思わぬ再会
「吸血鬼倒したって言ったらパン屋の娘の顔が凄くてさ、ありゃあ俺に惚れたに違いねぇ!」
「お前にも遂に春が来たか、でもそれお前に惚れてるんじゃなくて実績の方にじゃないか」
「うっせえ吸血鬼討伐の名誉をいつ使うんだよ、今だろ!」
「ちゃんと言っとけよ、しょんべん漏らしながら吸血鬼に抱きつきましたって」
改めて思うが傭兵ギルド内はいつにも増して騒がしい。一部の傭兵(飲酒戦闘常習犯あるいは怪我などで非番が確定している者たち)を除いてノンアルのはずなのだが、まるで酒を飲んでいるのかと勘違いするほどの騒ぎだ。
因みに今中心の席で騒いでいるしょんべん垂れ流し抱きつきおじさん傭兵は今回のMVPの一人だ。死を覚悟で無理やり吸血鬼の動きを止めて、倒す隙を作ったとのこと。いやあガチで偉すぎる。揶揄われているが誰も彼の功績自体にケチをつけることだけはしない。
まあ結果が全てだよね、過程を気にすることができない環境では。
そんな中、俺の席には誰より多く傭兵が訪れる。
「マジで助かった、感謝だミナト!」
「いいですよ、それより皆さんが無事で良かったです」
「吸血鬼二十五体倒したらしいな、もうお前が真祖と言われても驚かんぞ」
「普通の人間ですよ、それに真祖が中に入り込んでいるならもうこの都市は終わりです」
「また孤児院に寄付したんだってな、一部くらい俺らにも分けてくれよ」
「アンバーさんも吸血鬼の首を落としたので報酬多めに貰ったじゃないですか、欲張りすぎですよ」
「ミナト、今度訓練頼むぜ」
「ええ喜んで」
食事に手をつける暇がないほどひっきりなしに傭兵が来て俺と話す。彼らの顔は皆一様に明るい。『大鷹』のメンバーではない俺にもわざわざ挨拶に来る彼らは、まあ本当に気の良い奴らだった。向かいの席に座るケインは頬杖をつきながら笑顔を浮かべる。
「人気者っすね、師匠」
「まあ、そうですね」
俺は若干歯切れ悪くケインに返す。そう、当然であるが彼らはチームで、熟練の、しかし普通の傭兵だ。だからこそ俺という異物に拒否感を示す者だっているに決まっている。そしてそれは、極めて正当であった。
「あいつどうなってんだよ、明らかに人間の力を超えている。実は吸血鬼なんじゃないか」
「あまり大きな声で言うな、一応助けて貰った側だぞ」
「でもあいつが裏切者なら関係ない。吸血鬼側の希望を見せてから落とすための偽りの英雄様の可能性もあるぞ。あいつに頼り切った伯爵領で突如あいつが裏切れば、すべてが終わる」
「だいたい金の大半を孤児院に送り自分で使わないってことは、もう金は必要ないってことだ。金しか与えられない傭兵ギルドはもうあいつを安心して扱える立場じゃない。最低でもギルドマスターの娘を嫁がせるくらいはしないと、もう話にもならない」
「あいつのせいで入院した仲間たちの名誉ががた落ちだ、俺たちの名声は英雄に付いていっただけになってしまう」
「あの強さを生み出す秘術を傭兵ギルドは強制的に奪い取って全体に共有すべきじゃないのか」
「金一部分けてくれよ!」
そう、当然なんだけど俺への反発はそこそこあるのだ。まあ人に好かれている人が嫌い、なんて人もいる、万人から好かれるのは不可能なのだ。英雄ロールプレイのお陰もあってこういう羽目を外すような場でもない限り俺の悪口は言いにくいように仕向けてはいるんだけど。
まあこれは救いではあると思っている。誰からも好かれる奴はいないということは誰からも嫌われる奴もいない、ということでもある。関わり方、特定のイベント、加齢。何らかの条件さえ整えば例外は起こる。例えば、前世と今の俺のように。
「師匠、あーん、っす」
「自分で食べますのでお気になさらず、ケインさんももっと食べた方がいいですよ」
「むーっ」
少し傭兵たちの挨拶が途切れた隙に適当に料理皿を貰ってきて口に運ぶ。傭兵は魔術師と前衛で食べる量が違いすぎるので宴会は調整のしやすいバイキング形式になりがちだ。勿論提供側が楽という理由もあるが。
うん、この肉、いい感じに塩が効いてて美味しく……はない。不味くもないのだが、昨日食べたアンリエッタ様のと比べると雲泥の差だ。これだからあまり高いのは食べたくないんだよな、このまま野宿で携行食を食べたらメンタルがやられそいである。
何故か自分の手で食べさせたいらしいケインを適当にあしらうこと数分。ようやく諦めたケインはアルコールは入っていないはずなのだが酔ったような表情で熱く語り始める。
「師匠、この前の戦いを見てて思ったっすけどやっぱり師匠の魔術はすごいっす、教えてもらうことってできたりするっすか!」
「魔術はコツコツ鍛えるしかありませんよ、筋肉と同じです」
「でも師匠の魔術って私たちの使うものと違うじゃないっすか。ならそれを使うのが一番早いんじゃないっすか」
遂に来ました省寿命希望者!いやケインはから俺に憧れ(にしては過度な気もするが)の感情を抱いているようで、以前からこの提案はあった。そして俺も実際に教えようとしたのだ。だが。
「前も言いましたが、色々あってギルドマスターに傭兵仲間内での意図的な開示、共有が禁止されているのです。私は納得いっていないのですが……」
だからマールさんに習得して欲しかったんだよなこの魔術。本当に残念だったんだけど。
俺がギルドマスターからの口止めに反しない範囲で理由を説明しようとした時、外からぐしゃりと何か重たいもの同士がぶつかり、ひしゃげる音が突如聞こえてくる。
話を切り上げ何が起きたと即座に傭兵ギルドの扉を開ける。太陽がほとんど沈んだ薄暗い大通りでは2台の馬車が衝突し交通事故を引き起こしていた。
片方の馬車は小作人のおっさんことホボリさん。そうしてもう一台の馬車に乗っていたのは、シグノーミさんとマールさんであった。
シグノーミさんとホボリさんは睨み合い、それを仲裁しようとするマールさんは周囲を見渡し傭兵ギルドから覗いている俺を見て、そして薄暗い中でも分かるほど動揺して一歩引いたのであった。
……そんな怯えなくていいじゃん、俺何もしてないのに。




