冒険者ギルドにやってきた
ここは冒険者ギルド。全国各地から様々な依頼が集まり、それを冒険者に斡旋していく場所である。依頼は魔物の討伐、素材収集、要人の護衛、犯罪者の捕獲、等多岐に渡る。
そんな依頼を遂行する冒険者は屈強な奴らでその腕に自信を持っている者ばかりである。その為、そんな奴等が集まったギルド内の空気はお世辞にも良いものではなくほんの少し殺伐としていた。
しかし、そんな奴等が集う場所にも関わらず今日は場違いな可愛らしい声を響かせる者がいて注目を集めていた。
「だから何でだめなのよ!」
受付の女性に食ってかかる声の主はデイジーという妖精であった。人の手の平サイズ程の彼女はその体格に似合わない大声をあげている。
デイジーは受付の前で持ち前の小さな羽で飛びながらプリプリ怒っていった。その様子を受付嬢は困った顔をしながら宥めている。
「何度も説明している通り精霊の森は強力の魔物が生息する危険度Aの地域でして、A級冒険者でしか立ち入りを許可できないのです」
「それは人間が勝手に決めた事でしょ?こっちは精霊の森の主人である大精霊様が来て欲しいって言ってるの!誰も立ち入り禁止にしてないの!」
「冒険者ギルドとしても無闇に冒険者を派遣して死なせる訳にはいかないのです。それにギルドが呼びかけても冒険者は集まりません」
双方の意見は何も間違っていなかった。
精霊の森は魔力に満ちておりそこに生息する魔物はその魔力を吸収して非常に強力な力を持っていた。その為冒険者ギルドは危険地帯として人の立ち入りを禁止していた。
しかしそれは人間側の理屈であり精霊の森の主である大精霊は別に立ち入りを禁止にしていない。森である為、関所も壁も存在せず入ろうと思えば誰でも入れるのだ。そしてそんな危険な場所に好き好んで入ろうとするのは金に目が眩んだ密猟者だけである。そんな密猟者も強力な魔物を前に何も出来ずに逃げ帰るのだ。
この二人の言い分は平行線を辿り全く決着がつかなかった。
「じゃあそのA級の冒険者とやらを紹介してよ。そうしないと私が大精霊様に怒られるのよ!」
「A級の冒険者は非常に少なくこの国にも片手で数える程しかおりませんし、全員国を跨いで重要な依頼を受けていて忙しいのです」
「でも聞いたわよ、この街にA級の依頼を受けた冒険者がいるって!だからわざわざこの街に来たんだから」
実はデイジーは他の街でも同じように揉め事を起こして依頼を断られていた。そしてこの街にA級冒険者がいるという噂を聞きつけわざわざやって来たのだ。
「A級のですか?そんな冒険者この街にいたかな……」
しかし受付嬢は全く心当たりがない様子であった。A級となれば受付どころか冒険者の誰もが知る存在の筈だがまるで思い浮かばない。その話に聞き耳を立てていた周りの冒険者も誰の事か分からなかった。
しかしある冒険者が一人だけ心当たりがあったのか呟いた。
「あっ、もしかしてアテムの事じゃないか?」
その名を聞き周りの冒険者もそうかもしれないと同調した。
「アテムってそうなのか?」「そうだアテムだ、アイツだよ」「確かにそうっちゃそうだけど」
デイジーはその様子を見て得気な顔になって受付嬢に詰め寄った。
「ほら!いるんでしょ?さっさとそいつを紹介して」
「いえ、その方はA級ではないのです」
「はあ?どういう事?まさか私を騙そうとしてるんじゃないでしょうね?」
「いえ、かつて限りなくA級に近いパーティがいたのです。しかしA級の昇級依頼に失敗してまだB級のままのです」
つまりアテムという冒険者はA級の依頼こそ受けたがまだA級ではない。誰の言い分も間違っていない、そんな冒険者であった。
「じゃあそいつらでいいから紹介して!それでそいつらがA級になればいいんでしょ?」
「ですがパーティは解散してその一人がこの街にいるだけです」
「それでもいいから!アンタと話してても埒があかないし」
「……分かりました、でしたらおそらく依頼を終えて戻る頃だと思います。その時に紹介します」
対応に疲れたのか受付嬢は諦めた表情になりデイジーの言い分を受け入れた。
デイジーは受付の椅子の一つを勝手に占領してその上に座り待つことにした。
デイジーがプリプリ怒りながら待っていると先程の受付嬢が声をかけた。
「来ました。彼がそのパーティの一人です」
「どいつよ」
「あの一番目立つ男の人です」
そう言って受付嬢が向けた手の先を見ると一人の男が楽しそうに歩いていた。
ド派手な眼鏡をかけて、その耳にはいくつものピアスが付けられている。首元にはジャラジャラとネックレスがかけられており、全ての指には成金の様に指輪がはめられていた。いや、成金でもここまでアクセサリーを付けたりしない。
一応腰には剣を下げているがその見た目からは到底冒険者には見えなかった。そもそもあんなに指輪をつけてまともに剣を握れるのかすら疑問である。
「え……チャラ……」
そんな姿を見てデイジーはそう漏らすしかなかった。




