フライパン侍、ムラマサ
派手なアクセサリーをふんだんに付けた男と着物の帯にフライパンを下げた男が往来のど真ん中で嬉しそうに話している。
その様子はあまりにも異常で道行く人はそこ避けて通り二人の男を中心にポッカリと人の円ができていた。
そんな状況でもアテムもムラマサも気にせず再会を喜んでいる。本来ならデイジーが何か苦言の一言でも言うのだが、今は放心状態でまるで役に立たない。
「その子が依頼主か?」
「そう、妖精のデジちゃん」
「え?あっ!デ、デイジーよ」
アテムの発言を取消すように食い気味に答えたがデイジーまだ衝撃に立ち直れていない。
「初めまして、ムラマサだ!よろしく!」
「よろしっ……うわぁ!」
ムラマサはデイジーの小さな手を握るとブンブンと乱暴な握手を交わした。いや、握手とは名のばかりの悪意の無い暴行に近い何かである。
デイジーの小さな体は激しく揺れ、アテムが慌ててムラマサを止めた。
ブンブン振り回された事によりデイジーは目を回しているがムラマサはそんな事は気にしない。
「それで本当か?精霊の森に行けば呪いが解けるってのは?そんなの初めて聞いたぞ?」
「必ずかは分からないけど大精霊様なら出来るかもって」
目を回して答えられないデイジーに代わりアテムが答えた。
「どうだい?何処に行ってもダメだったんだ。この可能性に賭けてみないか?」
「そうだな、当てもなくフラフラするよりよっぽどいい」
「じゃあ決まりだな!またよろしくムラマサ」
「ああ!また冒険者の高みを目指そう!」
二人は硬い握手を交わした。二人にとって感動の瞬間であるが周りの人から見たら不審者が結託した様にしか見えない。
二人のガッチリと力を込めた握手を立ち直ったデイジーは冷やかな視線を向けている。
「えっと盛り上がってるとこ悪いんだけど、依頼主としてアンタの呪いについて教えてくれない?」
「俺か?俺は手に呪いを受けた」
デイジーも気が付いていたがムラマサの手の甲から肘にかけて呪印が刻まれていた。禍々しい気配を感じる呪印はデイジーから見ても強力なものだと瞬時に理解できた。
「この腕に刻まれた呪いはありとあらゆる武器が持てなくなる呪いだ」
「武器が持てないってアンタ剣士って聞いたけど」
「そうだ、だが今の俺は刀を持つことさえ出来ない。刀どころじゃない、全てだ!全ての武器が持てなかった。槍も弓も盾すら持てなかった。俺は泣いたよ。生涯を武術に捧げてきたからな」
ムラマサは悲しそうな目で自身の手を見つめた。その心中は計り知れないだろう。見た目からして二十歳は超えている様なので少なくとも十数年は剣の道を歩いていた筈だ。それを突然呪いによって奪われたのだ。
「俺はパーティを抜けて当てもなく彷徨った。鍛えているから拳だけでも生きていく事は出来た。だけどそれじゃあ満たされない日々が続いた。何が抜け落ちたんだ。だがそんな状況でも腹は減る。飯屋で飯を食おうとしたら呪いによってフォークが持てなかった、ナイフもだ。まさかこんな物までと情けなくなった」
語るにつれムラマサの感情はより露わになっていく。目には悲しみが宿り、口元は噛み締めて悔しさを滲ませて、強く握った手には怒りすら見て取れた。
しかしムラマサの目に光が戻った。
「だけどスプーンは持てた。呪いはスプーンは武器とみなさなかった。その時俺は閃いた。台所に押し入りそこにある物を片っ端から持ってみた」
——迷惑な客だなぁ……
熱弁するムラマサに対してデイジーは冷めていた。あとちょっと話が長いなと思っていた。
「包丁は当然ダメだった。だけどフライパンは持てた。フライパンは武器じゃなかった!これだ!俺はこれを武器にすればいいんだ!」
ムラマサはフライパンを掲げた。道のど真ん中でフライパンを掲げて叫ぶ姿はどう見ても不審者である。不審者ここに極まれり。
「その日から俺はフライパンを手に再び武の道を極め始めた。それが俺のこれまでの話だ」
「ううぅ……よかったねぇ」
ムラマサの話が終わるとアテムは涙ぐみながら拍手をした。一人だけの拍手が街中に虚しく消えていく。
——これ感動話か?
そうデイジーは思ったのだった。




