コピー能力は不遇か最強の二択説
「シグノーミ様、ところで『人工勇者』とは一体何なのですか?」
「機密事項です、小生の一存ではお答えできませぬ」
「ケチだよシグノーミ、共に戦う仲間だから多少はいいじゃない」
「皇帝より許可が降りればまた検討しましょう、それより早く試合準備をしてください、マール」
「はーい」
『人工勇者』マールさんは庭の中心で木刀と盾を構える。スタンダードな盾を前に出し、剣を肩の上に上げるという構えだ。対吸血鬼戦だと盾は近接戦ではあまり頼りにならないが射撃攻撃を防ぐという点ではかなり優秀だ。が、マールさんは接近戦でも盾を使うタイプのようであった。奇妙なことは、わざわざ木刀の鞘を要求していた点であったが。木刀って刃ないから鞘はいらないと思うんだけどね。
マールさんは愛も変わらず快活に俺に手を振る。
「よろしくね『劫火』君。まだ若いのに相当やるんだってね」
「こちらこそよろしくお願いします、マールさん」
「マールお姉ちゃん、でもいいよ、年下だしね!」
「よろしくお願いします、マールさん」
「無視された!?」
対する俺は腰に魔剣を下げたままで、両手で木刀を頭上に構える。そのスタイルにシグノーミさんは笑みを浮かべるがマールさんは苦い表情を崩さない。庭の中心で俺たちは向かい合う。
それを遠巻きにアンリエッタ様とシグノーミさんは眺めていた。というかシグノーミさん、さっき杖を庭に突き立てて位置調整してたよね、魔術使うこと隠す気ないじゃん。いやまあ俺としては是非コピーして欲しいんだけど。俺の魔術は無断転載違法ダウンロード大歓迎となっております。一方、アンリエッタ様の表情は変わらず苦々しい。
「……ミナト様は負けません」
「小生にはそうは思えませんが。不意打ち頼りの傭兵とは違い、我が帝国の『人工勇者」は正面から吸血鬼に戦えるように設計しております。マール、投薬を」
「……はーい」
マールさんは観戦しているシグノーミさんに言われ、腰のポケットから一本の注射器を取り出す。あれ、この世界に注射器なんてあったっけ、と思っている俺を他所に彼女は自身の幾つも注射痕のある腕に注射を差し込む。
「……」
赤い髪に相応しい快活な笑みが一瞬で消える。ここにいないような、どこか遠くを見ているような表情になり、目から光が失われる。体が僅かに傾き、俺を静かに見つめる。
いやこれ『人工勇者』って思ったより100倍ヤバいやつなのでは? 戦闘系の違法薬物はいくつかあって傭兵たちの間で流通してるのは知ってるけど、結局副作用が強くて忌避されてるって聞いたけど。というかこの感じだと戦闘系じゃなくて暗示や催眠、あるいは魔術を付与しやすいよう肉体側を弄るような感じだろうか。
マールさんの様子を他所に、シグノーミさんは淡々と指示を出す。
「それでは初めてください」
「い、いいのですか?」
「勿論です」
異常な光景に審判役が狼狽える。が、俺が頷いたのを見て審判はカウントを始める。まあこれくらい追い詰められた人類ならやるよね。知らんけど。
「えー、それでは『劫火』ミナト殿と『人工勇者』マール殿、3、2、1、試合開始!」
「っ!」
「はぁああああ!」
カウントダウンが終了した瞬間、俺は腰に下げた魔剣『唖狼頑剣ネガディール』の力を使用し、寿命を対価にした『身体強化』の出力を一気に高める。そして一息で距離を詰め、大上段から吸血鬼に匹敵する筋力で木刀を振り下ろした。
マールさんは咄嗟に右手の盾で俺の木刀の側面を叩く。しかし吸血鬼に匹敵する筋力を相手にすれば、人間の筋力では対応できるはずもなく、俺の剣筋がブレることはない。それをみてシグノーミさんの感嘆する声が聞こえる。
「……『身体強化』だけでこれとは、なるほど噂は伊達ではない、確かにこれなら並の吸血鬼なら倒せるでしょう、しかし!」
シグノーミさんの言葉と同時にマールさんの体がずるりと後ろに下がる。彼女の足元を見ると薄い氷の膜が張っていた。マールさんは右手の木刀で俺の木刀を受け止め、抵抗せずに体ごと滑らせることにより力を見事に受け流していた。
マールさんはその滑って崩れた姿勢を立て直さず、むしろ風魔術の応用により体を加速させ、踊るように低い姿勢で一度ターンをする。そして俺の足元に向かって、木刀を突き出した。
「まだまだ隠している手札、ありますよね」
「っ!」
俺はそれを軽く飛んで躱し、着地する。マールさんは追撃できず、やむを得ず立ち上がり盾を構える。何というか、戦闘機械という感じである。勝てるための最善手を打ってくるというか。確かに対吸血鬼の剣術としては鍛え上げられている。力を受け流し、最短で反撃。使用する魔術も無駄に力を使わず最小限で最大限の成果を得ようとしている。でも。
「これだと男爵級の吸血鬼程度の戦闘力しかありません。勿論、普通の兵士よりは強いですが、剣術の技術を見ても各流派の師範代レベルには劣ります、国家機密になるとは思えません」
「……」
マールさんは光の消えた目でシグノーミさんを見るが、シグノーミさんは「まだです」と言いながら首を振る。するとマールさんは、中腰になり、木刀を鞘に戻す。俺はそれを見て唸った。その構えに、俺は見覚えがあった。
「……私の『抜刀』、いやその原型であるノースランド流奥義『爆雷剣』ですか」




