第五十三話「嵐の始まり」
リリエルは、無意識のまま階段を駆け下りた。
裸足のまま。
冷たい石の感触さえ感じない。
ただ、目の前の人へ。
「アレクシス様――」
抱きつこうと手を伸ばした、その瞬間。
ぐっと腕を掴まれた。
「……っ」
振り返る。
そこには、マキシムがいた。
驚くリリエルに、彼は一瞬だけ複雑な表情を浮かべる。
けれどすぐに、それを押し隠すように力なく微笑んだ。
「遅かったな、アレクシス」
低い声が、静まり返った広間に落ちる。
階段の影から一歩、前へ出る。
リリエルの腕を掴んだまま、静かに立った。
「お前にとって、リリエルの存在はその程度だったということか?」
空気が凍る。
アレクシスの瞳が鋭く細まった。
「マキシム、貴様……!」
一歩、踏み出す。
「よくもそんなことが言えるな。ビリーが死んだんだ」
その声には、抑えきれない怒りと、隠しきれない疲労が滲んでいる。
「知らなかったとは言わせないぞ」
マキシムは視線を逸らさない。
「ああ、知っている」
静かに、言い返す。
「だがな。呪いの後遺症で苦しんでいたリリエルを放っておいてまで、ビリーを看取ることは、俺にはできなかった」
「……!」
アレクシスの拳が震える。
今にも殴りかかりそうなほどに。
どちらも、引かない。
火花が散るような沈黙が落ちる。
その中で――
アレクシスは、ふいにリリエルへ向き直った。
怒りの色が、すっと消える。
「もう、起きても大丈夫なのか?」
低く、掠れた声。
「……俺のせいで、痛い思いをさせた」
視線が揺れる。
悔いと、自責と。
「すまなかった」
リリエルは、強く首を振る。
「アレクシス様のせいではありません!」
掴まれた腕をそっと引き、半歩前へ出る。
「全ては、呪いの花のせいです」
その言葉に、マキシムの瞳がわずかに揺れた。
――呪いの花は。
アレクシスがリリエルを想わなければ、
苦しめることはなかった。
その事実を、マキシムはまだ伝えていない。
伝えれば、彼女はどう思うのか。
アレクシスに気持ちが傾くのか。
それを知りながら、今は口を閉ざしている。
夜明け前の冷たい空気の中。
三人の視線が絡み合う。
誰も、退かない。
嵐は、まだ始まったばかりだった。
あなたはマキシム、アレクシス
どちら派ですか?
正反対な2人、こんな事があっても
友情は残って欲しいと違う事を考えながら
書き進めています!
続きが気になる方は、
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