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日本人は働く必要が無くなりました。  作者: Katz
第1章 田舎暮らしに憧れて
30/32

1-27. 公開

前話のまとめ:千尋はオトコでした。

 唸って考え込んでいる虎江に克樹が言った。


「貴重な技を公開するのは、やはり難しいですか…」

「ん?そういうのは百何十年も前から変わってきてるわよ」


 秘伝やら一子相伝やらは、もうほとんど無いらしい。日本でマンガが少年少女に絶大な影響を及ぼすようになってきた頃から、武術は公開される傾向になってきたようだ。インターネットという強力無比な媒体の登場がその流れに拍車を掛けた。勿論流派などによっても違うけど、と虎江は説明してくれた。


「だから、今はネットでちょっと検索すれば、例えばウチの明道流なんかは独学できるようになってるわ」

「独学、ですか?」

「ちゃんと理解してる人に指導を仰がないと、大事な要点を勘違いして失敗する可能性は高いけどね」

「それにしても…」


 優秀な人材に興味を持って集まってもらわないと流派の存続に関わる。平和で娯楽の多い時代に本腰を入れて武術を学ぼうとする方が珍しいのだ。こればかりはロボットに代わってもらう訳にもいかないし、と虎江は笑う。


「すると、誇りを持って取り組んでいる技術を見世物にするのが問題とか?」

「そういうのも気にしないわねぇ。そもそも毛利派っていうのは、明道流の宣伝部隊として組織された所から始まっててね。元々目立つのが好きな人が集まってるし」

「えへへ~、アタシも元はアイドル志望だったのよ~?」


 真澄の言葉に克樹と達成は凍り付いた。それを見て真澄は口を尖らせる。


「な~によ~?」

「いや、あの、その、なあ克樹君!」

「僕に振らないで下さいよ達成さん!」

「ふ~んだ。愛しのダーリンが褒めてくれるからいいもんね〜」


 そう言って真澄は、涼しい顔で優雅にお茶を楽しんでいる千尋の腕を取る。衝撃的な告白に驚いた達成と克樹は、同時に大きな声を上げた。


「「えっ?!」」

「あれ?タッちゃんも知らなかったっけ?この2人は恋人同士なの♡」


 虎江の言葉に2人はまたしても凍り付いた。


 ☆ ☆ ☆


 衝撃の事実が続いて再起動するのに時間が掛かった達成と克樹は、とりあえず無視する事に決めた。


 本題に戻って、虎江が説明してくれる。


「地味なのよ」

「…へい?」


 予想の斜め上を行く言葉に、克樹は素っ頓狂な声を上げた。達成も目をしばたたかせている。


「そうね、有名どころを使って… 例えば李氏八極拳の沈墜勁で震脚すれば、しっかり転圧できると思うわ。でもね、震脚だけじゃねぇ。動きは小さいし、大きな音が出る訳でもないし、変化も無いし。分かり易く言えば、のっしのっしと歩き回るだけになるわよ」

「そうなんですか?なんかこう、ドシーン!とか、足を踏み鳴らす音がしそうな感じがしますが」

「震脚は、修行の段階が進むと静かになってくるのよ。足を叩き付けるんじゃなくて、踏み締めると言えば良いかしら」

「なるほど… 確かに地味ですね… う〜ん」


 克樹も腕を組んで唸る。


 そこで真澄が手を挙げた。


「はい!アタシやりたい!」

「いいのかい真澄ちゃん?こう言ってはナンだが、不本意な形で注目を浴びる切っ掛けになりかねんぞ?英語でも書く予定だし」


 達成が嫌な見通しをやんわりと伝えるが、真澄は強い眼差しで語る。


 気遣いは有難いが、自分も現実が見えてない訳ではない。

 この容姿でアイドルなんて、どう逆立ちしても無理な事はわかっている。

 それでも、道化に徹すればスポットライトを浴びるチャンスはあるだろう。

 道化役なら寧ろ自分に向いている。

 これまで正統派アイドルと同等以上を目指して芸を磨いてきた。

 その芸とこの容姿の強烈な違和感を武器にして、自分は舞台に立ちたい。

 しかし、色物となると国内だけでは市場が狭い上に不安定だろう。

 世界を相手にアピールするチャンスがあるなら願ったり叶ったりだ。

 自分はここで勝負に出たい。


 真澄の意思は固いようだ。



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