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日本人は働く必要が無くなりました。  作者: Katz
第1章 田舎暮らしに憧れて
26/32

1-23. 浪漫

前話のまとめ:克樹が心の底に沈めた悩みはアッサリと封印を解かれました。

「貝殻ぁ?何に使うんだそんな物。風呂からどうして貝殻の話になる?」

「お風呂の床に貼ってタイルの代わりにでもするのかしらぁ?」


 予想の斜め上の要求に、達成と雅美は素っ頓狂な声を上げた。


「いえ、ちょっと悪戯をしてみたくなりましてね」

「悪戯?」


 キラン、と言う効果音が聞こえたような気がする。達成の目が急に輝いた。この爺さん、もしかして昔は悪戯好きのヤンチャ坊主で手が付けられなかった口か?と克樹は思ったが、失礼な言葉は飲み込んで説明する。


「悪戯と言っても、天井からたらいが落ちてきたりする訳じゃありませんよ」


 達成があからさまにガッカリした表情をする。それを横目でチラッと見た雅美がクスクスと笑う。


「コンクリートの代わりに三和土たたきを使ってみたら面白いんじゃないかと思ったんです」

「三和土と言うと、古民家なんかの土間に使われてるアレか」


 今回のタリ山開発は、ブログにして公開するつもりだ。英語翻訳もしようと考えている。丸太小屋を作る過程は記事として面白いだろうが、世界を見渡すとそれほど珍しいネタではない。


 そこで三和土だ。三和土は和製コンクリートとも言われる伝統的な建築材料だ。その昔、明治時代にコンクリートが伝わって一般化するまでは良く使われていた。


 国内ではそこそこ知られていて、今も好事家などが施工する事例がある。しかし世界的には殆ど知られていない。丸太小屋や露天風呂と組み合わせて記事にしたら、面白がる人は多いのではないか。


 三和土の原料は職人や地域によって細かい違いがあるが、概ね、土と石灰と苦汁にがりを混ぜる。これを叩いて締めると非常に強く固まり、まさにコンクリートと変わらない。厳密に比較するとコンクリートよりは弱いようだが、しかし、耐用年数は三和土の方がずっと長いらしい。


 土はタリ山から掘り出して使う。苦汁は買う必要があるが、海塩の副産物として出来る物だ。そもそも現代エネルギーの中心であるマグネシウムの原料として大量に生産されていて、簡単に手に入る。


 問題は石灰だ。これも普通に流通していて、買っても良いのだが…


 ここまで克樹が説明すると、達成は察してくれた。


「成る程、それで貝殻か。貝殻を焼けば石灰になる。しかも目の前の湖では貝が養殖されていて、入手は簡単だ。ブログのネタとしても申し分無い。考えたな」

「お分かりになりましたか」

「ふん、ここまで説明されれば分かるわい。貝殻石灰と言えば土壌改良剤として使われる農業資材だからな。農村に住んどる連中なら誰でも知っとるさ」

「継続的に大量生産するなら本格的ないしばいがまを築く必要がありますが、個人が一時的に使う分だけですから、ドラム缶に焚き火で十分だと思うんです」

「うんうん、確かに面白そうだ。ただ、三和土は水に弱いと言う話があったと思うが、風呂場に使って大丈夫かね?」

「どうもですね、防波堤に使われた実績もあったりして、色々と話が食い違うんですよ。結局やってみるしかないかと。ダメだったら普通にコンクリートで作り直します」

「ふむう」

「それと、ちょっと時間が掛かりそうです。何だかんだで2ヶ月以上掛かりそうで」


 ここまで黙って聞いていた雅美が口を開いた。


「何だかデメリットが致命的な気がするわねぇ。お招ばれする立場でナンだけど、最初から普通のコンクリートで作るのはダメなのかしらぁ」

「それでは面白くないだろう」

「目的は露天風呂ですよねぇ?安定して早く作る手段があって、それだって何の不足も無いんですから、そっちにした方が良いんじゃありません?」

「う〜ん、お前には分からんかなぁ。ロマンだよ、男のロマン!失われた古代の超技術を発掘する。採算度外視の全力で物作りに挑む。こう言う事に男は燃えるんだよ、なあ克樹君!」

「あら、女にだってロマンはありますよぅ。ねぇあなた、覚えてます?新婚旅行で行った温泉の露天風呂。あそこで見た天の川はとっても綺麗で素敵でしたよねぇ。あなたと2人、また天の川を見上げて思い出に浸りたいわぁ。あぁ、早くお風呂が出来ないかしら」


 何だか急に甘ったるい話になった。達成は真っ赤になって「う、うむ」と唸っている。



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