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日本人は働く必要が無くなりました。  作者: Katz
第1章 田舎暮らしに憧れて
17/32

1-14. 朝食

前話のまとめ:克樹は知らない内に本家の跡を取った事にされました。

 本家の跡取り?いやいやそんな話聞いてませんよ、と克樹は小声で抗議するが、達成も雅美もいいからいいからとニコニコ笑っているだけで取り合わない。


 観念して、克樹も挨拶に立った。


「只今ご紹介に預かりましたどう克樹です。未だ十代の若輩者でして、この村では右も左もわからない新参者になりますが、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します」


 ぺこり。頭を下げた所で大きな拍手が沸き起こった。顔を上げて見回すと、何だか涙ぐんでいる御老人までいる。参ったなぁ…と克樹は頬を掻いた。


 乾杯の後は、とにかく入れ代わり立ち代わり皆が克樹の所へ挨拶に来る。まだ十代なので盃にはお茶を注いでもらい、持参した一升瓶で返杯する。こりゃあ良い酒じゃあ、流石は本家の跡取り、と訳の分からない感激の仕方をされて克樹は困ってしまう。


 そんな様子をあし夫妻はずっとニコニコして眺めていた。


 ☆ ☆ ☆


 歓迎会の終了後。酷いじゃないですかと克樹が抗議する前に、先に雅美に謝られてしまった。


「今日はご免なさいねぇ。本家の跡取りなんて急に言われて、びっくりしたでしょう」

「びっくりなんてものじゃありませんよ。何ですか跡取りって」

「何の相談もしなかった事は詫びよう。まぁ、本家だの跡取りだの言った所で何がある訳じゃなくてな。若い連中には何の意味も無いし、年寄の心の支えと言うだけだ。克樹君は気にしないで、普通にしていてくれれば良い」

「はぁ…」


 年寄がこう言い出したら、もう何を言っても無駄だろう。克樹は諦めるしかなかった。


 ひとまず明日は休みたい。明後日はドローンを使ってタリ山と周辺を見て回りたい、と日足夫妻に伝えた。


「それなら明後日はまずうちに来なさい。村の概要を説明して、それから、案内用のドローンを手配しよう」


 ご飯もうちで食べなさい、今日の詫びだ、と達成は笑った。


 ☆ ☆ ☆


 克樹は朝食を日足家で御馳走になった。


「うん、うちの飯は美味い!克樹君もそう思うだろう?」

「いやですよぉあなた。そんな言い方したら、はいとしか言えないじゃないですかぁ」


 実際、田舎らしく濃い目だが素朴な味付けはとても美味かった。


 日足家の料理は家事ロボットではなくて、雅美自身による手作りとの事。それが達成にとって大層な自慢らしい。


 今や大抵の家では食事も家事ロボットが賄う事が多い。人間の手作りの料理は少数派だ。しかも美味いとくれば、達成が自慢するのも無理は無い。


 食後は家事ロボットが食器を下げる。桑の葉茶を飲みながら、雅美が話し始めた。


「この辺りはねぇ、ほら、すぐそこに湖があるでしょう。色んな物が採れて、美味しいのよねぇ」


 ここの湖は魚介類が豊富だ。蜆に烏貝、海老、公魚わかさぎ、白魚、はぜ、鮒、鯰、鯉も。昔は自然に殖えた物を漁で採っていたが、今は全て養殖になった。養殖技術が発達して品種改良も進み、天然物よりも美味い養殖物が生産されている。


 夏には田圃たんぼの用水路を浚渫するが、その泥の中に大量の泥鰌どじょうが居る。これは柳川鍋にして食べるそうだ。但しこの辺りでは泥鰌を開かず、丸のまま煮込んでしまうらしい。


 食べ物ではないが、夏の風物詩として蛍も見られる。昔は農薬の影響でほとんど居なくなってしまったが、農業ロボットが導入されて農薬が激減してから復活した。夏の夜には田圃に沢山の蛍が舞って、蛍狩りを楽しめると言う。


「へえ、蛍狩りですか。綺麗でしょうね」

「えぇ、それはもう。沢山集めて庭木に放しておくと、縁側からも楽しめるのよねぇ」

「えっ?その場で眺めるだけじゃないんですか?」

「何言ってるの。狩りだもの、採ってくるに決まってるでしょう?団扇で上手に誘い込んで、こう、浴衣の袂に集めてねぇ。帰ってきたら庭木に放すのよぅ」


 虫捕り網も虫籠も要らない。数が多いから、個人が庭木に放す程度ならどれだけ採っても減る心配は無い。養殖ではないので、勝手に採ってきても問題は無いとの事。豪放磊落と言うのだろうか、田舎は都会とは違うものだ。妙な所で克樹は感心した。

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