第五十五話「嵐の目、あるいは一輪の反逆」
「……承諾?」
父が、私を。
私の知らない場所で。
勝手に私の未来を、切り売りしていた。
胸の奥が、ひどく冷えていく。
アレクシスとマキシムの視線が、空中でぶつかり合う。
それは守護などではない。
まるで私という獲物を挟んで値踏みし、
分配を論じているかのようだ。
その瞬間。
私の中で、何かが音を立てて切れた。
「やめてください」
小さな声だった。
だが、その一言は静寂を裂き、重く響く。
二人が同時に、弾かれたようにこちらを見る。
リリエルは、自分を囲い込もうとしていたマキシムの手を、拒絶するように外した。
そして、ふらつく足取りながらも、一歩。
二人の男の間に立つ。
「私は、物ではありません……!」
空気が、震える。
「譲る、とか」
「預ける、とか」
「承諾をもらった、とか……」
震えていたはずの声が、怒りとともに次第に熱を帯びていく。
「そこに、私の気持ちはどこにあるのですか?」
マキシムが、言葉を失う。
アレクシスもまた、己の慢心を見透かされたように、ただ黙り込む。
「お父様が決めたから? 契約だから? ……それとも、世間の体裁があるからですか?」
視界が涙で滲む。
それでも、彼女は決して視線を逸らさない。
「私は、誰かの名誉のために生きているのではありません」
「誰かの体裁を守るための、都合のいい駒でもない……!」
胸に手を当てる。
「私は、私です」
静寂が支配する。
崩れた天井から差し込む夜明けの光が、
真っ直ぐに彼女を照らし出した。
その姿は、もう誰かに「預けられた令嬢」などではない。
「選ぶのは――私です」
空気が、一変する。
マキシムの指先が、力なく下がる。
アレクシスの瞳が、後悔と驚愕に激しく揺れる。
男たちが築き上げた「救済」という名の欺瞞が、
足元から崩れ去っていく。
男たちの支配が及ばない、
嵐のその中心に立っているのは――
紛れもなく、リリエル自身だった。
自分に自信の無かったリリエルが、
アレクシスとの日々で
少しづつ成長してからの、今があります。
ラストまで、あとわずか!
見守って貰えると嬉しいです!




