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自己犠牲英雄ロールプレイを満喫してたら何故か仲間たちが次々とヤンデレ化する件について  作者: 西沢東@『HAO』コミカライズ連載開始!


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貴族の依頼って実質強制だよね

 吸血鬼討伐の翌日、ミナトは傭兵ギルドの一室で伸びをする。


 あれ以降の人間牧場破壊はつつがなく終わった。詠唱を終えた魔術師たちが辺りを焼き尽くし、加えて吸血鬼たちが洞窟を再利用しないよう局所的な崩落を起こし全ての道を塞いだ。


 幸いにも傭兵達は大怪我をしたものは多数いたが、死者ゼロで任務を達成。実にお見事である。


 ……ここでたまに「ケインの分隊は吸血鬼にボコボコにされてたじゃんw」なんて言い出す奴がいるが、実は吸血鬼相手は1:10交換で十分だったりする。というのも吸血鬼は種族として仲間を増やすのに血を分け与えるという儀式を踏む必要があるため、個体数の増加に制限がある(このことから吸血鬼とはファンタジー的なウイルスの類ではないかと俺は疑っていたりする)。加えて餌の人間の入手が難しいため、吸血鬼の推定個体数は全人類の1%にも満たない。なので十人がかりで吸血鬼一体を倒せるのであれば、それは計算上十分な戦果とよべるのである。


 そんなわけで傭兵団の方々はマジで良くやってくれたのである。俺のことは例外すぎるので気にしないでほしい。ほら、重戦車を拳銃しか装備してない歩兵数人が倒したら本当に凄いじゃん、あんな感じ。


 不幸だったのは人間牧場で救出可能な人々がほとんどいなかったことだ。残念ながらほとんどの人が完全に「加工」された後であり、数人を除いては首を切りその場で火葬せざるを得なかった。……うん、残念だけどそういった人を善意でどうにかできるほど人類に余裕がないんだよね。治療魔術を使うなら若い見込みのある人に使いたいし。こう考えると本当に日本の医療制度は素晴らしいものだったと思い知らされる。


 そんなわけで翌日、傭兵ギルドの部屋に通された俺は一人待機しながら、魔剣『唖狼頑剣ネガディール』を起動していた。


 ……間違ってもクーデターではないので勘違いだけはないように。


 俺の使う魔剣は、「対価」として寿命を消費する。正確には残りの細胞分裂回数なのだろう。だから、急速に体にガタが出るし老化が加速していく。最近は油物が辛くなってきた。恐らく現在の本当の肉体年齢は外見より相当上のはずだ。


 そこで俺は一計を案じた。じゃあ老化による諸々を『唖狼頑剣ネガディール』の『身体強化』の効果で無効化すればどうかと。


 結論から言えばこれはそれなりに上手く行った。借金を借金で返す、自転車操業極まりない技ではあるが、これのおかげで残り寿命が少なくとも身体能力の致命的な衰えは現時点では発生していない。油物の件とかはあるけど、日常生活で急にぎっくり腰になってそのまま前線離脱、という心配はしなくて良くなっていた。


 というわけで日課の寿命消費を行っているとコンコンと扉が叩かれ、俺の返事を待たずに二人の男女が入ってくる。


 入ってきたのはアンリエッタ様とこの傭兵ギルドのギルドマスターであった。俺は立ち上がってアンリエッタ様に深く礼をする。アンリエッタ様は俺を見て少し頬を紅潮させ、砕けた笑みを浮かべる。


「いいのですよミナト様、わたくしたちの仲ですから」

「いえ、私は一介の傭兵ですので」


 自身の恋愛に関するセンサーをオフにしながら至極冷静に返事を行う。横のギルドマスターはこの空気感に若干驚いていたが、直ぐにアンリエッタ様を一番上座の席に案内する。しかし何故アンリエッタ様が来るのか。今日は昨日の仕事の清算という話なので、ギルドマスターだけいればいいと思うのだけれど。まさか俺に会いたいという理由だけで同席しているわけじゃあるまいし。


 俺の疑問を他所にギルドマスターは自分の用件を切り出す。


「さてミナト君、まずは礼を。昨日の吸血鬼討伐戦は死者ゼロの大成功に終わった。特に単独で吸血鬼を二十五体倒した君の功績は極めて大きいと思っている」

「……」

「ありがたきお言葉です」


 アンリエッタ様は以前の診断の話を思い出してか苦虫を嚙み潰したような顔をしている。そこはまあ置いておいてよ、凡人が活躍するには必要な経費なんですから。ギルドマスターはアンリエッタ様の表情には幸い気づかず話を進める。


「『大鷹』の吸血鬼討伐数は三体のため金貨三十枚、君個人の取り分は吸血鬼二十五体だから金貨二百五十枚だ。……毎度思うが、とてつもない戦果だ。未だに本部の奴らからは毎回事実確認が来るよ、傭兵団より一個人の方が遥かに成果を上げているなんてあり得ない、と」

「ありがとうございます、いつも通り一割だけ頂いて、残り九割は孤児院に寄付してください」


 俺の頼みにギルドマスターはうなずく。因みに孤児院寄付の理由はシンプルな英雄ロールプレイである。傭兵ギルドだと倒した吸血鬼の数に応じて特別報酬が出るんだけど、俺は一人でいっぱい倒せるからってそのまま貯金すると金にがめつい化け物、どころではなく強盗の心配をしないといけないんだよな、現在の社会だと。いやだぞ人類の内ゲバで省寿命化(俺の作った造語)するの。


 とは言っても自由に身動きできる金は欲しいので、九割は孤児院に納める、というルールを作ったわけである。勿論寄付時には俺の名前を伝えた上で。


 物価が都市によって乱高下しているため正確ではないが、大体金貨一枚あれば人一人が一ヶ月遊んで暮らせるということを考えると孤児院的には相当助かっているのではなかろうか。きっと地元では銅像が立っているに違いない。多分。


「本来は不要なお金は返還し新たな傭兵を雇う、対吸血鬼戦線の資金とするべきなのですが。何分昔の自分と同じ思いをしているであろう、この戦争の最中で親に捨てられた子供達を見捨てられないのです」

「流石はミナト様、なんて高潔な……」


 なんだかアンリエッタ様は感動しているけど、ごめんねこれ俺が承認欲求丸出し英雄願望キッズなだけなんだ。色々あったおかげでアンリエッタ様がイメージするほど苦しい孤児院でもなかったし。まあしない善よりやる偽善ということで、ひとまず賞賛だけは受け取っておくことにしよう。


 アンリエッタ様の目が輝いているのを見たギルドマスターが少し申し訳なさそうに咳払いをする。正気に戻ったアンリエッタ様は俺の目を見て、真剣な顔で告げる。


「さて、今回の件で分かった通り吸血鬼の攻勢がいよいよ勢いを増しております。そこでミナト様、報酬は金貨四百枚です。近日来られるとある方と連携し、近辺に侵攻してきている吸血鬼を一掃してほしいのです」


 何故アンリエッタ様がわざわざこんなところまで来たのか俺はようやく理解した。当然と言えば当然だが、純度100%の厄介ごとである。


「東の帝国が秘密裏に製造した『人工勇者』です」

「……」


 一切聞いたことのない、世間一般では知られていない存在。しかしおとぎ話の存在である『勇者』の名を冠する存在。勇者といえば、竜を倒し姫を助け出した剣士としておとぎ話では描かれている。間違いなく、突出した戦力なのだろう。少なくとも、金貨四百枚が惜しくないくらいには。


「これを引き受けて頂くにあたり、一つ条件がございます」


 続く言葉に俺は身構える。間違いなく前より厄介なことが待ち受けていると。そしてその予感は、概ね当たっていた。








「わたくしとデートしてください」


 ……権力乱用はルール違反っすよね。 

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