さほど大物でもない犯人
次の瞬間にはミネルバがドアノブに手をかけて扉をガチャリと開けていた。心の準備もなくあまりにも早過ぎる。
「躊躇無いのね」
デイジーが驚いている間にミネルバはさっさと部屋に中に入っていく。
部屋の中には中年くらいの男性の教員が驚愕の表情でミネルバを見ていた。
「な!何でここに!学園から出た筈では!」
ミネルバがここにいる事に驚くその態度はまさに犯人の反応であった。
「知ってる先生?」
「さあ?見覚えはありますが名前は分かりません」
「ミネルバが休んでいた時の講義に来たシットー助教授よ」
デイジーの質問に答えられなかったミネルバにツンディーラが優しく教えてあげた。
「そうなんですね。とりあえずシットー助教授。盗んだ一角獣の角を返して下さい」
「な、何を言っている!私が盗んだ証拠なんて何処にある!」
「いきなりその態度は自分が盗んだと言ってるようなものですよ」
盗みの疑いを突然かけられたのにそれを疑問に思う事なく証拠を出せと言ってのけたシットーは誰がどう見ても充分怪しかった。
「うるさい!いつも余裕ぶりやがって!ムカつくんだよ!」
「なんでもいいのでさっさと返して下さい。時間の無駄です」
「私が警備員を呼べばお前達は直ぐに追い出せるんだぞ!」
「その警備員は別件で今は来ませんよ。だから私達はここに入れているんです」
あっさりと反論されたシットーは何やらプルプルしている。
「あーもう!うるさい!いつもいつもお前は生意気なんだ!」
「これがその角?」
一人で勝手に盛り上がっているシットーの後ろでデイジーが魔力がありそうな角を持って飛んでいた。
「はい、そうです」
落ち着いて頷くミネルバと対照的にシットーは更に取り乱して行く。
「よ、妖精!いつの間に!」
「アンタがミネルバしか見てないから割と堂々と」
「ぐぬぬ……」
言い逃れできない状況になり悔しそうに唇を噛み締めるシットーの隣を堂々とデイジーは角を持って通り過ぎた。
ミネルバは淡々と告げた。
「これから旅に出るので使いたければ差し上げます。ですがご存知だと思いますが一応説明すると一角獣の角は所持と使用に資格が必要です。勿論ありますよね?」
「ぐっ……」
何も言えずにミネルバを睨みつけるシットーの態度でミネルバは察して呆れた表情を浮かべた。
「そうですか。簡単な試験を受けるだけなのですが」
「本当に簡単なの?」
デイジーはそこら辺の事情はよく分からないので第三者であるツンディーラに質問した。
「そんな訳ないじゃない。誰でも取れたら制限した意味ないでしょ」
「それもそうね」
その会話を聞いてシットーは怒りによって顔は真っ赤になっていた。だが決して反省の言葉を口にしたり謝ったりなどはしなかった。
ただただミネルバに憎悪に満ちた視線を向けるばかりである。
「資格も無ければ謝る気も無いのですね。資格者の義務です。捕まえましょう」
ミネルバの一言で部屋の空気が一気に変わる。シットーは壁に立て掛けてあった杖を慌てて握りミネルバに向けた。
「ホーリーチェイン!」
シットーが呪文を唱え光る鎖をミネルバに向かって飛ばして行く。それをツンディーラが杖を構えて対応していく。
「マジックバリア!」
ツンディーラが出した光る壁に阻まれたシットーの魔法は弾き返されて宙に霧散した。
それでもシットーは諦めない。
「はっ!魔法が使えないお前と生徒一人!それに妖精と犬だって!私に勝てるとでも?私は名誉あるスペリアル魔法学園の助教授だぞ!」
シットーは自分に言い聞かせ鼓舞するかの様に叫んでいる。
大の大人が杖を構えて威嚇しているがミネルバは全く動じない。デイジーもツンディーラさえも動じず、「この人勘違いしてるんだ」と少し可哀想な気持ちになって犬の姿のアテムを見た。
アテムは尻尾に通していた腕輪を腕に嵌めると淡く光り人型になっていた。
「よっと、ごめん僕は犬じゃないんだ」
「な!どういうことだ!」
想定していた戦況がガラリと変わりシットーは目に見えて焦り出した。
「ほらさっさと返しなさい!」
デイジーが声に我に帰ったシットーは形勢不利だと悟り、この部屋は四階だというのに窓を開けてそこから飛び出していった。
「窓から逃げた!?」
思わず声を上げたデイジーと一同は慌てて窓に駆け寄るとシットーの体はフワフワと浮きながらゆっくりと地面に着地した。
しかしその着地した所には既に先客がいた。
その姿を見たシットーは目を疑った。やたらとガタイのいい男が両手にフライパンを持ち学園の警備員と向き合っていたのだ。
まるで現実味の無い光景だが先程ミネルバが言っていた「警備員は別件で来ない」という言葉を思い出し、この事かと瞬時に理解した。理解したがこの状況は何も理解できない。
驚いたのはシットーだけではない。
「先生!どうしたのですか?」
警備員も何故か教員棟から降りてきたシットーに動揺していた。シットーも色々と混乱しておりどう説明したらいいか何も浮かんでこない。
そんな状況の中、四階の窓からデイジーがムラマサに呼びかけた。
「ムラマサ!」
「おーいなんか落ちてきたぞー」
「そいつが犯人!」
「こいつが?」
「捕まえて!」
ムラマサ躊躇なくフライパンを構えてシットーを見た。
「お前も奴等の仲間か!クソ!」
シットーは杖をムラマサに向けた。もはや警備員がいようが構わない。何とかこの状況から逃げ出すのが先決であった。
「フレイボム!」
シットーの杖の先から火の球が現れムラマサ目掛けて飛んでいく。およそ人に向けて放っていい魔法ではない。それをムラマサはフライパンで上空へとあっさりと弾き返した。何の焦りも無く簡単に。
上空に飛ばされた火の玉は教員棟より高い所で爆発した。
「弾き飛ばした……?嘘だろ……」
驚愕の表情を浮かべるシットーだが何故かムラマサも驚いたような表情をしている。
「え?弱っ……本当にあんたミネルバの先生か?」
ムラマサの言葉もシットーにもう届かない。
「まあいいや、手を出したって事はやり合う覚悟があるって事でいいよな?」
ムラマサはフライパンを振りながらシットーに近寄っていく。
「ひぃ!」
シットーは逃げることも出来ずにただ情けない声を上げるだけであった。
その後、シットーは警備員に連れてかれた。ミネルバは回収した一角獣の角を資格を持つ教授に預ける事で管理の問題を解決した。
色々学園からの事情聴取も終わりすっかり夕方になって解放された一行は慰労会として食事をしていた。
「見事、私のおかげで事件解決ね!私がいなければミネルバは捕まっていたんだから!」
「そうですね」
何故だか胸を張り自分の手柄にしているツンディーラを淡々とした口調でミネルバは相手をしている。
それとミネルバが羽織っていたローブにも魔法陣が描かれていた。その為、別に何もしなくてもミネルバはシットーの魔法を弾き返せてたのでツンディーラの活躍はいらないと言えばいらない。ただそれを言うほどミネルバも子供ではない。
「なんか学園の噂になってるらしいじゃん」
アテムがミネルバの横にやってきて山盛り料理が乗っている皿を差し出した。
「別に構いません。どうせ直ぐにいなくなるので」
「クールだねー」
「事実です」
そう言うとミネルバはアテムの皿から少しの肉と野菜を貰いまた黙々と食事を取り始めた。
しばらく食べているとミネルバは「そうだ」と言い、急に何かを思い出した様にツンディーラを見た。
「私の部屋の鍵、ツンディーラが持ってて下さい。貴方なら信用できそうなので」
突然の提案にツンディーラは目を白黒させて取り乱した。
「な!え!わ!か、鍵?私が?も、勿論いいわよ!私がミネルバが帰ってくるまで管理してあげる!大変だろうけどね!感謝しなさい!」
「大変ならいいです」
「大変じゃない!やるって言ってるの!ほら!早く鍵を出して!」
「いやまだ使います。旅に出るときに預けますので」
「そ、そんなの分かっているから!」
顔は赤面し声も上擦りながらツンディーラは精一杯の強がりをして何とか取り繕うとしているが周りはバレバレである。
そんな可愛らしい少女達のやり取りを周りはニヤニヤしながら見守っていた。




