第五十七話「最後の抱擁」
朝の光が、三人を照らす。
アレクシスの言葉は、静かに重く落ちた。
広間は、しんと静まり返る。
リリエルの鼓動だけが、やけに大きい。
その沈黙を破ったのは、マキシムだった。
小さく、息を吐く。
「……そうか」
怒りでも、嘲りでもない。
ただ、確かめるような声音。
マキシムはリリエルを見る。
その視線は、もう奪う者のものではない。
「俺は」
低く、静かに言う。
「お前を救いたかった」
リリエルの目が揺れる。
「ルーカスに捨てられ」
「再婚になる男のもとへ送られ」
「世間に値踏みされる未来が、許せなかった」
拳を握る。
「俺なら、最初から隣に立たせられると思った」
「傷のない立場で」
「堂々と」
そこで、わずかに笑う。
自嘲気味に。
「だが」
視線をアレクシスへ向ける。
「どうやら、俺の出番は遅かったらしい」
静かな敗北宣言。
しかし、その背は折れていない。
マキシムは、ゆっくりとリリエルに向き直る。
「物ではない、と言ったな」
一歩、距離を取る。
「ならば俺は、奪わない」
その言葉は、誓いのようだった。
そして――
朝の光の中で、彼はそっと手を差し出す。
最後の確認のように。
リリエルは、ゆっくりと首を横に振った。
その瞬間。
マキシムの表情が、崩れる。
泣き崩れる寸前のような、複雑な歪み。
誇りと、未練と、どうしようもない想い。
彼は一歩近づき――
最後に、強くリリエルを抱きしめた。
一瞬だけ。
震える腕で。
「……本当に、愛してたんだ」
かすれた声。
「幸せになれよ」
その言葉に、嘘はない。
リリエルの瞳にも、涙が浮かぶ。
だが彼女は、もう揺れない。
マキシムは静かに離れた。
振り返らず、光の差す方へ歩いていく。
扉の前で、足を止める。
「アレクシス」
低く、しかしはっきりと。
「次は守るだけでは足りない」
わずかな間。
「愛せ」
それだけを残し、去っていった。
扉が閉まる。
広間には、光と静寂。
そして――
本当の選択だけが残った。
ルーカスもマキシムも、
こんなに1人の女性を愛せて、
叶わなかったけど幸せだったのだと思います!
最終章に突入です!




