酒屋はいつもにも増してのどんちゃん騒ぎで、そして俺を見ると既に席に座っていた傭兵たちはニヤリと笑って杯を高く掲げる。
直ぐに俺とケインにも杯(まだ夕方なのでノンアル)が配られる。そう、戦いの後処理が終わってすることと言えば。傭兵の一人が、ギルド内に響き渡るように大きな声で言った。
「主役が来たぞ! では少し遅くなりましたが人間牧場破壊及び、伯爵級の吸血鬼討伐成功を祝って、乾杯!!!」




