明るい奴ほど反転すると怖い
「吸血鬼狩りミナト~かのオッフェリア傭兵団を壊滅させた吸血鬼と一騎打ち~人間牧場に鳴り響く金属音~」
「うーん、今日の吟遊詩人は外れだな……なんか所々音程変だし、全然比喩表現とか上手く使えてない。さては新人だな」
吸血鬼狩りの朝は遅い。どれくらい遅いかというともう夕方、日が傾きかけている。酒場では人々が酒盛りを始め、吟遊詩人が歌を歌って一日の締めに向かおうとしている時に、俺はようやく目覚めるのだ。響いてくる吟遊詩人の歌に文句を言いながら、俺はベッドから立ち上がった。
サラリーマン時代の土曜日ですらこんなに遅くは起きなかった。とはいってもこれは決して夜遅くまでボードゲームをしていただとかそういう理由ではない。
吸血鬼は日光に弱く、夜に動く。そのため俺の仕事の大半は夜間であるため、生活リズムを意図的に崩しているのだ。
「吸血鬼狩りミナト~アンリエッタ様を助け~彼女は恋に落ちる~」
「だからダイレクトに言うなよ風情がないだろ、あとそれ言われると他の貴族様達や親父さんに睨まれるからやめてくれ、ビジネスパートナーで頼むってマジで」
部屋の外から聞こえてくる吟遊詩人の声に再び一人文句を言う。多分あの吟遊詩人は殺意のこもった伯爵(アンリエッタ様の父上)の視線を知らないから言えるんだろうけど。マジで目からビームが出てるかと思ったんだって。鉄とか溶かせるよあれ。
ちなみに吟遊詩人とはいうが、恐らく今酒場で歌っているのは本職ではない。五体満足の定職に就かない若者は概ね最前線に送られている。代わりに酒場の吟遊詩人はもっぱら復帰不能な負傷を負った元兵士が日銭を稼ぐためにやっていることも多い。戦況も相まって、対吸血鬼戦争関連を有名なフレーズに合わせて歌う、というのが一般的だがここトレイター領の最前線、ブルック城塞都市では俺のことが歌われることも増えてきていた。前世のような透明人間ではないことを実感できて少しうれしい。
俺は宿屋の部屋の中で鏡に向かう。平均的な身長と顔をした、筋肉質な若い黒髪の男が鏡には映っている。少し気になるところがあるとすれば腕と腹にまるで一度引きちぎられたかのような大きな傷跡があることと、少し前世の東洋人っぽい雰囲気が入っているような気がすることだろう。
前者は身に覚えがありすぎるので特に気にすることではないが、後者はマジで謎だ。生まれたときは金髪に近い茶髪だったのだが、年々髪色が黒くなり気づけばこの色だ。前世の肉体に影響を受けていたりするのだろうか。だとすれば腰痛だけは本当に頼むから引き継がないで欲しいところであるが。まあその前に寿命で死ぬのだろうけど。
髪形を整え、装備を身に着ける。皮鎧に金属のガントレット、膝当て。靴や首元の一部は金属板を入れ軽量化と防御力を両立している。……とはいっても接近戦を行う吸血鬼狩りとしては軽装すぎて自殺行為かと驚かれるレベルではあるのだが。
そして愛用の魔剣3本の準備確認、『唖狼頑剣ネガディール』OK、あと二本は……とベルトを締め直していた所で、扉が元気よく叩かれ、そして俺の返事を待たずに開かれる。
「おはようっす!!!!」
「夕方から元気ですね、ケインさん」
そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべた少女だった。茶色の髪をサイドテールにして纏めており、背が低く体つきは細いがそれなりには鍛えられている。頬にはそばかすがあり、太眉と少し褐色の肌、そして何より屈託のない笑みが最大の特徴だ。皮鎧に身を包んだ15歳の少女、ケインは俺と同じく吸血鬼と戦う傭兵である。
ケインは室内にいる俺を見つけ、どんと俺の胸に向かって飛びついてきた。ケイン特有の、前世で飼っていた犬のような独特の匂いが鼻をくすぐる。彼女は俺の腰に腕を回し、胸に顔をうずめてなんどかぐりぐり、と頭をこすりつけてきた後、腕は俺の腰から離さずに顔だけ上げて陽気に笑いながら言った。
「師匠、一緒に仕事行くっすよ!」




