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大きな本と魔法陣

「ここが闘技場か!いいじゃん!いいじゃん!」

 大きなホールに響き渡り反響する程の大声でムラマサが叫んだ。

 中央のステージをどこからでも見れるよう、取り囲むようにぐるりと二階に観客席を作った広間にアテム一行はミネルバに案内された。

「そんな物騒なとこではありません。魔法の模擬練習に使う広間です。魔法に当たっても怪我しないよう工夫されています」

 ミネルバが連れてきた広間にはアテム達以外にも野次馬がぞろぞろやってきて二階にある椅子に座って二人の模擬戦を観戦しようとしていた。中には先ほど警戒していた教師陣の姿もある。それほどこの決闘は学園の関心を集めていた。

「凄い!決闘し放題じゃないか!俺にも使わせろ!アテムとやる!」

「いいねー久しぶりに手合わせしちゃう?」

 ムラマサとアテムは二階の手すりから身を乗り出して一階にあるステージを子供のように見ている。

「怪我しないのは魔法だけです。剣で攻撃すると死にます」

「えーつまんねーの」

 ムラマサは残念がったがミネルバは無視した。

「では準備がありますので私はここで」

 ミネルバと一度別れて二人は椅子に腰を下ろし、デイジーはアテムの肩に座った。落ち着いたところで改めてデイジーはアテムに問いただした。

「ねえ、本当に魔法が使えないのに勝てるの?」

「勝てるよ。どうやるかは知らないけど。ミネルバちゃんはそういう子だから」

「どんな子よ」

 野次馬達は好き勝手に喋りどっちが勝つのか予想していた。学園の人間でさえ意見が割れるのにアテムはミネルバが勝つと言い切った。

 しばらく待っていると一階の扉が開きミネルバが入ってきた。

 再び現れたミネルバは大きな本を二冊抱えている。その本は小さなミネルバと比較しても大きく、ミネルバの肩から腰をスッポリ隠してしまうほどであった。

「何あの本?デカくない?」

「ふーん、それがミネルバちゃんの答えね」

 デイジーはよく分からないがアテムは一人で納得していた。どうやらあれがミネルバが勝てる理由らしい。

 デイジーが不思議そうに見ているとミネルバが振り返りデイジーに声をかけた。

「ではデイジーさん。見ててください。私が依頼を受けるに相応しいか」

「ええ、ばっちりと見とくから」

 中央のステージにミネルバとツンディーラが上り向かい合った。

 ツンディーラは背丈ほどの長い杖を持って立っている。

「準備はいい!ミネルバ!私が勝ったら学園に残るのよ!」

「分かりましたから、私はいつでも構いません。誰か開始の合図を」

「じゃあ私が」

 争いの発端であるデイジーが立候補して二階の手すりに降り立った。すうっと小さな体にたくさんの息を吸い込む。

「始め!」

 デイジーの合図と同時に動き出したのはツンディーラである。

「アイスニードル!」

 杖をミネルバに向かって構えてると杖の先端から氷の棘が出現した。先端は鋭利で当たれば突き刺さるのは誰の目にも明らかである。

「ほえー演唱無しだ。流石ミネルバに突っかかるだけの事はある」

 魔法は本来長い演唱してから発動するのだがツンディーラはそれを行わずに魔法を放った。

 アテムがツンディーラの魔法に感心していると氷の棘がミネルバに向かって飛んでいった。このステージ上では怪我しないらしいのでツンディーラはお構いなく人を殺す勢いで氷の棘が飛ばしている。

 ミネルバはその場にしゃがみ込み、大きな本を広げて本の上に手を付いた。

 するとミネルバの周りに地面が盛り上がり大きな木の根が伸びた。氷の棘は木の根に突き刺さりミネルバに届くことはなかった。

「あれ?魔法を使ってるわよ?何で?」

 デイジーが疑問に思うのは無理はない。ミネルバは明らかに魔法を使っている。地面から木の根を生やすなど魔法以外の何者でもない。

「あれは魔法陣だね。本にあらかじめ描いてある魔法陣に魔力を流して魔法を使っているんだねー」

「なるほどそれだと魔法を唱えなくても魔法を使えるのね」

「でも魔法陣に描いてあるのしか使えないから……ほら」

「フレアウィング!」

 アテムが指差す方を見るとツンディーラが別の魔法を唱えていた。炎の鳥が現れるとミネルバに向かって突っ込んでいく。

 木の根が焼かれるとミネルバは本をめくり別のページを開いた。そこに手を当てると今度は土の壁が地面の下から盛り上がって炎の鳥を防いだ。

「手を変えてきたね。そんでまた無演唱。まだ若いのに凄いねぇあの子」

「押されてない?大丈夫なの?」

 感心ばかりしているアテムだがデイジーは心配していた。さっきからミネルバは防戦一方で自分から攻めに転じられていない。

 そんな状況でもムラマサもアテムも平然としている。

「さあ?でも俺はミネルバが魔法で負けるとこは見たこと無いな」

「僕もだね。魔法に関してミネルバが負ける事は無いよ」

 二人がそう言うならそうなのだろうとデイジーは納得してミネルバを見ると持っていたもう一つの大きな本を床に置いた。

 新たに出した本に手を当てるとミネルバの周りにから一気に水が吹き出して波となり周囲に広がっていく。

「もう一冊出したね。二つ同時に発動するのか。器用だねー」

「難しいの?」

「魔法は魔力を流し過ぎると暴走するから。それに二つ同時に魔力を供給しないといけないから膨大な魔力が必要になるね。さらっとやってるけど大分おかしいよ」

 アテムの解説は合っているようで周りで観戦していた魔法使いもどよめいている。どうやらミネルバがやっている事は常人には無理らしい。

 ツンディーラの膝下まで水が達すると今度は水が一気に引きミネルバに向かって渦巻いていく。

 杖を立ててなんとか耐えていたツンディーラも遂に耐え切れなくなり尻餅をついて全身水浸しになった。

「きゃ!ちょっと!体が!」

 ツンディーラは必死にもがくが水の流れに抵抗できずにどんどんミネルバに引き寄せられる。

 ミネルバは再びページをめくり手を置くとまた大きな木の根がミネルバの周りに伸びた。

 ツンディーラがミネルバの目の前に流されて連れてこられると大きな木の根が倒れビタンとツンディーラを叩きつけた。

 かなりの衝撃らしく大きな音を立てて二階席まで水飛沫が飛び散った。

 ミネルバが本から手を離すと木の根も水もたちまち消えて無くなり仰向けで倒れるツンディーラだけが残された。勝負を決した。

「膨大な魔力量に加えて瞬時に必要な魔法が分かる知識量。さらに二つの魔法陣を使いこなすセンス。ミネルバは間違いなく天才だね」

 勝負に勝ったミネルバは特に嬉しがる様子もなくデイジーに近づいた。

「私の勝ちです。どうでしょう?私の実力は」

「凄い!やっとパーティにまともな人が来てくれた!」

 ようやく見た目も中身もまともそうな人間が仲間になりデイジーは喜んだ。その後ろでアテムとムラマサはブーブー文句を言っている。

「えー僕らもまともだよー?」

「そうだ!そうだ!この差別妖精!」

「うっさい!黙ってなさい!」


 試合が終わればもう用はないのかミネルバはさっさと旅の準備を済ませて校門にやってきた。

「休校の手続きも済みました。では出発しましょう」

 ミネルバにパーティに加えて学園から出ようとしたその時「待ちなさい!」と、またツンディーラの声が響き渡った。

 ミネルバはあからさまに面倒臭そうな表情をしてツンディーラを見た。

「まだ何か用ですか?」

 ツンディーラはズンズンと足音を立ててミネルバの目の前に立った。

「必ず帰ってくるのよ!約束だからね!何かあったら許さないから!」

「約束はしませんが当然帰ってきます」

「いいから!ほら手!出して!指切り!」

「えー別にやらなくてもいいです」

 嫌そうなミネルバに無理やり指切りをして約束させたツンディーラを見てアテムとムラマサは感動をしていた。

「うーん青春だねー」

「熱い青春だ。泣ける」

 二人してウンウン頷いて満足そうな顔をしている。若者の青春に大人は弱いのだ。

「そうですか?これって青春なんですか?」

「いや、私に聞かれても」

 ミネルバはデイジーに質問するが当然デイジーも分からない。

 こうして紆余曲折がありながらもミネルバは無事にパーティに加わった。


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