四人目の仲間
一角獣盗難事件を無事解決した一行はそれからも魔法都市にだらだら滞在してギルドの依頼を細々と受けながら小銭をちまちま稼ぐ日々を続けていた。
そんなある日、いつものようにアテムが依頼の品を受付に渡した時である。
「終わったよー!これ依頼の品ね」
「はい、確かに」
受付の職員は品を確認して依頼完了の手続きをしていると、別のギルド職員が小さな紙を持ってアテムに近付いてきた。
「アテムさん、アッシュさんから伝言を預かっています」
それから少し後。
「えー皆様に集まってもらったのは他でもありません。なんとアッシュちゃんから返事が来ました!パチパチ!」
先程ギルドで受け取った伝言を伝える為に集められた一同はアテムの言葉に喜んだ。
「はーやっと連絡がついたのね。このままこの街で一生過ごすかと思ったわ」
中でも依頼主のデイジーは憎まれ口を叩いているが一際嬉しそうである。何せデイジーの依頼には明確な期限があるからだ。
「おお!やっとか!随分と待たせやがって」
「いやーこのまま返事が来なかったら三人で依頼を受けるか迷ってたからねー」
「俺は三人でも全然良かったぞ!それはそれで修行になるからな!」
「それはいいですから伝言にはなんと?」
話を進めないアテムとムラマサの会話をミネルバが遮った。アテムは受付嬢に渡された紙を読み上げた。
「えっとね、話があるならそっちから来いだって。今いる街も書いてある。結構近くてこれなら明日にでも着くよ」
「よっしゃー!これでようやく出発できるな」
「なら行きましょう。直ぐに寮に戻って準備をしてきます」
パーティーの意見はまとまった。どうせ断らないと思っているがアテムは一応依頼主であるデイジーの意見も聞いてみた。
「そんな感じだけどデイジーちゃんもそれでいい?」
「ええ!さっさと行ってそのアッシュとやらに会いましょ!」
「よし!それじゃあ昼前に馬車通りに集合ってことね」
一行は予定通り昼前に馬車通りに集まり、見送りに来たツンディーラの若干の引き止めがあったものの無事魔法都市を脱出した。
その日は小さな村で一泊して翌日は朝早くから馬車に乗り次なる仲間がいる街を一行は目指した。
馬車が目的地に着いたのは日が暮れる頃であり、通りには建物の大きな影がかかり道ゆく人は家路についていた。
魔法都市程の大きさはないがそれでもそれなりに大きな街である。この街で人探しをするとなると骨が折れるだろう。
「それでこの街のどこに居るの?」
「うーん、もう夕方だからギルドにはいないかな」
デイジーが伝言を受け取ったアテムに聞いてみてもはっきりとした返事は得られなかった。どうやら伝言には街の名前はあったが街の何処にいるとまでは言わなかったらしい。
「じゃあ飯屋だろ」
「そうだね!街の飯屋を見て回ろう!」
「安くて大盛りの店を探せば直ぐに見つかるでしょう」
ムラマサ、アテム、ミネルバが口々に飯屋という単語を出し、デイジーはそこから勝手に次なる仲間の姿を想像した。
「なに?アッシュって大男なの?」
デイジーの発言をアテムは笑いながら否定した。
「違う違う、アッシュちゃんは女の子だよ。それもうちのパーティーのシーフをしてたんだ」
「シーフ?泥棒って事?そんな奴がパーティーにいたの?」
「いや、そうじゃなくて。索敵とか罠外しとかそんな事をやってくれてた」
「随分器用な人なのね」
「そうだよ!アッシュちゃんは凄腕だから」
アッシュの情報を聞きながら街を歩いて良い感じの飯屋を探しているとある飯屋の前に通行人が次々に足を止めて中を見ていた。
「ん?あそこに人だかりができてるわよ」
「お!もしかしたら中にいるかもな。見てみようぜ!」
ムラマサの考えに従い一行は野次馬が店前を占拠する飯屋に向かった。
飯屋の前の野次馬は何やらざわつき変な盛り上がりを見せていた。
「おい、どんだけ食うんだよ」
「これで何杯目だ?」
「どこに入ってんだ?」
どうやら中では大変な大食いがおり、店の料理を次々に平らげているようである。
「ごめんねーちょっと通るよー」
アテムはそんな人混みを遠慮なく押し分けてズンズンと進んで行き騒ぎの震源地に向かった。
そしてようやく人の壁を押し除けて店の中に入り、異様に皿が積み上げているテーブルを見つけた。そしてその席で料理を食い尽くしている人物を見るとアテムは大きく手を振った。
「あっ!アッシュちゃん!やっぱりいた!」
「よう!久しぶりだな!」
「あ?アテムとムラマサか」
アテムとムラマサの嬉しそうな声と明らかに不機嫌そうな女の声がした。
デイジーとミネルバが後から追いつき、やっとその姿を確認した。そしてデイジーから発せられた言葉は「えっ……デ、デブ……」であった。
アテムとムラマサが嬉しそうに話しかけている女のテーブルには山盛り盛られた料理の数々と空いた幾つもの皿が置かれていた。
そしてその料理を食い尽くしていたのは頬も腕も腹も足も肉でパンパンの目付きが悪い女であった。
デイジーの漏らした小声が聞こえたのだろう。女はデイジーを睨みつけた。
「あ?!何だお前?」
「ごめんなさい、想像してた姿と違くて」
「何を想像してたか知らねーけど私がコイツらと昔組んでたアッシュだ。おチビさん」
アッシュは手を止めることなく食べながら挨拶をした。
アテムは明らかに不機嫌そうなアッシュの隣に座り気にせず絡んでいく。他のメンバーも席に座り店員に料理を注文している。
「調子はどう?アッシュちゃん」
「いいわけねーだろ」
「何で連絡くれなかったの?ギルドで仕事貰ってるって事は連絡したの知ってるでしょ?」
「妖精から依頼を受けたとかふざけてるとしか思えなかったんだよ。だけどミネルバも加わったらしいから少しは聞いてやる気になっただけだ」
アテムにこれまで連絡の無視を続けていた理由を悪びれる様子も無く答えているアッシュは常に食事を口に運び休む事なく食べ続けていた。
デイジーはそこが気になった。食べる量もさることながらずっと食べ続けている事に。
「あの?なんでずっと食べてるの?」
「あ?アタシの事話してねーのか?」
アッシュはアテムを睨み付けた。
「アッシュちゃんの事は自分の口から言った方がいいと思って」
「いらねー気遣いだよ。アタシが受けた呪いは食い続けないと倒れる、そして食うと太る、そんな呪いだ」
そう言い面倒臭そうに服を捲った。
「ほら、腹のとこに呪印があるだろ?」
服が捲られ露わになったアッシュの腹にはヘソを中心に禍々しい呪印が刻まれていた。本当にアッシュはただのデブではなく呪いによってデブになってしまったのだ。
「どんな呪いなのよ」
「知らねーよ、呪った奴に聞けよ」
「そ、そうね」
「んで?依頼の内容は?昔話をするだけなら帰れよ」
デイジーはアッシュに精霊の森で起きている状況を伝えた。もう何度も話している為デイジーもスラスラ説明していく。
大体話し終えたところでアッシュが真剣な目になって切り出した。
「それで?依頼の報酬は?」
「え?報酬?」
「タダ働きはしない。金の為に冒険者やってんだ」
「呪いを解くじゃ駄目なの?」
「呪いが解けるかもって話だろ?解けなかったらタダ働きになる。だからそれとは別に報酬が必要だ」
アッシュが言っていることは間違ってはいない、その為デイジーは困ってしまった。
「でも精霊の森はお金を使わないから払える物なんて……」
困りながら頭を悩ましているデイジーを見てアテムは微笑ましそうにその様子を見ていた。
「いつもこんな感じでアッシュちゃんが交渉してくれてたねー」
「やっぱり金にがめついアッシュがいるとパーティーが締まるぜ!」
「頼りになります」
「うるせー!お人好しに、戦闘馬鹿に、世間知らずのお嬢様じゃアタシがやるしかないだろ!お前らがタダ働きするのは構わないがパーティーの金やアタシの金が貰えないのは許せないんだよ!」
アッシュが三人を怒鳴りつけるが三人はどこ吹く風。ワイワイ思い出を語り合っている。どうやらパーティーの中ではアッシュが苦労人らしかった。
しばらく悩んだデイジーは結論を出した。
「やっぱり精霊の森にはお金は無いわよ」
「じゃあ金じゃなくても価値のある物を報酬にするんだな。ミネルバ、なんかあるか?精霊の森に」
アッシュのアテムやムラマサへの対応と比べるとミネルバについては信用している様であった。
「そうですね。中の生態がどうなっているが分かりませんが、確実にあるものとすれば神木の枝葉とかですかね。滅多に出回らず高値で取引されます。A級依頼の報酬としては相応しい物です」
ミネルバの話にアッシュは満足そうに頷いた。
「どうだ、デイジー?そっちはそれくらいしか出せないようだが報酬はそれでいいか?」
アッシュは交渉として多少ふっかけるつもりでデイジーに提案した。ミネルバはああ言っているが神木の枝葉はA級の依頼報酬でも破格の物である。出すところに出せばとんでもない値段で取引される。そしてアッシュはそんな場所を勿論知っていた。
もし神木の枝葉が駄目でも精霊の森で取れる物なら高値が付く。アッシュはそれを断った負目としてしこたま掻っ払うつもりでいた。
しかしデイジーはすっとぼけた表情をして答えた。
「え?いいよ。枝葉なんて神木にいっぱい伸びてるし。周りにもいっぱい落ちてるし。大精霊様に許可取れば問題ないよ」
デイジーの思わぬ発言にアッシュはニヤリと笑った。この日初めて見せたご機嫌な笑顔である。
「決まりだな。その依頼アタシも受ける」
アッシュはデイジーと握手を交わして正式に依頼を受けることにした。
「いえーい!これでアッシュちゃんも加わって残るとこあと一人だね!」
アテムはいつの間にか注文した酒を掲げて乾杯した。




