チャラ男の名はアテム
チャラ男は周りの目も気にせず意気揚々と受付に向かった。
「受付ちゃーんこれ依頼の物ね、確認して」
手に持っていた皮袋を受付嬢の前に置き、受付嬢は袋を開けて中を確認した。チャラ男は何か一人でべらべら喋っているが受付嬢は慣れているのか黙々と中身の確認をしていく。
「はい、数は揃っています。こちらが成功報酬です」
「ありがとね!」
お金を受け取ったチャラ男は鼻歌を歌いながらギルドから出ようとしたところをデイジーの対応をしていた受付嬢が呼び止めた。
「アテムさん!ちょっといいですか?」
デイジーはどうか別人であってくれと祈っていたがやはりこの男がアテムらしかった。
「なになに?僕に何か用?今夜なら何も予定は無いよ?」
「そうではなくてこちらの方がアテムさんにお会いしたいと」
「ど……どうも」
先程まであれほど騒いでいたデイジーはこの軽薄そうな男を見てどう対応したらいいか分からなく言葉が出てこない。
「珍しい!可愛い妖精ちゃんじゃん!どうしたの?」
「こちらの方がアテムさんに直接依頼をしたいと」
「僕に直接?情熱的じゃん!」
「いや、あの……」
デイジーが何か言おうとしたがアテムは聞いちゃいない。
「じゃあ何か美味しい物でも食べながら話そう!丁度お金も手に入ったし」
そう言うとアテムはデイジーの話を聞くことなくさっさと歩き始めた。デイジーはどうにもできずアテムの後を着いていく。
「じゃあねー!またよろしくー」
アテムが元気よく別れの挨拶をすると先程まであれほど賑やかであった冒険者ギルドは嵐が去った様に一瞬で落ち着きを取り戻した。
アテムとデイジーはオシャレなカフェのテラス席に座っていた。ニコニコしているアテムと対照的にデイジーは険しい表情をしている。
「ここのジュースは美味しくてね!」
「ど、どうも」
アテムが勝手に注文した妖精には大き過ぎるジュースを目の前にデイジーは困惑しつつお礼を言った。
「僕の名前はアテム!よろしくね妖精ちゃん」
「デイジーよ」
「オッケー!デジちゃん。僕に話って何かな?」
「デジちゃん……!まあいいわ私が依頼するのは精霊の森で暴れる魔物の討伐よ」
何とか調子を取り戻そうとデイジーは真剣な表情に無理矢理戻して話し始めた。
「あれ?精霊の森にはそれはそれは強い精霊がいるから問題ないんじゃないの?」
「そうだけど今年は百年に一度神木であるユグドラシルに魔力を捧げる儀式があって大精霊様は動けなくなるの。そんな年に限って森の魔物は暴れ回って手に負えないってわけ」
「なるへそね。それで冒険者ギルドに討伐を依頼したと」
「そう、でもギルドはA級だかなんだかで誰も派遣できないって言ってるの!そんなのこっちは知らないわよ」
「まあ並の冒険者なら精霊の森で生き残るのは難しいだろうね」
「それで聞いたところアンタはA級に限りなく近いとかで……その……」
「ん?何?イケメン過ぎてびっくりした?」
アテムは変なポーズをしてカッコつけているが別にそんな事でデイジーは口篭った訳ではない。これまで見た瞬間からずっと疑問に思っていた事があった。
「いや、本当にアンタ強いの?精霊の森の魔物を倒せるとは思えないけど」
「倒せるかどうか分からないけど、A級に限りなく近かったのは本当だよ。事実僕達のパーティはA級の昇格依頼をやったしね」
「でも失敗してパーティは解散したって」
「それも本当」
「よく分からないけどまたその昇級依頼を受ければいいんじゃないの?失敗すると解散するもんなの?もしかして誰か死んだの?」
デイジーの考えはあっていた。昇級依頼に失敗したとしてもまた地道に依頼をこなしていけばまた昇級依頼の資格を得ることが出来る。
「誰も死んでないよ。ただ依頼の最中に僕等は強力な呪いを受けてね」
「呪い?」
「そう、パーティ全員が。それでまともに活動出来なくなって解散したの」
「アンタが受けた呪いって何?」
「ありとあらゆる呪いさ」
そう言うとアテムは指輪を一つ外してテーブルの上に置いた。するとアテムの体が徐々に石になっていく。それをアテムは当然のように受け入れていた。
「体が石に!」
取り乱すデイジーだがアテムがまた指輪をはめると石化は治り元の体に戻っていった。
「こうやって呪いを無効化するアクセサリーを常に付けてないと僕は呪いの効果を受け続けるの。ちなみに今の指輪は石化を無効化する指輪ね。それとこのイヤリングを外すと」
今度はイヤリングを外すと顔がみるみるうちに紫に変色していき、唇も真っ青になり病人よりも不健康そうな見た目になった。
「ゲホッ!猛毒に侵される……」
アテムが苦しそうにイヤリングを付け直すと顔色は直ぐに元に戻り健康そうな肌色になった。
「それじゃあ他の指輪も……そのネックレスも?全部そうなの?」
「そう、全て一つの呪いを無効化する為の物。一つ外すごとに無効化してた呪いが発現するの。毒、麻痺、眠り、凍結、酔い、不運、虚弱、混乱、凶暴化とか他にも色々ね」
アテムが自身が付けているアクセサリーを見せびらかした。そのどれもが呪いを無効化するアクセサリーであり、無駄な物は何一つ無い。
「まさかのチャラい性格も呪い?」
「あー違う違う、これ目の前が真っ暗になる暗闇の呪いを無効化する眼鏡なんだけど」
派手な眼鏡を外すとアテムの表情は一変、穏やかなものとなり非常に誠実そうで聡明な雰囲気を醸し出した。
「この眼鏡は暗闇を無効化する代わりに副作用として性格が明るくなるのです。今こうして喋ってるけどギリギリ自分の手元が見えるくらいでデイジーさんの事は何にも見えない。でも背に腹は変えられないでしょ?だから副作用を受け入れて付けているんです」
アテムがまた眼鏡を掛けると再び顔の筋肉が緩みどこか軽薄そうな雰囲気になった。
「そうしてまた眼鏡をかけるとデジちゃんの可愛い姿が見えるってわけ!……あれ?デジちゃん?どこ?」
アテムが目の前を見ると先程まで確かにいた筈のデイジーの姿が何処にも見えなかった。




